第二話 : 大好きと言う彼女は、愛してるとは言わない
彼女とは新人研修で出会った。
俺、賢太23歳。
彼女、梨香23歳。
入社一年目。
席が隣りどうしになって、なんとなく仲良くなった。
新人歓迎会で盛り上がって、そのままホテルへ直行。
梨香は美人というよりは可愛い系だ。
髪はショートで、少し茶色に染めてる。
スタイルは抜群。
クリクリした目で見つめられると、もうたまらない。
付き合い出して一年。
この頃、梨香はわがままになってきている。
だが俺は梨香に弱い。
彼女の言う事なら、なんでも聞いてしまう。
「ねえねえ、今度あのお店に新作のバッグが入ったの。梨香、買ってほしい。いいでしょ?」
「え、だってこの間買ったばかりじゃん。俺、今お金ないよ」
「わかった。賢太、梨香のこと愛してないんだ」
大きな瞳から涙が溢れている。
泣き真似でここまでするか?
「わかったよ。買ってやるよ。仕様がないなぁ」
俺だって欲しいものがあるんだ。
でも梨香には逆らえない。
少しばかりの貯金を下ろす事にした。
スニーカーはお預けだ。
「やったぁ! 賢太いつもありがとう! 大好き!」
そう言いながら俺の首に手を回し、頬にキスをした。
なんて現金なんだ。
でも、そんな梨香が可愛くてたまらない。
「今夜、食事に行かない?」
「いや、今夜はボクシングの動画配信を見るんだ」
「わかった……梨香よりボクシングの方が大事なのね。梨香の事なんてどうでもいいんだ」
膨れっ面をして後ろを向いてしまった。
そんな梨香の後ろ姿を見るのは、心が締め付けられる。
「いや、そういうわけじゃないよ。いいよ……じゃあ何食べに行く?」
動画配信はすでにチケットを買っている。
なのに、今回も見れずに終わってしまうのか……。
付き合い始めた頃は、こんな梨香が愛おしくて仕方なかった。
しかし最近は、ますますエスカレートしている。
「梨香ねぇ、わがままを聞いてくれる賢太が大好き」
――俺は、わがままを言う梨香が大嫌いだ。
とは言えない。
俺には「愛してる」を強要してくるのに、梨香は「愛してる」とは言わない。
いつも「大好き」だ。
本当に俺を愛してるのか。
大好きなのか……俺の金を愛してるんじゃないのか?
「梨香、俺のこと愛してる?」
「なんでそんなこと聞くの」
「梨香はいつも俺に聞いてるよな」
「うん、梨香も大好きだよ」
違う。
絶対に違う。
今日こそは言う。
「梨香はなんでそんなにわがままになったんだ。最初はそうじゃなかったよね」
梨香は俯いて、じっと何かを考えている。
顔を上げると、きっぱり言った。
「嫌いなの」
「え?」
「賢太の事、大嫌い」
「なんで、嫌いな俺と付き合ってるんだよ!」
そう言うのが精一杯だった。
「私のお父さんと、賢太のお母さん。付き合ってるの知らなかった?」
何が何だか、何を言ってるんだこいつ。
確かに俺は、小さい頃から母子家庭で育った。
不倫でなければ、誰かと付き合ったところで文句を言われる筋合いはない。
「あんたの母親と付き合い出してから、父は私より彼女の方を選ぶのよ。父一人子一人の家庭で、あんなに私の事可愛がってくれてたのに」
嘘だろ。
梨香の父親と母が……。
誰かと付き合っているのは知っていたけど、まさか…….。
俺の頭の中はパニックだった。優しいお袋が、このわがまま女の父親と? じゃあ俺たちの関係はどうなるんだ?
「賢太と付き合い出してしばらくしてから知ったの。それからは賢太が憎くなって、困らせてやろうと思ったの」
「だからって、なんで俺が関係あるんだよ。なんで憎くなるんだよ」
「だって私の大好きなお父さんを盗んだ人の子供よ。憎いわよ」
論理が無茶苦茶だ。
「わかったよ。じゃあもう別れよう。それでいいだろ?」
「いや!」
「どうして……俺が嫌いなんだろ」
「だって賢太と別れたら、私のわがまま誰が聞いてくれるのよ」
なんてこった。
俺はお前の執事かよ。
だが、別れようとは言ったものの、大粒の涙を流す梨香を放っておくことなんてできない。
やっぱり俺は梨香を愛してる。
――それから半年年。結局お袋と梨香の父親は別れてしまった。
「賢太、足がいたぁい」
「ハイハイ、お嬢様」
俺は梨香の足をマッサージしている。
「賢太大好き!」




