腰が抜けても、全力応援!
ハンター・ビーはお義兄さま達とピーちゃんの全体攻撃のおかげで、目に見えて数を減らしていく。
ぴーちゃんの羽根による攻撃をくぐり抜けた個体は、殿下や攻撃魔法が得意な生徒が対応する。
わたしは────必死に応援した。
が、がんばえ〜っ!
みんな、がんばえ〜っ!
腰が抜けて役に立たなくてゴメンねぇ〜!
「ロックフェルド公爵令嬢!召喚獣に生徒を護るように言ってくれ!その隙にレベル6の火魔法で一気に叩く!」
「あぇ……はい!?」
レベル6の火魔法って仰った!?
そんなの騎士団でもそうそう使えないレベルの──それを使う!?
「ロックフェルド公爵令嬢!頼む!」
「はひっ!」
もう一体の魔獣の胴を切り払い、プラチナブロンドの髪に血を散らした殿下の声に、慌ててぴーちゃんを呼ぶ。
「ぴーちゃん!みんなを護って!」
なんともアバウトな命令だったけど、ぴーちゃんはひと纏まりになった生徒たち全員を覆えるサイズに変化し、盾になってくれた。
わたしはぴーちゃんの羽根の隙間から殿下の背中を見つめる。
ゆらゆらと陽炎のように魔力の並が殿下を包む。
詠唱の声はこちらまで届かないけど、だんだんと強まる魔力の圧。
殿下の青い瞳が魔力の高まりで紫がかって底光りする。
「炎の矢……!」
ゴウッ!と立ち昇った炎が、襲いかかるハンター・ビーの群れを一網打尽に燃やし尽くす。
炭になった魔獣たちがポトリ、ポトリと地面に落ち、風に散る。
すごい……!
「……っ、はっ」
「!?殿下!」
レベルの高い魔法を放った反動か、ガクリと膝を折った殿下が、四つん這いになって荒い息をする。
咄嗟に駆け寄ろうとしたけど、ぴーちゃんに嘴で襟首をつままれて前に出られなかった。
「ぴーちゃんっ」
『ぴぴっ』
まるで“ダメッ”と言うように鳴いて離してくれない。
も、もう〜っ!
「ルル、そこにいなさい」
「!」
ハンター・ビーの成れの果てである灰を躊躇なく踏みつけて、カツカツとブーツを鳴らしてお義兄さまが殿下に歩み寄り、ピタリと止まる。
ゆっくりと顔を上げた殿下は、ぜぇぜぇと息を吐き、汗がこめかみから頬を伝う。
「……ロックフェルド大隊長……」
「ふむ。威力はそこそこ。だが一度の発動でその状態になるのなら、身体作りから始めるべきでしょうな」
「……」
うう、お義兄さま辛口ィ!
魔法師団の大隊長としての言葉は厳しくて、殿下は悔しそうに唇を噛みしめる。
それはまあ……お義兄さまが正しいんだけど……。
まだ十六歳の身で生徒たちを護りながら、あれだけの立ち回りが出来たんだもの。
わたしは素直にスゴイと思うよ、殿下!
でもお義兄さまはそれ以上言葉をかける事はなく、魔獣の発生源である空間の歪みを無造作に掴んだ。
ええ……空間の裂け目?歪み?って、掴めるものなんだ……?
そして印を結び、何事か呟く。
「あ……」
徐々に塞がっていく裂け目を、唖然として見つめる。
原理が、理屈が、仕組みが分からない……!
「ロックフェルド大隊長さま!なぜここに!?いや、しかし助かりました……!」
教師陣と監督官たちが駆け寄ってくる。
みんな傷だらけだけど、どうやら人的被害は出なかったみたいで良かった。
大人たちと話すお義兄さまを横目に、そっと殿下の側にしゃがむ。
「殿下、治療をいたします。横になってくださいませ」
「ロックフェルド公爵令嬢……」
大人しく横になる殿下に、ぴーちゃんの力を繋いで治療を始める。
曲げた腕で目を隠す殿下の表情は分からないけど、落ち込んでいるのは分かる。
「……殿下」
「……」
「みんなを護りながら、的確な判断で魔獣を倒して下さって。どれだけお礼を言っても足りません」
「……だが、最後がこれでは……締まらないな」
自嘲して口元を歪めた殿下は、不敬かも知れないけど……早く大人になりたくって頑張るけど、上手くいかなくて悶々とする姿は、皇太子と言うより“ザ・男子高校生”って感じがした。
あー、前世が社会人の身からすると若さが眩しいわー。
「何をおっしゃいますか。そんな言葉で殿下の勇気を無かったことにしないでください。その勇気のおかげで、わたし達は助かったんですもの」
わたしなんか、腰抜かしてたんだよ?
ぴーちゃんに襟首つままれてプラーンだよ?
「誰よりも頑張って下さった殿下を尊敬します」
そう言って、殿下のプラチナブロンドの髪をそっとひと撫でする。
「君は……」
あ、やっべ。
皇太子の頭を撫でるとか、不敬だったかも!?
ゴメン!殿下!
「君は……いつも、私が欲しい言葉をくれるんだな……」
「え?」
「中等部の時……あの時も君は」
「姉上!」
殿下が言い終わらないうちに、シャルがタイガやバミたちと一緒に駆け寄ってきた。
「姉上、怪我は!?大丈夫!?」
「シャルたちこそ!誰も怪我はしていない?」
あれだけの大騒動だったのだ。
二階にも被害は及んだはず。
わたしはシャルたちの身体をあちこち検分して、怪我がないか調べて回る。
「大丈夫だよ、姉上。まあ途中でタイガとバミとはぐれた時は肝を冷やしたけど……」
あー……涼しい顔で知らんぷりしてるけど、二人はお義兄さまに呼ばれて戦いに参加してたからね……。
「それに兄上が結界を張ってくれたから、みんなそこで待機してたんだ」
「……そうなのね」
そりゃ怪我もないはずだわ。
ホッと胸を撫で下ろしていると、皇太子付きの侍従が「殿下!」と走り寄ってきた。
「お怪我を……!?」
「大事ない。ロックフェルド公爵令嬢のおかげでほぼ完治している。それよりも今回の騒動の原因を調べねばならない。城への連絡は」
「はい、すでに調査隊がこちらに向かっております!」
すっかり皇太子の顔になった殿下が、すっと立ち上がる。
「レッドウルフと言い、ハンター・ビーと言い、学園のテストごときに現れていい魔獣じゃない。あの空間の歪みも、何者かが作為的に魔獣をここに送り込んだと見て間違いないだろう」
だよね──っ!
どう考えても悪意ある誰かの仕業だよね!
でも……。
「でも、殿下……それは……」
殿下が厳しい表情で頷いた。
「ああ。──誰かを狙った犯行だ」
わたしはコクリと喉を鳴らした。
だって……今回の実技テストの場で、一番狙われそうなのって……。
殿下を見返した時。
後ろに控える侍従と目が合った。
そして、見てしまった。
その手に光る短剣を。




