大切な友達。
「な、な、なな、ナニって」
「タイガもバミも、ロストール家って言う公爵家の遠縁の出身で……僕らと歳が近いから側仕えとしてウチに来たって」
「そ、そうね!?」
ちなみにブルーさん(青龍)もトーダさん(騰蛇)も、人型の時はロストールを名乗っている。
「……でも、さっきの身のこなしも……魔法、みたいな炎も──」
あ。
「ねえ、シャル」
わたしはシャルの言葉を遮って、冷たい両手をそっと握った。
次に続く言葉が何となく分かったから。
そしてそれをシャルに言って欲しくなかったから。
──“普通じゃない”──
凪いだ瞳で何も言わないバミと、きっと馬車の屋根の上で会話を聞いているタイガも。
人間より遥かに長い時を生きる中で、同じような意味の言葉を言われた事があって、慣れているかも知れない。
でも、それは慣れただけだ。
傷つかないわけじゃない。
シャルのように親しくしている者から言われたら、どれだけ心が血を流すだろう。
そんなの──ダメだ。
「タイガとバミは、護衛としてもわたし達の側に居てくれているの。二人とも、お義兄さまのお眼鏡にかなった強さを持ってる」
「……」
「側仕えであり、護衛であり──大切なお友達。そうでしょ?」
「……うん──うん」
しっかりわたしと目を合わせて言い切ったシャル。
「……でもさー、あんなに強いのなんで教えてくれなかったのさ。知ってたら稽古を付けてもらったのに!そしたら実技の成績も上がってたよ、きっと!」
「あら、中等部も評価表をもらったの?」
すっかりいつも通りに戻ったシャルに、わたしも調子を合わせれば、あっという間に日常がかえってきた。
公爵家の結界に入り、馬車の中にタイガが戻り、さらに賑やかになる。
育ち盛りのシャルが「お腹減った!」と騒ぎ、タイガが「今日の晩飯なんだろーな!」と笑う。
……ああ、良かった。
誰も傷つかなくて。
胸の奥がほわっと温かくなり、膝に乗せていたぴーちゃんの体温もあってか、身体がぽかぽかする。
「……姉上」
「「……ルルさま」」
「ん?」
シャルが頭を抱えた。
「光魔法の安売りヤメてよ……」
あらやだっ!?出てました!?メンゴ!
「おお!四人とも凄いじゃないか!」
夕食後、サンルームにみんなで集まり、お義兄さまに評価表を見せるとめちゃくちゃ喜んでくれた。
一人ひとり、頑張ったところを褒めて、私の番。
お義兄さまはうんうんと頷いて、わたしの頭を撫でて微笑む。
「ルルは復学してすぐに中間テストだったのに……頑張ったね」
「う、でも、わたしの場合ぴーちゃんのおかげな部分も大きいですし」
部分どころか、ほぼほぼ『ぴーちゃん☆ポイント』なんだわー……。
「何を言う。そもそも“黄金の不死鳥”レベルの召喚獣を召喚できた事自体が、とんでもない話なんだよ?」
「姉上って、そう言うところのニンシキがちょっとアレだよね」
む。
だ、だって仕方ないと思うのよ?
『自分の魔力』を意識した上で『まともな魔法』を使ったの、初めてだったんだからね?
そりゃ、認識も自覚もないわよぅ……。
「初めてで、結果がぴーちゃんってのがオカシイよね?兄上」
「そうなんだよなぁ……ルル、ぴーちゃんがどの程度レア召喚獣なのか分かってるかい?」
「えっ」
改めて聞かれると、ちょっと自信がない。
ウチの図書館で召喚獣についての書物を読みはした。
──難しかった。
正直なに言ってんだかさっぱり。
ま、まあ要約すると『めっちゃレア』的な事が書いてあったような?
もっと簡単に分かりやすく書いてある書物はないものかしらねー。
ほら、ペット飼う時に読む『はじめてペット』みたいな。
「……ぴーちゃんには何を食べさせたら良いか知りたくて、召喚獣の本を読んだんですが……良く分からなくて」
ぴーちゃんがぱたぱたと飛んでくる。
肩に止まった小さなふわふわの頭を指でちょいちょいと撫でる。
「でも、好き嫌いもなさそうだし、いっかなって!」
えへへと笑うと、お義兄さまだけじゃなく、全員が頭を抱えてしまった。
「ルル……本で調べようとしたのは偉かったね」
でしょでしょ!?えへへ!
「じゃあ、問題だ。この世界には、神格を持つ召喚獣は何体いる?」
「え?えっと……」
召喚獣にも格があり、個体数が少ないほどレア度が上がる。
その中で『神格を持つ』──つまり、神にも等しい召喚獣は各種一個体──唯一無二の存在。
「確か、十体?」
「正解。“十神獣”とも言うね。……ぴーちゃんは、そのうちの一体だ」
はえ?
「ちなみに十神獣のうち二体は私の召喚獣だから、いまロックフェルド公爵家には三体の神獣がいるって事だね」
なんですと!?
じゃあ、いつもぴーちゃんと遊んでくれている子たちの中に二体も神獣がいたの!?
せ、世界に十体しかいないのに、それが三体もウチに!?
うそぉ……!
これはシャルも初耳だったようで、目がまん丸だ。
「ちょ、ちょっと兄上、我が国のパワーバランスって……」
「ハッハッハ!」
「笑い事じゃないんだよなァ!?姉上はぽかんとしないで!?」
兄上は良く出来た生徒を褒めるみたいにシャルの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「シャルは頭の回転が早いなぁ。──そう、皇室は我がロックフェルド公爵家に力が集中している事に警戒している」
そこでわたしに視線が向く。
え、なんでこっち見るの。
「しかも、公爵令嬢が聖女の可能性が高いときたら?」
いや、だからそれはー。
「なるほどねー。それで“婚約者”として姉上を人質に取りたい算段ってわけか」
ひ、人質!?婚約者!?パワーバランスゥ!?
「セレスさま、シャルさま。ルルさまがキャパオーバーを起こしてらっしゃるわ。ちょっと休憩しませんこと?」
「「あ」」
ぷしゅー……と頭から湯気を出してソファに突っ伏すわたしの背を、バミがぽんぽんと叩く。
あうう。
呑気にまったり転生ライフを送ってたはずなのに!
どうしてそんな国家絡みの大事に巻き込まれますかネ!?
カミサマ、わたし何かしましたか──っ!?
うわーん!
「朱雀、白虎。今日は良う二人を護ってくれた。自分らを付けとって正解やったわ」
『へへ!あんな小物、大した事ないって!』
『ただ……』
言い淀んだ朱雀に、セレスと白虎が視線を向ける。
「……なんや。なんか気になる事でもあるんか?」
『──白虎が学園で感じた“臭い”と、帰り道で襲撃してきた連中、同じだったのかしら』
「……」
『……』
パリリッ。
公爵家の広大な敷地の片隅。
ルルの光魔法に引き寄せられた弱い魔獣が、結界に弾かれ──消滅した。




