↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/25

13.吉野うづきが知りたいこと

「月子ちゃん、何でも頼んでいいよ」


「じゃあ、コーヒーをお願いします!!ブラックで」

 

 駅前で声を掛けてきた方は1年生の1学期だけ担任だった吉野うづき先生。

 懐かしさのあまり飛びつくようにして話し掛けると、立ち話もなんなので、ということで、駅前のレトロな喫茶店に誘われた。


 その喫茶店では、静かにクラシック音楽が流れ、端の方の席では老紳士が文庫本を読みふけっている。高校生のわたしが一人で入るには場違いだけど、文学少女として、こういう落ち着いた雰囲気のカフェで、ブラックコーヒーを飲みながら読書する姿には憧れる。


 さすがうづき先生!!


「ねえ、月子ちゃん。最近、学校の様子はどう?」


 落ち着きなくキョロキョロとあたりを見回すわたしとは対照的に、うづき先生は慣れた様子で、コーヒーカップを静かに受け皿に戻した。


「はい。今日から始業式でした。クラスはもちろん同じメンバーで……あっ、そうだ。美奈のこと覚えてます?1年のときクラス委員だった武藤美奈。彼女、リーダーシップが凄くて、文化祭も体育祭もぐいぐい引っ張ってくれて。それで2年でもクラス委員に選ばれたんです。本人は気が進まなかったみたいですけど、わたしたちとしては、もう美奈以外には考えられないって感じで……」


「そうなんだ。男子の方はどうなの?」


 うづき先生が目を細めながらコーヒーカップに口を付けた。美奈ちゃんが頑張ってる話、もうちょっとしたかったけどな。だけど、先生としては、女子だけじゃなくて男子の話も聞きたいよね。


「男子のクラス委員は、田辺くんです。ハンドボール部の。1年の時は目立たなかったんですけど、自分を変えたい~とか言って立候補して、それで……」


「ふ~ん、それで図書委員は誰なの?」


「……えっと」


 また話を遮られちゃった。そうか。先生は図書委員会の顧問だったし、図書委員の活動も気になるよね。


「わたしは図書委員を続けてるんですけど、川浦先輩って覚えてます?今年3年生の女子で赤い眼鏡掛けてる方で、すごく頼りがいのある。でも、川浦先輩が委員長になってから厳し過ぎて、去年は委員が減っちゃったんです。だから今年は勧誘頑張らないとってみんなで話してて。そういえば、うちの中学の後輩で有望な子がいるんで声を掛けようかと……」


「同じクラスの彼は図書委員続けてるの?」


 ぴしゃりとわたしの話を遮るような口調だった。しかも目を細めて微笑んでるけど、さっきより眼光が鋭くなった気がする。いや、気のせいかな?


「あっ、はい。続けてます。えっと……杉山太一くんですよね……」


「ああ、気にしないで。ほら、太一くんって、ちょっとおっとりしてるところがあるじゃない?だけど陸上部にも所属してるし、家庭の方も色々大変だから、大丈夫かなって心配してて……」


「ちゃんと図書委員は続けてくれてますよ。あっ、そうだ、心配するほどのことではないですけど……」


「なにかしら?彼に何かあったの?」


 うづき先生はコーヒーカップを受け皿に置き、両手で頬杖をつきながら身を乗り出した。


「杉山くんに何かあったというか、わたしが困ってる話なんですけど、実は……」


 わたしは、今年の一月以来、杉山くんが図書室当番の時、いつも双葉ちゃんや睦美ちゃんに連れ出されてしまう話をした。


「……それで、その後はわたしが一人で図書室当番をやらなきゃいけなくなって。まあ、杉山くんから二人に話して、改善するとは言ってくれてるんですけど……」


「その双葉ちゃんって子、知らないわ」


 うづき先生はまた、わたしの話を遮るようにして、ぐいっと身を乗り出した。


「去年の12月に転校して来た子です。なかなか友だちができなかったので、杉山くんと仲良くなったみたいで」


「そうなのね。それに睦美ちゃんが太一くんの幼馴染みなんて初めて聞いたわよ」


「ああ、それはわたしもびっくりしてて、なんか家がお向かいらしいですよ」


「へぇ~、そうなんだ~」


「……」


 圧を感じて言葉に詰まってしまった。わたしをじっと見つめる瞳がなぜか恐ろしく感じた。まるで小さな頃、いたずらをしてお母さんに問い詰められた時のような感じがする。


「それで、他にはいないの?」


「えっ?えっと……?」


「太一くんにちょっかい出す女は他にはいないのって聞いてるの!」


 さっきよりも少し大きな声だった。喫茶店の隅の老紳士が少し驚いたような顔でこっちを見ている。


「あっ、えっと……別に……」


 迷ったけど、弥生ちゃんのことは黙っておくことにした。なにか言ってはいけないことのような気がする。


 うづき先生は数秒間、じっとわたしを見つめた後。また目を細めてニッコリと微笑んだ。


「ありがとう。よくわかったわ」


 ほっとして緊張が緩んだ。というか、わたし、緊張してたんだ。そう思いながらすっかり冷めてしまったコーヒーに手を伸ばした。


「ねえ、月子ちゃん、連絡先交換しない?また色々とクラスのことを聞かせて欲しいし」


「はい。わかりました」


 カバンからスマホを取り出し連絡先を交換すると、うづき先生はにっこりと微笑んだ。


「今度は、あの子の話も聞かせてくれる?三元弥生ちゃんの話……」


 どうしてそれを?驚いてうづき先生の顔を見つめると、笑っているのは口元だけで、その目はまったく笑っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。