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短編集 —— それぞれの恋愛模様 ——  作者: 影野 紡


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第一話 : 二人なのに寂しい


幼馴染の彼は、私をとても大事にしてくれる。

健といると安心する。昔からずっとそうだった。


彼と同棲して二年。


彼は健、二十八歳。

私は優里、二十六歳。


まだ結婚の話は出ていない。


「昨日さぁ、CMに出てたケーキ食べたいって言ってたよね。買ってきたよ」


仕事から帰って来た彼の第一声だ。


小さな紙袋に、私だけのケーキが二つ。


健は甘いものが苦手。

なのに、いつも私のためだけに買って来てくれる。


ケーキを食べている横で、健はニコニコしながら私を眺めている。


「健は何にも食べないの?」


「僕は食べてる優里を見てるだけでいいんだ」


そう言って、また笑う。


そうじゃないんだなぁ。


私は健と一緒に食べたいのに、いつもひとりぼっち。

横にいるのに、なんだか寂しい。


この間も私が、


「ゴミ出してもらっていいかな」


ってお願いしたら、健は、


「いいよ。なんでも言って」


そう言った。


そうじゃなくて、言わないでもやってよ。


私の言うことはなんでも聞いてくれる。

そう、優しいのよ。優しいの。


なのに、自分じゃ気が付かない。


「今日は喉が痛くて熱があるから、仕事休むね」


「熱があるんなら病院行けよ」


そうじゃないの。


――大丈夫?


その一言が欲しい。


ねえ、私のこと見てる?


もっと深く入って来て欲しい。


声に出して言っても意味ないの。

あなたが感じて欲しい。


健が夕飯を買って仕事から帰ってきた。


「病院行った? 夕飯買ってきたよ」


「私の分も夕飯、買ってきてくれたんだ」


袋を開けてみる。


トンカツ……。


喉痛いって言ったよね。

熱もあるんだよ。


なのに、トンカツ。


「トンカツ、ダメだった?」


「う、うん。少しなら食べれるかも」


言えない。

せっかく買ってきてくれたんだから。


「残してもいいよ。僕食べるから」


健は優しい。

とっても優しい。


今日は私の誕生日。

なのに帰ってくるのが遅い。


準備して待ってるのに。


残業かな。


十時ごろになって、やっと帰ってきた。


「今日は遅かったね。残業だった?」


「うん、ちょっとミスした子がいてさ、手伝ってたんだ」


「今日、私の誕生日だから早く帰ってって、朝言ったよね」


「うん。でも困ってる人ほっとけないし。だからプレゼント買えなくて。これで何か買って」


そう言って財布からお金を出し、テーブルに置いた。


いや、違うでしょ。


そういうことじゃないでしょ。


なんでもいい。

私のために、一生懸命考えて買ってくれるプレゼントが嬉しいの。


ねえ、私を見て。


――今日は遅くなってごめん。


この一言が欲しい。


ミスした子って誰……。

同僚の女の子? 男の子?


もういいや。今日は遅いし。


悶々としながらベッドに入った。


翌日。


「これ、昨日言ってた同僚が作ったクッキー。お礼だって。僕、甘いもの嫌いだけど、優里が食べると思って」


「そうなの? 同僚って女の人?」


「うん、そうだよ」


健は何かを気にすることもなく、一言だけそう言った。


私の知らない同僚の女性……。

私が気にしないと思った?


これから先、健と暮らしていけるのだろうか……。


もうずいぶん心が疲れている。


最初からこんな人だっけ。

気づかなかっただけなのかな。


優しい人だと思った。

私を大切にしてくれると思った。


でも、何か違う。


どこかですれ違っている。


優しくしてくれるたびに、寂しさが増していく。


――そうじゃない……そうじゃないの……。


健は悪くない。


でも、二人なのに何故か寂しい。


この感情の繰り返しに疲れてしまった。


もう健との暮らしは無理だ。


だが、どうやって別れを切り出せば……。


考えがまとまらない。


手紙を置いて、そっと出ていくことにしよう。


私は荷物をまとめ、簡単な手紙をテーブルの上に置いた。


『ごめんなさい。あなたの優しさに疲れました。さようなら』


こうして私は、健の優しさに終止符を打った。


自分の自由のために。

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