波乱含みの実技テスト。
「では、初回テストの生徒はこちらへ。補習の列はこちらです」
担当の先生の誘導で初回テストの列に並ぶ。
でも……そっか。
補習組も来てるのね。
ほとんどが日程的に早めに実技テストが終わったクラスからの参加みたい。
つまり、うちのクラスからは補習組は出なかったのかな?
うむ優秀、優秀。
広い訓練場には二階席があり、監督役の先生や見物する生徒たちがちらほらと。
ディーとバミもわたしのテストを見守ってくれている……って、なんでシャルとタイガまでいるの。
そんなにお姉ちゃんのグダグダ魔法が見たいかね……!
苦手だって言ったじゃん……!
なんなら先んじて補習の列に並びたいくらいだよ!
そもそも自分の中の魔力に目覚めて間もないんだから、それを攻撃にしろ防御にしろコントロールなんて出来っこないってばよ……!
昨日、攻撃魔法の得意なシャルが練習に付き合ってくれたとは言え、そんな付け焼き刃でどうにかなるほど甘くはない。
じゃあこれまではどうだったかって?
実は魔力を持たない人でも、詠唱の力を借りれば蝋燭に火を灯したりと言った生活魔法くらいならまあ、なんとか……。
で、曲がりなりにも魔力は持ってたわたし。
ほんのちょっぴりなら魔法っぽく見せられてたのだ。
でも、高等部の実技テストとなると話は別だ。
魔法書で理屈は勉強してるけど、実技はねぇ……。
テスト内容も詳しくは知らないし。
「では初回テストの皆さん、これから現れる魔獣を相手に戦ってもらいます」
は?
なにそのバトロワっぽい導入。
「なにが現れるかは人によって違います。その魔獣の攻撃を防御するも良し、攻撃するも良し。そこは自由なので安心して下さい」
あの……安心……とは?
「ひとりずつ実施するので、他の人は下がって。怪我をしますよ」
先生──!安心ってなんですかァ──!?
「では出席番号順で。ひとり目は──アドレアス殿下。前へ」
え!?
いきなり皇太子殿下の登場なの!?
ざわつく周囲を気にする事もなく、殿下はひとつ頷くと列から一歩足を踏み出した。
な、なんだろう、あの落ち着き。
わたしなんて、足がぷるぷるして立ってるのもやっとなのにネ!?
訓練場の床面には、仄かに光る円形のラインが引かれている。
その内側に入れば……テスト開始だ。
殿下の足が円の中に入った。
途端。
空間を切り裂き、魔獣の咆哮が響き渡る。
「!」
白いたてがみにルビーのような真っ赤な瞳。
前世のバスくらいはある、その巨体。
殺気を隠そうともせず、真っ直ぐに殿下に飛びかかる。
「きゃああ!」
「レッドウルフがなんで!?」
「逃げろ!」
「生徒に防御結界を張れ!監督官!殿下をお護りするんだ!」
レッドウルフ……!
普段、白銀の嶺に住むと言う凶暴なレア魔獣がなぜ!?
訓練場は逃げ惑う生徒達で大混乱に陥った。
そんな中、殿下は果敢にも防御魔法と攻撃魔法と、ええとあとは何か良く分からないけどステータス系の魔法!?を駆使して、どうにかレッドウルフの牙から逃れている。
す、すごっ!
さすがは武勇を誇るシャゼリア皇国の皇子。
いつの間にか、レッドウルフが破壊した訓練場の一部を剣のように奮って対抗している。
監督官や教師陣が参戦するが、なかなか勝機が見いだせないようだった。
えええ……!?ここって学園の訓練場であって、戦場じゃないよね!?
せ、先生方、目がマジなんですけど!?
わたしは他の生徒達と一緒に壁際に避難し、大きくなったぴーちゃんの羽毛に包まれて無事だけど……殿下はいまだレッドウルフと交戦している。
レッドウルフの真っ白な毛並みに血が飛び散る。
殿下の頬に赤い線が走り、血が滴る。
腕に。
足に。
少しずつではあるけど、殿下が押されている。
こ、このままじゃ……!
レッドウルフの攻撃を素早く避けた殿下の足が、瓦礫に上を滑りバランスが一瞬崩れた。
それを見逃す敵じゃ、ない。
「!でん……!」
殿下の目を狙った巨大な爪が、皮膚を切り裂く──その刹那。
ゴ……ッ!
鈍い音とともに、レッドウルフの巨体が残像を残して横っ飛びに吹っ飛んだ。
何度も言うが、レッドウルフは市営バス並の巨体なのだ。
それが……それが吹っ飛んだ……!?
ひ────っ!
轟音と振動がダイレクトに伝わり、立ち上った砂埃に思わず目をギュッと瞑る。
「ケホっ……あ」
薄っすらと目を開けると、横向きに倒れて暴れるレッドウルフの上に、誰かが立ってる……?
口から血の泡を吐きながらも、その誰かを威嚇するレッドウルフの姿が砂埃の向こう側でぼやけて見える。
「弱い犬ほどよく吠えるものよ」
大きな剣を肩に乗せたシルエット。
ゆっくりと剣を振りかざすと、剣先にパリリッと稲妻が走る。
「[[rb:蒼天雷撃 > そうてんらいげき]]」
一瞬、訓練場全体が真っ白になった。
耳がキン……と鳴って、意識が飛びかける。
それをぴーちゃんの温かい羽毛を握って何とか耐え忍ぶ。
やがて色が戻った訓練場は、ひとりの男の圧倒的な存在感に水を打ったように静まり返っていた。
レッドウルフの息絶えた巨体を足蹴にして立つ、その騎士は。
「あ、お、お義兄さま……!?」
「ルル──」
魔獣の背から軽やかに降り立ったお義兄さまが、わたしの方へ歩き出した時。
「ハンター・ビー!?」
誰かが叫んだ。
歪んだ空間の裂け目から、中型犬サイズの蜂が何匹も飛び出してくる。
その羽音だけで訓練場の窓ガラスが揺れる。
一難去ってまた一難……!
ハンター・ビーって、樹海の奥深くにしか生息しないって……あの空間の歪みってなんなの!?
お義兄さまは臨戦態勢のハンター・ビーの群れを面倒くさそうに見遣ると、すっと両手で印を結んだ。
「白虎──朱雀──騰蛇」
式神の名を呼ぶ。
「屠れ」
さらりと命じて、自らも剣に雷を纏わせ魔獣の群れに飛び込む。
生徒たちは、どこからか突然現れた新たな魔獣に真っ青になって後ずさったが、それらがハンター・ビーを叩きのめしていくのを見て、足を止めた。
「あ、あの獣たちって……!?」
「騎士さまの……召喚獣なのかな」
「!きっとそうだよ」
そんな生徒たちの声を聞いて、不死鳥の力を使って皇太子の怪我を治していたわたしは目からウロコが落ちた。
ポロリと。
──わたしも、持ってるじゃないの、召喚獣。
川柳か。
いや、そんな事を考えてる場合じゃない!
くしくも避難しているわたし達に向かって、ハンター・ビーの群れが迫ってくる。
上手くいくか分からない。
立ち上がりかけた殿下をそっと制し、深呼吸をひとつ。
「ロックフェルド公爵令嬢!?なにを──」
「ぴーちゃん!やっつけて!」
『ぴ────っ!』
ぶわっ!と一気に巨大化したぴーちゃんがまばゆく光り、その無数の羽根が放射線状に放たれた。
光る羽根が次々に蜂を貫き、倒していく。
ハ、ハハ……ぶっつけ本番だったけど、な、なんとかなったんじゃない……!?
わたしはへなへなとその場に座り込んだ。




