9.ウソ告
「もともと太一くんとは同じ中学だったんだけど、中2の夏休み前、あたしから告白したんだ……」
もう下校時刻なので、近くの公園に移ると、ベンチに座るなり、弥生ちゃんの話はそんな衝撃的な一言から始まった……。
◇◇
「弥生も早くカレぴ作りなよ~」
「そうそう、そんで夏休み一緒にデートしようよ」
中2の夏休み前、友だちの樹里亜と美紅から、もう数えきれないくらい言われている同じセリフに、あたしは頬を引き攣らせた。
学校で仲良くしているこの二人は中2になってから、相次いで高校生と付き合い始めた。彼氏がいる女子というポジションがそんなに心地よいのか、事あるごとにのろけ、しかもあたしをその仲間に引き入れようとしてくる。
だけど、あたしは付き合ってもいいと思えるような相手もいないから、やんわりと断り続けている。ただ、この日はそうはいかなかった。
「そうだ!剣志郎のダチの羅王くんが弥生のこと紹介して欲しいってさ。なんか、弥生に一目惚れみたいだよ!いっそ羅王くんと付き合っちゃえばいいじゃん!」
「えっ、それはちょっと……」
樹里亜の彼氏の剣史郎さん。一度しか会ったことないけど、高校生にして、早くも遊び人の風格が隠し切れないウェイウェイ系だ。羅王って人には会ったことないけど、きっと同じ系統に違いない。
あたしは見た目だけはギャルみたいで、他の人からは遊び人に見えるかもしれない。だけど、それは家が美容室をやっていて、小さい頃から親に髪を染められたり巻かれたり、メイクの仕方を教えてもらったりしたからだ。
中身は内向型の陰キャ。むしろそういう遊び人たちは大の苦手だ。いかにもウェイウェイ遊んでそうな高校生と付き合うなんて絶対に嫌だ。
「その顔、羅王くんに不満なの?」
樹里亜の声が少し低くなった。どうやら気が進まないあたしの内心が表情に出てしまったようだ。樹里亜が一気に不機嫌になる。樹里亜って気難しいから、機嫌を損ねるとめんどくさいんだよな……。
「羅王くんって知らないけど、樹里亜の彼氏の友だちだし、きっと素敵だろうから、あたしにはもったいないかな~って……」
遠回しに断ろうと、苦し紛れのでまかせを言うと、なぜか樹里亜がぱっと表情を明るくした。
「なんだ!そんなこと気にしなくていいよ。弥生は素敵だって!!まずは会ってみなよ。そんでノリが合えば付き合っちゃえばいいじゃん!」
樹里亜がスマホを操作し始めた。きっと剣史郎くんに連絡して、あたしと羅王くんが会う場をセッティングしようとしているに違いない。そうなると断るのは簡単じゃなくなる。樹里亜の手前、断り切れずにその羅王くんという遊び人と付き合うことになる未来が目に見えてる。
なんとかして断らないと。え~っと……
「あ、あたし、好きな人がいるんだ!!」
思わず声が裏返った。
「だから、ごめん。その人とは付き合えないわ……」
あたしの突然の告白に、樹里亜と美紅は一瞬だけきょとんとした後、すぐににんまりと唇を歪めた。
「ふ~ん、じゃあさ。すぐに告っちゃいなよ。そんでうまくいったら、夏休みにみんなで一緒に遊びに行こうよ~」
――
「三元さん、話ってなに……?」
夕方の体育館裏。あたしに急に呼び出された太一くんは少し戸惑い気味だ。
彼をここに呼び出したのには理由がある。これから告白するのだ。
あたしが好きな人は杉山太一くん……というわけじゃない。そもそもあたしには好きな人なんていない。
だけど、樹里亜と美紅にああ言ってしまった以上、今さら引っ込みがつかない。太一くんとは、数えるほどしか話したことないけど、温和で優しそうだし、きっと後で事情を話せば許してくれるだろう。
あたしの作戦はこうだ。これから太一くんに嘘で告白する。あたしとはほとんど交流がないわけだし、彼はおそらく、ちょっと考えたいと言うか、又はすぐに断ろうとするはずだ。
そしたら、すかさず「夏休みの間、じっくり考えて!!」って言って返事を引き延ばしてもらう。そうすれば、あたしは、夏休みの間は告白の返事待ちってことになるから、それを口実に他の人のお誘いを断ることができるわけだ……。
ちらっと、太一くんの方を見ると、少し震えている。もしかして告白を察知してそわそわしてるのかな?
少しかわいそうかな。止めておこうかな。だけど体育館の壁の陰から樹里亜と美紅が見てるし……。やるしかないか。ごめんね太一くん。
「あのね、太一くん……」
なんかウソ告なのにドキドキしてきた。しっかりしろ、弥生。昨日練習したとおり、この後告白して、間髪入れずに「ゆっくり考えて。返事は夏休み後でいいから」って、そう言うだけだ……。よしっ!
「ちょっと……、付き合って欲しいんだけど」
「ああ、わかった。いいよ」
はっ?
食い気味での返事に頭が真っ白になった。えっ?どういうこと?
いいよって、何が……?この後、何て言えばいいんだっけ?
次の言葉に詰まってると、太一くんの方から口を開いた。
「それで、どうしたらいい?どこに行ったらいい?」
「あ、ああ。夏休みに樹里亜と美紅と遊びに行く予定があるから……」
「うん、わかった。そこに一緒に行けばいいんだね。日程が決まったら教えてね」
あたしは、まだ頭の中がパニックで、そのまま軽い足取りで去っていく太一くんの背中を黙って見送るしかできなかった。




