19.五島メイは悩んでる
「月子ちゃん、これ食べてください!家庭科で作ったんです!」
メイちゃんが差し出した小さな透明の包みにはクッキーが2枚。しかも袋がピンクのリボンで飾られていてかわいい。
クッキーは授業で作ったんだろうけど、ラッピング用の袋とリボンはメイちゃんがわざわざ準備したのかな?芸が細かいな~。
ふと見回すと、机に集まっているメイちゃんの親衛隊、メイ軍団の男子達の手元にも、全員一つずつ同じ包みがある。
すごいな~。こういう細かいケアも人気の理由なんだろうな。とても真似できんけど……。
「杉山先輩、これ家庭科で作ったんです。食べてください!!」
図書カウンターのところで、メイちゃんは太一にも包みを差し出している。だけど、太一は手のひらを突き出してお断りのポーズをした。
「ここ、図書室だから。食べ物持ち込まないでね」
柔らかい笑顔だけど、きっぱりした口調。
なるほど。気づかなかった。確かにそうだ。
わたしは舌を出し、うっかりうっかりと言いながら、こっそり包みをカバンに隠す。
だけど、メイちゃんは太一に注意されたことを思いのほか深刻に捉えたようだ。
「ごめんなさい……」
普段は明るいメイちゃんが、花が萎むように一気に元気がなくなった。
なんで?
あれかな?メイちゃんは男の人から怒られることなんてほとんどなかったし、慣れてないのかな?可愛い後輩だし、ここはフォローしてあげようか。
「どんま~い!別に図書室で食べたわけじゃないし、気にしなくていいよ~」
背中をバシバシと叩いて励ます。だけどメイちゃんの表情は晴れない。「すみませんでした」とすっかりしょげかえっている。
「あの、月子ちゃん。このあと相談に乗ってもらえないですか?」
上目遣いに潤んだ瞳でそう言われると、うなずく以外に選択肢はない。
◇◇
「あの……あたし、杉山先輩に嫌われてるんでしょうか?」
図書室当番が終わり、近くの象ノ森公園に移ってベンチに座るなり、メイちゃんが深刻な表情で切り出した?
「うん?いや、そんなことないと思うよ。いつもメイちゃんはよくやってくれてるって言ってるし。どうしてそんなこと思うの?」
メイちゃんは目を伏せ、しばらく足をブラブラさせ、それからわたしを見つめた。
「なんかこう、そっけないと言うか……。廊下で『こんにちは』とか『お疲れ様です』とか挨拶しても、『こんにちは』くらいしか言ってくれないし……それに向こうから話しかけてくれることもあんまりないんですよ……」
「なるほど……って、それ普通だから!普通の高校生男子はそんなもんよ!!」
「えっ?そうですか?他の男子は、みんな黙っていてもメイの周りに集まってくれますけど。あっ、あと、この間も杉山先輩に図書室の仕事でわからないことがあって質問したんですけど……」
「えっ?もしかして無視して教えてくれなかったとか?」
「いえ、やり方は丁寧に教えてくれて、実際にやって見せてくれたんですけど、途中から『五島さんが自分でできるようにならないとね』って、一人でやるようって言われて……」
「いや、それ、すごく真っ当な指導だから!!というか丁寧に教えてくれて、やり方見せてくれた後、やらせてくれるなんて、山本五十六レベルの親切指導だし!!」
「そうですか?こういうのって、みんな代わりに最後までやってくれるものなんじゃ……」
メイちゃんは真面目な顔で首を傾げている。
なるほど……メイちゃんは、これまで周囲の男子が何でもやってくれて甘やかされてきたから、普通の対応をする太一が相対的に厳しく見えてるのか。
というか、わたしなんか太一からそんな丁寧に接してもらったことないよ。
むしろ仕事を押し付けられてるし。あれを厳しく感じるなんて、メイちゃんはどんな世界に生きてるんだ?うらやましい……。
「それになんとなくですけど、杉山先輩の視線、他の男子よりも冷たい気がするんです。メイに対してそっけなさ過ぎじゃないですか?やっぱりメイのこと嫌ってるんじゃないかって……」
「う~ん、あんなもんじゃない?わたしなんかもっと冷めた目で見られてるよ」
「それは……月子ちゃんに対してはみんなそうでしょうけど……」
おいこらっ!失礼だぞ!!……って、まあ否定はできないか。周囲の男子がメイちゃんを見る視線は、わたしに対する視線とは明らかに違う。そんな熱い視線に慣れてるんだったら、温度差で太一の普通の態度を冷たく感じることもあるのか……。
メイちゃんの話に納得はしたものの、どう言葉を掛けていいかわからない。まさか太一に「メイちゃんにもっと熱い視線を送ってあげなよ」なんて言えないしな……。
そう思い黙っていると。メイちゃんの不安そうな顔が引き締まり、何か決意したような表情でうなずいた。
「決めました!!」
「なにをよ?」
「あたし、杉山先輩に好かれるように頑張ります!!」
ええっ?その答えは違わない?呆気に取られていると、メイちゃんは「うん、うん」と、一人で何度もうなずいた。
「慢心してました。これまで、ただメイはメイでいるだけで、みんなから好かれるって思ってました。でも才能だけじゃダメ。これからは努力が必要ってことですよね。あたし頑張ります!!」
いや違うだろ、その努力の方向性は絶対違うだろ。 そうは思ったものの、すっかり決意を固めた様子のメイちゃんに、わたしは何も言えなかった。




