10.嘘から出た真?
「その後、太一くんが夏休みに樹里亜と美紅との遊びに一緒に来てくれて、それで樹里亜と美紅も納得してくれて、樹里亜の彼氏の友だちと付き合わなくてもよくなったわけ……」
「へぇ~」
放課後の公園。まだ寒い夕闇の下、ベンチに座り温かい缶コーヒーを飲みながら、弥生ちゃんの中2の頃の思い出話を聞かされ、わたしは少しほっこりしていた。
「それをきっかけに、それからずっと杉山くんと付き合ってるんだ……全然知らなかった」
そうだったら、杉山くんが双葉ちゃんと睦美ちゃんのどちらにもなびかないのも理解できる。中2の頃からってことは案外一途なんだな。杉山くんのこと、誤解してたよ。
「そうかな……」
しかし弥生ちゃんの表情は暗い。それ、恋バナしてる時の顔じゃないよね。むしろ死んだ仲間について語る時の顔じゃない?
「あたし、杉山くんと付き合ってるのかな?」
「えっ?でも今の話だと、告白してOKしてもらったんでしょ?」
弥生ちゃんは一瞬だけパッと明るい表情をした後、すぐにうなだれ激しく首を横に振った。
「でも、その後、一度も好きって言ってくれたことないし、キスとかハグとか、そこから先のことも何もなくて……」
「そういう愛情表現が苦手な男子もいるだろうし……」
「あたしが誘わないとデートにも連れてってくれないし……」
「ああ、杉山くんって見るからにインドア派だもんね」
「こんなんで本気で付き合ってるって言える?」
弥生ちゃんが潤んだ瞳でわたしを見つめる。
いや、あたしにそんなん言われても……って、あれっ?話がおかしくなってない?
「たしか、さっきの話だと杉山くんには嘘で告白したんだよね。中2の頃の友だちの追及をかわすために。じゃあ付き合ってても偽装じゃん。そもそも好きとか、愛情表現とか、本気で付き合うとかなくない?」
わたしが見つめ返すと、弥生ちゃんは目を背けた。
「しょうがないじゃん。……なっちゃったんだから……」
「なんて?」
「しょうがないでしょ!好きになっちゃんだから!!」
弥生ちゃんの顔が真っ赤だ。暗い公園の街灯の下でもわかるくらい。しかもその表情は、なんというか……まさに恋する女の子それだ。
「あたしのわがままにも付き合ってくれて、急にあたしの友だちとかいる場所に呼び出されても嫌な顔一つせずニコニコして来てくれるし、苦手のカラオケに連れてっても優しくマラカスを振って盛り上げてくれるし……。いい人だなって思ってたら、いつの間にか好きになっちゃったの!!悪い?」
「いえ……悪くないです……」
「そうだよね。だけど、もっと優しくして、太一くんの心をがっちり掴んでおけばよかった~。まさかあんなぼんやりしてる感じなのに、ライバルが二人も現れるなんて……。双葉ちゃんはともかくさ。どう見ても睦美ちゃんの方が、あたしよか絶対にいいじゃん。幼馴染みらしいし。このままじゃ取られちゃうよ!!」
弥生ちゃんは興奮し始めたのか、ベンチでヘッドバンキングを始めた。
やめて。ここ屋外だし、人が通って変に思われるかもしれないから、お願いだから落ち着いて……と、背中をさすりながらたしなめる。
肩で息をするほど興奮していた弥生ちゃんが、少しずつ落ち着いてきた。
「不安だったらさ、直接、本人に聞いてみたらいいんじゃない?」
特に考えなしに言ったけど、これ以上の正論はないだろう。
しかし弥生ちゃんはきっとわたしを睨みつけて来た。
「そんなの、できるわけない。何とも思ってなかった中2の頃とは違うんだよ……」
弥生ちゃんの顔にまた翳が差した。今日は弥生ちゃんの表情がくるくる変わる。ずっと机に突っ伏してたから気づかなかったけど、こんなに感情と表情が豊かな子だったんだな……。
「じゃあ、わたしが代わりに聞いてあげようか?」
「ほんとっ?」
食い気味に手を握られた瞬間、しまった~と後悔した。他人の恋愛沙汰に関わるとろくなことにならないって、こないだ双葉ちゃん、睦美ちゃんの板挟みになって学習したばかりじゃんか……。
「ありがとね。うまくいったらお礼に月子ちゃんの爪を綺麗にしてデコったげる~」
「それは遠慮しときます……」
すっかりニコニコになって、わたしの手をさする弥生ちゃんを見ながら、これも乗りかかった舟か、あ~あ……と弥生ちゃんに気づかれないように小さくため息をついた。




