自己ログ倉庫6 「卓球の話 船城登場」
ちなみに後の退部した子は船城っていうんや。暗くてすでに中学でぼっちやった。でも俺には気を許してたけど、なんか捻くれてたな。ふふふ。それが良かったんだけども。コンクリートの話では、実はその卓球場が中学にはなくて剣道場を使ってたんや。ほとんど同じなんだけど。
で、剣道場は校舎から少し離れていて一階やった。だから、屋根はあるんよ。屋根というより2階があるんだけど。で、柱が建てられてて、壁はあんまりなかった。剣道場への入り口や靴箱が一面にあって、通路があって、別の反対側には先生の駐輪場があって、それもコンクリートの屋根がある。で、さらに奥は2階まであるその建物から外れていて畑やった学校の小さな。国語の担任教師がその小さな畑でなんかを育ててた。
風は結構通ってた。その剣道場の前のコンクリートの床で剣道場から古めの卓球台を一台出してそこで二人だけで卓球をしていた。たまに先生の呼び声で剣道場に入って指示受けたり。まあ指示は無視してたけど
ずっと遊んでた。競技?試合?いや、面白ければそれでいい。歌いながら。雑談しながら。俺は船城と遊んだ。
「今日は授業どうやったん?船城」
「え?普通。」
「ははは。お、いまのうめぇ。」
「…」
「うわぁ。風えぐすぎ。戻ったやん。」
「マジでえぐい」
「次サーブそっち。」
「おん。」
「船城まえ神話好きって言ってたやろ?俺前北欧神話読んだけど、船城は読んだことある?」
「おん。」
「おっと。」
「巨人の話が好きやった。」
「そうか。俺はやっぱオーディンやな。」
「かっこいいよな。」
「おん。」
乾いたピン球が台で跳ねる。近くには剣道場が聳え立つ。大量のピン球の音が聞こえる。全て忙しくて強くて速い音。掛け声に合図の音。
外は静かだ。だから外に響く。風は冷たい。台を揺らす。時にはネットを飛ばしたこともあった。台が動いたこともあった。船城の歳が歪んだ会話は面白かった。妙に気が合う、馬が合う。
落ち着いたその声も、長い間も嫌いではなかった。
俺は変なサーブを覚えた。バックで6種類覚えた。覚えたというより生み出したのだが。大きな風の中でも飛ばされないように、大きな肩の前で高く上げるバックサーブは安定していた。
1つ。大きく空にピン球を上げる。大体頭くらい。で、それが空を飛んでいる時、俺のラケットを持つ左手はクネクネ動く。うねうね動く。それが面白くて船城は笑う。その隙に俺は堕ちてきたピン球を弾く。下から救うように奥へ引く。そしたら超横回転、右に曲がる上回転ロングの誕生だ。船城はこれをよく引き込んだのちロビングで返してきていた。ロビングは最強だった。
風に身を任せる。運命を任せるのだから。船城は風を読むのがうまかった。
ロビングッで打ち上げられたピン球は俺の回転で左にずれたのに風で戻される。そしてふわふわ浮いて跳ねたピン球を俺はバックで弾く。それがたいていネットにかかるのだ。
だから俺もロビングを打つ。そしてそいつはたいてい俺の方へ風で戻されてネットスレスレを弾き、まるで下回転がかかったように俺の方へ戻る。それを呆然と自分のコートで構えている奴は必ず取れない、取りこぼす。
だから船城は俺がロビングで返した瞬間。読む。未来を、視る。
最初から台の横で構えている。そして俺の方へ戻るピン球を俺のコートで叩いて勝つ。俺はそれを取ろうと大きく後ろへ下がる。国語の先生の庭にまで下がる。そしてそれを返そうと打つ。大体入らない。でもたまに入る。それはロビング。船城は笑ってそれを眺める。しゃがんで笑う。
俺も笑う。そして時間が過ぎていく。そんな時間を過ごしていく。
そして今。中学を卒業し高校生になりあと半年でその高校生をも卒業する時期。青春を知り青春を想い創作し自分の世界を歩き一人笑う俺。そして連絡はスマホ上だけの船城。もう長らくその連絡すら取っていない。今何をしているだろうか。
どうせぼっちだろう。俺と同じ。でもあいつは中学からだったから、強いだろう。謎に精神年齢の高いやつだから。
2限目の体育。選択授業で第一希望にした卓球。俺の目の前にはあの日と同じ卓球台があった。
雨の日だった。外で雨音、中でピン球と荒い息。総当たり戦。授業。
俺は経験者?
そう分類された。
ハンデがある。
一般女子とは6−0から、一般男子とは2−0から、経験者女子とは2−0から。
中学に少し齧っただけだ。高校生では剣道部に入って一年でやめた。理由は正しい型をやらされることが面白くなかったから。時間の束縛がつまらなかったから。やめてから放課後には近くの山に衝動的に行って夜景を見たり、河川敷で笑ったり中古屋で漫画を読んだり、.早く帰ってアニメを見たり。
そんなことをしていた。
周りの男子は発育がいい。体が強い。一方俺は?178だ。身長は。痩せ型。無機質な髪型。まさに大学生時代のひろゆきのような髪。
顎髭を不揃いで生やして、でもハサミで長さだけは揃えてる。
鼻はスッと通ってる。そんな人間。別にヘラヘラもしていない。ただ、ずっと遠くをみてここにいないようなだけ。そう思われているだけだ。
呼ばれた。現役卓球部女子だった。
試合は2−0から始まった。相手はこの総当たり戦で無敗だった。経験者は五人いる。彼女はそのうち、彼女自身を抜いた三人をすでに倒していた。そして他の未経験者とは4−0のハンデから。それでも無敗だった。
試合をさそったとき、彼女は笑っていた。そばでは俺と戦った男子達がささやいていた。
一番えぐいのがみれる、と。
彼女のサーブからだった。バックサーブ。回転は薄いように見えたかもしれないが俺は回転を見なかった。ただ来た。
(あー、横上弱か。風はない。はいはい。)
レシーブで俺は引き抜いた。バックドライブ。いや、バックスマッシュか?よくわからない。けれど刹那、ピン球は撃ち抜かれていた。
2−1
彼女の2回目のサーブ。
同じバックサーブだたpった。しかし俺のフォアに入った。それをバックで薄く絡めとる。クイット上へスライドしたラケットで相手のフォアのショートに入る。そして相手がミスる。ネットへドボン。
(ほいほい。)
観客が増えた。俺のサーブ。
あのサーブを出した。気持ちの悪い横回転。
しかし普通に返された。最初から巻き込みドライブ。なんだろう、やめてもらっていいですか。
無気力で返した。そして相手が待っていたように俺のバックへスマッシュ。審判は無意識に点を彼女に入れようとしていた。
俺は返した。左腕が俺の右腕を超えて右へ。極みの右端スマッシュは俺のくねりバックで返された。虚空を通る。全力を出し切って息をする彼女の横を静かに通り過ぎていった。
3−2
超えた。次のサーブも返された。でも同じだった。俺も返せるから。
気持ちの悪い左。審判は男子の経験者だった。
「レベルが違う。」
そう言っていた。ロビングもうった。というか相手は上回転がかかり過ぎていた。少し苦手だった。
けれど一度で学習する。あの船城との遊びにおいて同じミスはつまらなかったから。だからすぐわかる。返せる。
二度目は間違えなかった。ロビングを打ったあと小さく笑う。相手の強打。それは入らない。ふふふ。
相手がスマッシュを打った。それを高い位置で返したらラケットでどう返したかが相手に見える。
だからピン球が台より下の位置に達して相手からピン球が見えなくなったところを狙う。
捻って打ち返す。ロビングで。
捻ってるから無回転じゃない。
下回転。それを知らずに打つ相手。当然ネットにかかる。これに気づいたのはあの日の船城だけ。
だから君には取れない。
君には取れない。
4−3
流れは完全に俺のものだった。相手は同じミスをした。サーブミスもした。
6−3
7−5
8−5
9−9
10−9
そして最後の俺のサーブ。
今まで出していなかった下を入れたバックサーブ。俺はそれを出しながらほくそ笑む。
もう勝ちは決まっていた。
馬鹿みたいにラケットを振り上げる姿。当然落ちる。ネットへ消える。
決まる。
最後なのにしょぼい?盛り上がりにかけた?
ミスった、レシーブ、最後取れたのに?
観客のささやきも相手の愚痴も全てが情報の不完全なうえで語られる戯言だ。
俺の手にはこの試合で飛び交ったピン球がある。
完全なる戦略的勝利。
それは俺の手の中にある。
けれどそれは当然だ。
勝利というよりも俺に取っては再現。あの日の再現。そしてそれはなかなかどうして結構面白いものであった。




