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21.あたしのせいだ

「杉山せんぱ~い!!薦めてもらった瀬尾まいこさんの本、さっそく買って読んでみました~。すご~く面白かったです~!!」


「ええっ?もう読んだの?お薦めしたのって昨日の話だよね?」


「はい!せっかく杉山先輩に薦めてもらったので、すぐに本屋さんに駆け込んで夜更かしして読んだんです。次のお薦め教えてくださ~い」


「えっ?次?え~っと……」


 今日も図書室では、いつものようにメイちゃんが全力投球。太一が戸惑って引き気味な様子なのに一切構わず、図書カウンターでぐいぐいと太一に迫っている。


 それを壁際でヤレヤレとニヤつきながら見ていると、珍しく図書室に来て本を探していた美奈ちゃんがギョッとした顔をしながら、急ぎ足で近寄って来た。


「ねえっ?図書室っていつもこうなの?」


「ああ、うん。まあね……」


「ちょっと来ない間に風紀乱れ過ぎじゃない?」


 美奈ちゃんの視線の先には図書カウンターの二人、それからテーブルに陣取りながらその二人を凝視するメイ軍団がいた。


「大変だよね……」


 わたしは、あいまいに微笑みながら受け流すしかできない。わたしだって、図書室の様子がどんどんおかしくなってきたのはわかってる。睦美ちゃん、双葉ちゃん、弥生ちゃんからも毎日のように苦情をいただいている。


 だけど、この微力なわたしにいったい何ができるというのか……?


 そんな風にあきらめ、悟り、諦観して、あるがままを受け入れるしかないと思い始めた頃、図書室の扉が勢いよく開いた。


 その姿を見た瞬間、さすがのわたしの顔も引き攣った。眼鏡を光らせ、左右のおさげを振り乱しながら、鬼の図書委員長、川浦先輩が姿を見せたからだ。


 先輩は図書室をぐるっと見回した後、キッと怖い顔になり、わたしを睨みつけた。なんでわたし?


「遠峯さん!!なんですあれは!?太一くんがやっと姿を見せたと思ったら、あんな風に後輩の女子といちゃいちゃと!!神聖な図書室を何だと思っているんですか!」


「いや、すみません。わたしも注意はしたんですけど……」


「図書室の風紀が乱れていると投書がありました。12通も!!これについてどう思ってるんですか?」


 12通……?ひい、ふう、みいとテーブルのメイ軍団の数を数えるとちょうど12人。あいつらの組織票か?


「聞いてますか?話を聞くときはちゃんと相手の目を見なさい!」


「さ~せん……」


「もうあなたには任せておけないわ!わたしが直接注意します!!」


 川浦先輩がつかつかと図書カウンターに近づき、腰に手を当てながら何かきゃんきゃんと叫んだ後、なぜか太一の腕を掴み、二人だけで奥の資料室に入ってしまった。そのまま全然出て来ない。


「大丈夫でしょうか‥‥‥?」


 メイちゃんが不安そうな顔で近寄って来た。


 わたしも心配だ。本当か嘘かはわからないが、前にうづき先生は、川浦先輩が太一に懸想していて、それであえて太一をいじめるという、いまどき小学生でもやらないことをしていたと話していた。


 もしやこれを千載一遇の好機として、太一を思う存分嬲ってやろうとしているとか……?


 いや、まさか。あの公明正大な川浦先輩がそんなことするはずない。


 そんなことを思い、やきもきしながら待ったけど、二人はなかなか資料室から出て来ない。固く閉ざされた資料室の扉がようやく開かれたのは30分も経った後だった。


「じゃあ、これから気を付けなさいね~。フフンッ」


 先に出て来た川浦先輩はなぜか少しすっきりしてご機嫌な様子だった。その後から出て来た太一は明らかにげっそりと青い顔。一目で絞られまくったとわかる。もはや水の一滴も出ない乾いた雑巾のようだ。


「先輩、大丈夫ですか?すみません。あたしのせいで……」


 メイちゃんが太一に駆け寄る。だけど太一はメイちゃんの言葉に応えず、ゆっくりと図書カウンターに入った。


 太一は、よほど怖い目に遭ったのだろう。そのまま図書室当番が終わるまで一言も発しないままぼんやりし、メイちゃんの声かけにも応じず、目も合わせなかった。


 やがて図書室が閉室の時間になり、太一は無言のまま荷物をまとめて図書室から立ち去った。


「杉山先輩……また明日……」


 メイちゃんが背中越しに小さな声で呼び掛けたが、太一は振り返らなかった。


「どうしよう……杉山先輩に嫌われちゃったかな……」


 立ち尽くし、小さな声でつぶやいたメイちゃんの顔も蒼白になっていた。


◇◇


「メイちゃんが家に帰って来ない」


 慌てふためいたメイちゃんのお母さんから電話があったのは、その日の夜遅くのことだった。


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