20.努力の方向性
今日も図書室は利用者で溢れている。ただ、これまでとは少し違う、どこか不穏な空気も漂っている。
「杉山先輩~。あたし、新しい本を探してるんですけどなにかお薦めありますか~?」
「えっ、えっと……どんな作品が好みなの?」
「どんな作品でも!杉山先輩が好きな作品なら、きっとメイも好きになれます!!」
「えっ、え~っと……というかさっきから近すぎじゃない?もっと下がって?」
「あっ、ごめんなさ~い、てへっ!!」
図書カウンターの近くで、メイちゃんが太一に熱い瞳を向けながらぐいぐいと顔を近づけている。上目遣いで声のトーンもいつもより少し高い。
なんだあれ?もしかして太一に好かれる努力ってやつ?だとしたら下手過ぎない?
まあ、メイちゃんは、これまで苦労せずとも勝手に好意を向けられてきたから、加減がわからないのかもしれない……。
やれやれと思いながら本の整理に向かおうとすると、殺気に気づき振り返る。
いまや図書室に溢れるメイ軍団。その24の瞳が一斉に図書カウンターを凝視している。しかも揃いも揃ってみんな真顔で怖い……。
「ちょっとちょっと!!月子ちゃんあれ、どういうことなの?」
「Hey!月子、ちゃんと説明しなさいよ!!」
珍しく同時に図書室に姿を現した睦美ちゃんと双葉ちゃんが、図書カウンターの二人の様子に気づくと、わたしに詰め寄って来た。
「そんなことわたしに言われても、知らないよ~」
「あの子、一年生の図書委員でしょ?あんな態度許していいの?先輩として厳しく指導すべきじゃない?」
「そうだそうだ!!早く裏に連れて行ってヤキを入れてやれ!!」
二人とも顔が怖いよ……。この令和の世に後輩に厳しい指導とか、ましてヤキを入れるなんて許されるわけがないじゃん。
まあまあと二人をなだめていると、また新顔が姿を現した。弥生ちゃんだ。彼女は図書室を見回すと、わたしの方につかつかと歩み寄って来た。
「あの月子ちゃん、人が多すぎて寝られる所がないんだけど……」
「そんな風に言われても、図書室は寝るとこじゃないし、わたしもなんともできないよ~」
女子たちに詰め寄られ、わたしは小さく悲鳴をあげた。
なんでみんなわたしの方にクレームつけるのよ!!直接太一に言えばいいじゃん、もう!!
◇◇
「今日の杉山先輩の反応、手応えがあったんですよね。少しずつですけど、メイを見る視線が変わってきた気がします!!」
メイちゃんと一緒の帰り道、彼女は、一仕事やり遂げたぞといった感じの満足そうな表情だ。対照的にわたしの顔は冴えない。
「……ねえ、メイちゃん。正直、太一をどうしたいの?」
「もちろん杉山先輩にメイを好きになって欲しいです」
「その後のことよ。メイちゃんは太一のことが好きなの?」
わたしの一言にメイちゃんは一瞬だけキョトンとした顔をした後、急にブハッと吹き出した。
「まっさか~、そういうことじゃないですよ~。月子ちゃん、恋愛脳が過ぎるんじゃないですか〜?」
「じゃあ、なんで太一に好かれようとしてるの?好かれてどうしたいの?」
「どうって……え~っと……」
「図書室に来てる一年生男子たちもそうだよ。みんなメイちゃんのことを好きみたいだけど、全員の気持ちには応えられないでしょ。みんなに好かれても最後は一人しか選べないんだよ……」
わたしが真面目な口調で語り掛けると、メイちゃんが足を止めた。いつの間にか、普段絶やすことのない笑顔も消えている。
「……メイは怖いんです……メイを好きじゃない人がいるのが怖いんです。月子ちゃんは、うちの複雑な事情はわかってますよね?」
わたしは黙ってうなずく。メイちゃんのおうちは、彼女が小学生の時に両親が離婚して父親が家を出て行った。それから中学の時にお母さんが再婚して新しい父親ができ、最近、新しい妹も生まれたと聞いている。
「前のお父さんは、お母さんもメイのことも好きじゃなくなって、いなくなっちゃった。今のお父さんもお母さんも、口ではメイのことを好きって言ってくれてるけど、好きになってくれる努力をしないと、妹の方ばっかりに関心が移っちゃう……」
「それは……妹さんがまだ小さいし、しょうがないんじゃ……」
メイちゃんは黙って首を振った。
「メイの居場所がなくなっちゃう……みんなに好きになって欲しい。みんなに好きになってもらえば、メイが居ていい場所ができる……」
夕陽に照らされたメイちゃんの決意したような表情に圧倒された。その顔を見たら「もうそんなことやめなよ」なんて軽々しい言葉なんて、とても口から出せなかった。




