我ら設定盛りすぎ兄妹。
その夜、ロックフェルド公爵家の食堂は重苦しい空気に包まれていた。
お義兄さまは城から戻るや自室に籠もってしまい、しばらくしてお部屋から出てきたと思ったら──なんか、ヘンなんだもの。
いつも通り、優しい微笑みを浮かべてはいるし、いまも騎士団であった事を面白おかしく話して下さってる。
けど。
……は、背後に般若が見える……!
ちらりとお義兄さまの斜め後ろに控えるブルーさんに目をやると、これまたにっこり笑顔が返ってきた。
違うそうじゃない……!
そんな空気はシャルも感じているようで、なんとも言えない表情でお肉を切っている。
「……えーと、さ。兄上の魔法師団って、魔獣を討伐したりするの?」
よっしゃあ!ナイスフォロー!シャル!
我が弟ながら、空気の読める子……!
その調子でお義兄さまの意識を逸らすのよ!
「ああ、いくつかの隊に分かれていてね。各地に出没する魔獣を討伐しているんだ」
「へえ!」
「主に魔法で戦う隊と、剣も使う隊がある。もちろん両方の隊で協力して戦闘に臨む。それぞれの隊の特性を活かして指揮するのが、隊長格の役目なんだ」
お義兄さまはその隊長格を纏める、大隊長。
とても大変なお仕事だと思うけど、お仕事中のお義兄さまを見てみたい!
きっとめちゃくちゃ格好いいと思うんだ……!
フォローのつもりで話を振ったシャルも、目をキラキラさせて身を乗り出す。
「兄上、僕も学園を卒業したら魔法師団に入りたい!攻撃魔法、得意だし!」
お義兄さまはわしゃわしゃとシャルの頭を撫で、ニヤリと笑った。
「ふむ。なら、その細い腕をなんとかせねば。鍛錬を始めるには遅いくらいだぞ?」
「そうなの!?ええ……何から始めたら良い?」
「本気で鍛錬をする気があるなら──」
「ある!あるよ、兄上!」
「よし。なら鍛錬のメニューを組んでやろう。鍛錬は継続がカギだ。やっぱりヤメたは無しだぞ?」
「うん!」
お義兄さまと拳をコツンと合わせるシャルが、年相応の男の子に見えて胸がほっこりする。
男爵家ではちょっと皮肉屋で、背伸びをしてる感じがして……そうしないとならない環境だったからだけど。
シャルだって、お城の騎士団に憧れる十四歳の無邪気な男の子の一面があるのね。
お姉ちゃん、ほろりときちゃう。
「強くなるよ、絶対。……姉上を護るためにも」
ん?
「シャル……そうだな!二人でルルを悪魔どもから護ろうぞ……!」
んん?
あの、なにやら話の風向きが……。
「よっし!シャルさまがやるなら俺も!鍛錬、付き合うぜ!」
「良いわね。私も火魔法を極めてルルさまをお護りするわ」
タイガとバミまでなに言ってるのかなァ!?
「ブルー、公爵家の騎士団にも伝達しろ。ルルの安全が最優先事項とな」
「はっ!かしこましました」
いや、かしこまらなくて良いから!
しかもお義兄さまは皇室に対して“悪魔ども”とか言わない!
「えと、みんな、あの、気持ちはとっても嬉しいのだけどね?シャルも鍛錬はほどほどにしないと。怪我でもしたら大変よ」
「なに言ってるの、姉上。鍛錬に怪我は付き物!ね!兄上!」
お義兄さまが大きく頷く。
「確かに。無傷で強くなるのは不可能だ。しかし、優しいルルに心配をかけるのも忍びない。シャル、まずは怪我に負けぬ身体を作るぞ」
「なるほどね。りょーかい!」
ガッチリ腕を組んで鬨の声を上げる兄弟と式神たちに、頭痛を覚えてこめかみを揉む。
この食堂には武闘派しかいないんですかね……!?
それもこれも、わたしを皇太子殿下の婚約者になんて言い出した宰相たち側近のせいだ。
まったく、なんでそんな突拍子もない話になるのよ。
わたしなんかちょっと成績が良くて、ちょっと規格外の召喚獣を召喚しちゃって、ちょっと光属性(?)で、ちょっと公爵令嬢で絶世の美少女で……おや?
……ひょっとして……設定盛りすぎなのは……お義兄さまだけではなく……?
「ルル?」
「えっ、あ、はい!」
ハッとして返事をすると、お義兄さまが眉を下げてそっとわたしの両手を掬い上げた。
そして──唇を押し当てる。
「可哀想に……心配いらないよ、愛しい妹。約束しよう。魑魅魍魎の輩などには指一本触れさせぬ」
ひああ──っ!
指っ、指先に!お義兄さまの……!
温かくて柔らかい感触を感じて、声にならない悲鳴を上げる。
こっ、こう言うの、騎士の嗜みだったりするの!?
小娘のキャパを軽々超えてくるヨ……!
救いを求めて、頼りになる弟を見るといい笑顔でサムズアップが返ってきた。
グッ☆じゃねーんだわ……。
「「「お嬢様、お休みなさいませ」」」
「お休みなさい」
メイドさんたちがお辞儀をして部屋を出ていく。
いやぁ……毎度毎度、寝支度までお手を煩わせて申し訳ない。
寝る前にそんなに?ってくらいお世話をしてくれるんだよねぇ。
前世ではスゥェットの上下を着て、自然乾燥した髪を雑に梳かしてオヤスミナサイだったのが嘘みたいデス……。
天蓋付きの大きなベッドに、ぽすっと仰向けに寝転ぶ。
ぴーちゃんは枕元に丸まって、すっかり夢の中みたい。
はぁぁ……なんかいろいろありすぎて疲れたよー。
「あー……しんど」
『治癒の力をご所望ですかしら?』
「わあ!?」
突然現れたのは天后さん。
ベッドと天蓋の間にふわふわと漂っている。
天女スタイルにもいろいろ種類があるようで、今日のお召し物はちょっと露出が高め。
ナイスボディがうらやまケシカランですな!
天后さんがふんわり柔らかな手を、わたしの額にそっと乗せる。
そこから温かな力がじんわり伝わって、ゆるゆると瞼が降りていく。
「天后さん……式神が見えてる事……お義兄さまに内緒にしてくれて……ありがとう」
『あら、どういたしまして。でも、どうして内緒にしたいと?召喚獣を得たいまなら、わたくし達が見えても不思議ではないでしょうに』
「うん……でも……」
ああ、ほの温い優しい力が気持ち良いな……眠たくなる……。
「お義兄さまの秘密を……勝手に暴いちゃうみたいで……なんか、それは……良くないかなって……」
『……』
そこまで話して、わたしが寝入ったあとも天后さんはわたしの頭を撫でてくれていた。
『ルルさまは……魂がとても綺麗。だから主も──わたし達も貴方を大切にしたいと思うのね』
天后さんの呟きは、夜の静寂に紛れて消えた。
「ロックフェルドさん」
「あ、ノクトス先生」
ディーとバミと一緒に移動教室へと向かっていると、担任のノクトス先生に呼び止められた。
うん、今日もイケメン。
目の保養になりまする。
なんて、そんな事を考えてるなんておくびにも出さず、優等生然として先生が話し出すのを待つ。
「中間テストの魔法実技の件なんですが」
「?」
「貴方が受けられなかった二科目について、事情があってテスト自体を受けられなかった生徒達と一緒に受けられる事になりました!」
「……まあ!」
「ルル、良かったわね!」
自分の事のように喜んでくれるディーの手前、「いや、べつに結構ですー」とは言えず。
うーん、うーん。
面倒くさいぞぅ。
だって、その二科目って攻撃魔法と防御魔法の事で……どっちも苦手なんだよぅ……。
でも、ノクトス先生も喜んでくれてるし仕方ないかぁ。
ちなみにテスト自体を受けられなかった生徒達って言うのは、体調不良だったり家の用事だったり。
腐っても貴族ですからね、わたし達。
実家の御用が優先されるのだ。
「明日の放課後、西の訓練場に集合して下さい。応援してますよ!」
「アリガトウゴザイマスー」
笑顔で大きく手を振るノクトス先生と別れ、移動教室へ急ぐ。
あーあ。
明日じゃあ、練習する時間もないし……いっそ受けない方が点数も良かったりして。
ぴーちゃん一羽で充分おつりがこない?
そんな訳で迎えた翌日の放課後。
「あの……なぜ殿下が……?」
「急に城に呼び戻されて……一科目だけ受けられなかったんだ。君は二科目か」
「ハイ」
「お互い頑張ろう」
「…………ハイ」
“急に城に呼び戻されて”
あのー、それってわたしがとんでもない召喚しちゃった事とか、聖女とか呼ばれてる事と関係してたりしますー!?




