↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/25

16.睦美ちゃんは見た!!

 弥生ちゃんが姿を消し、わたしはまた図書室で一人になった。時計の音だけがコチコチと響く静かな図書室。なぜか少し寒気がする。


 チリン……小さな鈴の音が響いた。


「ひゃっ!!……ってなんだ。メッセの着信か~。びっくりさせないでよ」


 誰なんだろ?そのままホーム画面を見て、今度こそ凍り付いた。


『うづき先生』


 そこにはそう表示されていた。さっきの太一の様子、それに弥生ちゃんの話……いったいどういうことだろう?


 頭の中の整理がつかないので、とりあえずメッセは開かず、そのままスマホを裏返した。


 その時、唐突に図書室の扉がガラッと開かれた。


「うっひゃ~!!」


「ええっ?ってどうしたの、月子ちゃん。そんな大声あげて……」


 入って来たのは睦美ちゃんだった。わたしが大声をあげたことによほど驚いたのか、普段は線みたいに細めている目を、大きく見開いている。


「ごめんね。なんでもないの。一人だったからびっくりしちゃって……」


「そっか、一人なんだ。あれっ?そしたら、た~くんは?もしかしてもう双葉ちゃんが先に……?」


 睦美ちゃんがにっこり微笑みながら圧をかけて凄んできた。


「ううん?今日は家で用事があるから先に帰るって。あっ、もちろん一人で帰ってたよ」


「そっか~。た~くんも水くさいな。お向かいだし帰るなら声を掛けてくれればいいのに……何の用事かな~?」


 睦美ちゃんはちょっと拗ねたような顔をして唇を尖らせた。


「ああ、うん。残念だったね。なんか、うづき先生の話をしたら、急にお父さんに相談があるからって、帰っちゃっ……て……」


 そこまで言ったところで、わたしは言葉に詰まってしまった。睦美ちゃんの顔に暗い翳が差したからだ。


「そう……なんだ。うづき先生が……」


「どうしたの?うづき先生に何かあったの?」


「ううん、なんでもないの」


 睦美ちゃんは小さく首を横に振った。だけど表情は暗いまま。とてもなんでもないようには見えない。


「あのね……実はわたし、昨日うづき先生に会ったんだ」


「えっ?うづき先生、近くに現れたの?」


 今度は明らかに睦美ちゃんの表情が変わった。それからしばらくためらって、やがて意を決したように口を開いた。


「お母さんからは、誰にも言わないようにって言われてるんだけど、月子ちゃんにも近づいているってことは、知ってた方がいいと思うから話しておくね。あれは去年の夏休みのことなんだけど……」


 睦美ちゃんは目を伏せながらとつとつと話し始めた。


◇◇


 あれは夏休みの終わりくらいだったと思う。夜、ベッドに入っていると、突然、路上から女の人のヒステリックな叫び声が聞こえてきた。


 なんだろう?酔っ払いかな?そう思って最初は気にも留めなかった。


 ただ、だんだんと、その叫び声がこう言っていることに気づいた。


「太一くん出て来て。先生に説明させて!!」


「あれは誤解だったの!太一くんを守ろうと思っただけなの!!」


 太一くん?この辺りで太一と言えば、向かいの家に住んでいる同じクラスの杉山太一のことじゃない?

 先生?太一の先生と言ったら……。


 あたしはベッドから出て、カーテンの隙間から道路を見下ろした。すると、杉山太一の家の方に向かって叫び続ける女の人の背中が見えた。


 間違いない。あれって吉野うづき先生だ!


「太一くん!!もう一度だけ先生とお話させて!どうして電話に出てくれないの?どうしてメッセに返事をくれないの?先生に悪いところがあったら、全部直すから~。うわ~んっ!!」


 うづき先生の顔は見えない。だけど、その声はどんどん緊張感を帯びてきて、ついには泣き声を上げ始めた。わたしはそれ以上見ていられなくなり、カーテンを閉じた。


 やがてパトカーのサイレン音が響き、うづき先生の声も聞こえなくなった。


 それから何日かした後、夕飯の食卓で、お母さんから太一のお父さんが謝りに来たと聞いた。

 なんでも警察にも学校にも相談したから、もう近所に現れることはないけど、逆上したら何をするかわからないから、この話は内密にして欲しいと何度も頭を下げられたとか……。


◇◇


「それで、新学期が始まったら先生が退職してて、近所にも現れなくなったんだけど……」


「えっと、それってつまり、うづき先生が太一をストーカーしてて、そのせいで学校を辞めることになったってこと?」


 睦美ちゃんが戸惑った表情で、だけどはっきりとうなずいた。


「じゃあ、あたし行くね。この話は誰にも言わないでね」


 睦美ちゃんが帰り、またわたしは図書室に一人になった。


 チリン……。


 またメッセの着信音が鳴った。スマホを裏返すと、そこには『うづき先生』という名前の通知が表示しきれないくらいたくさん並んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。