第5話:魔物と初めての遭遇
「ではダイサンカの皆さま、参りましょう」
道案内と護衛を兼ねて、パウロ伯爵家に仕える騎士団の兵士が10名同行してくれることになった。
彼らの現有戦力は弱く、Aランク魔物である鎧蜘蛛にはまったく歯が立たない。
何度か討伐に臨んだが、魔物には傷一つ付けられないままに終わっている。しかもこちらには毎回怪我人が出ている。
騎士団長は「情けないことですが」と、悔しそうに現状を報告してくれた。
それにしても、そんな弱い武力で領地を守っていけるのか、佐藤は心配になる。
奥田がフローリア嬢に聞いたところによると、この王国にはパウロ伯爵家も含めて有力な貴族が3つあり、それぞれ領地を与えられている。
その中でもパウロ伯爵家は元々王家の血を引く名家だったが、近年は凋落気味で、最も勢力が弱いらしい。
そんな中で起きた騎士団長の死と強力な魔物の出現。
フローリアがいかに困っているか、第三課の皆はひしひしと感じた。
***
平原を、騎士団の馬車に『ダイサンカ』の4人が乗り、その周りを騎士団の軍馬が囲むようにして走る。
馬車の中では、相変わらず明るいギャルの声が響いている。
「うっわ、あたし馬車乗るの初めて!」
「そりゃそうだろ。俺だって初めてだ」
「僕もお初」
「これから何が起きるんだろうねぇ~」
「勇者カチョーの無双大冒険だな」
「頑張れカチョー」
「他人事かよ。ギャル沢は聖女なんだから、誰かが怪我したら治してくれよ」
「りょっ」
敬礼する姿が可愛いギャル。
「それと佐藤は、せいぜい足手まといにならないように気をつけろ」
佐藤は課長の戯言に付き合う暇もなく、フローリア嬢の説明を思い返していた。
王都に繋がる街道は、元は安全な道だった。
しかし最近、なぜか突然ある箇所に強力な魔物が現れた。そのせいでパウロ領の交易に支障が出ている。
王都からの物資は枯渇し、輸出による収益も激減。領地経営が危機に陥っている。
つまりダイサンカが鎧蜘蛛を討伐できるかどうかが、パウロ領の明暗を左右するのである。
鎧蜘蛛が棲みついた場所までは、平原も渓谷の山道も安全な街道らしい。だからしばらくは馬車の車窓から見えるこの自然を堪能していればいい……はずだ。
平原で並走する馬上から、騎士団長が話しかけた。
「勇者殿。ありがとうございます! 情け無いことですが、我々だけではどうしようもないのです」
「いやいや、苦しゅうない」
「なんでカチョー、そんなに偉そうなのさ」
「俺は勇者だからな」
「課長。遊びだと思ってたらマジで死ぬ。気をつけてください」
「大丈夫だってオタク」
「いやいや、引き締めていきましょうよ」
──いくらこの辺りは安全とは言え、遠足気分にもほどがある。
佐藤は頭痛がして、こめかみを指で押さえた。
***
やがて一行は平原を抜けて、渓谷に入った。
馬が2、3頭並んで走れる程度の狭い道になる。左は切り立った崖、右には小川が流れていてその向こうはやはり切り立った崖。つまり一本道をひたすら進んでいくことになる。
「ちょっと待ってください!」
騎士団長の叫びと共に馬車が停車する。
「どうした?」
馬車の窓から課長が怪訝な顔を出した。
「勇者殿。前方に魔物が」
「例の鎧蜘蛛か?」
「いえ。奴の生息地はもっと先です。ここら辺りには魔物はいないはずなのに……」
騎士団長の顔には焦りが浮かんでいる。
まったく想定外の状況のようだ。
4人は馬車から降りた。前方に目を向ける。
「うげぇ、なんだあれ!?」
課長の視線の先には、身長2メートルほどもある巨漢の魔物が3頭いた。
見た目は凶悪な顔の豚。キバが生え、二足で立ち、皮の鎧を着ている。
「オークだ!」
奥田が指差して叫んだ。
オークの群れはこちらに気づいて、近寄って来る。
左右は切り立った崖で、逃れることはできない。
さらに近づいてくると巨漢がより一層大きく見え、凶悪な形相で恐ろしさが半端ない。
「な……なんだありゃ?」
襲われる! 俺達死ぬかもしれない。
ダイサンカの皆が、直感的にそう感じた。
奥田は恐怖にガタガタと震えだし、さすがの成沢も青い顔をして固まっている。
課長はわけがわからず呆気に取られている。
佐藤は冷静に考える。あの怪物に、俺の武器が通用するだろうか。
この危機を無事に乗り越えることはできるだろうか。
しかも他の三人に、自分の正体を悟らないままで。




