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自分史  作者: 暮葉畏啓
莉里園社
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自己ログ倉庫32 「初期作品は寿命が長い。」

「僕と君は、『君の数だけ掛けて、育んだもの』があるじゃないか。なんでそんなこと言うんだよ。」


俺は恐らく一発目では確実に知り得ないであろう隠語を使い吉田雄我を攻撃した。

しかし彼は、そんな表現はすでに読んでいた、甘いな森岡、と俺の心を見破ったような顔で自信満々に告げる。


「僕は給食に『愛の数だけかけたもの」を注いでいるんだ。君とのそれよりももっと深い関係をね。許せ森岡天魔。僕は給食を食べるためにこの星に生まれてきた。その宿命を変える義理など存在しない。』


なん、だと。こいつやるな。

俺が怒りと悔しさの涙でグチュグチュになり最早、人間の顔ではなくそれこそタコの顔のように変形した顔をしていると、隣から冷静な声が飛んできた。


「二人とも、『ゴーの数だけかけたもの』だな。もうすぐ給食始まるぞ。」


非常に冷静に状況を分析し、そのうえ、俺の考えに考えた隠語の構成方法すら看破した上で、さらにその上をいく応用を施す。そんな技術を軽々とやってのける男は矢野翔だ。

俺のすぐ横で、俺らではなくその奥、後方に焦点を合わせ、ことのいく末を見据えていた。この男は俺たちがどうにかして戦える相手ではないな。俺はそう一人納得し、荒げた声を出す。


「俺はもやしが吉田より少なかった。だからハンバーグは確実に手に入れる。そしてコッペパンに挟み、美味しくいただくんだ。」


「仕方ないな。結局僕と君は戦わなければならない運命の橋に立っているわけか。この事実、受け止めるしかないようだな。では、森岡天魔、心して僕に立ち向かいそして破れるんだ。」


「負けるつもりはない。吉田雄我。俺は俺が信じる給食の道を歩む。たとえその道が針金で埋め尽くされていても、だ。運命に逆らい、そしておかわりできる世界線を俺は勝ち取る。」


俺と吉田はそれぞれ心の底に宿した熱き心の片鱗を露わにしその心を拙い日本語で伝えた。

俺は静かな声で呟く。次はお前の番だ。聞かせてくれ、あんたの本心を。すると時を待っていたのか満を辞してその正体を露わにする。


「忘れてないかいこの俺を。君たちが本来忘れてはいけないほどの影響力を持つこの俺を。もちろん参加するよ、このジャンケンに。」


不気味に微笑む横顔を逆光で隠しながら西澤涼は語った。彼の周りで給食の旨み成分を含んだ香りが広がっていく。

こいつ、伝説の給食使いなのか!?

俺と吉田と西澤は伝説のタコがその全神経を燃やし尽くして放つ熱気を超える邪気を漂わせて一斉に声を上げた。


「俺の、僕の愛を見ろおおおお!」


時計が天頂を乗り越えて、いくばくかの時が流れた後、先ほどまで、世界の中心で流転するエンタルピー総量よりはるかに大きなエネルギーが循環していた教室は普段の何も変わらない教室へと変貌していた。

 生死をかけた給食ジャンケンは無名のクラスメイトの勝利に終わり、『吉田雄我のナムル事件』として歴史に刻まれることとなる。


 この時の俺らはただ、日々の暮らしは単純極まりなく、幸せだけが蔓延っており苦痛と言う名の成長剤を皆でなすりつけあって生きていたのだ。楽しかった日々。輝いていた日々。そういえば確かに聞こえは良いかもしれない。しかしこの日々に慣れて人間関係の苦痛を知らずに生きた俺たちは、来たる高校生活で大きく絶望してしまう。生きる意味なんてものを真剣に考えて、今まで常識として捉えていた、友達、クラス、世界、規律、部活、そして命の本質を知ろうともがいた。


この世界に生きる価値はあるのだろうか?

俺たちの問いは醜く瓦解した空の上で爆ぜて散った。

そんな高校生活を過ごしストレスと幸せの供給の格差に脅かされ、精神を壊したそんな今でも言えることがある。


 「この中学での暮らしだけは、最高に最高な日々だった。」と。そして、


 「俺たちは給食のために生きていたのだ。」と。


がある。

 「この中学での暮らしだけは、最高に最高な日々だった。」と。そして、

 「俺たちは給食のために生きていたのだ。」と。



































 第五話「自由」


このクラスは異常だ。

卒業してから分かったが、このクラスは異常者で溢れかえっている。

このクラスは問題児ばかりが偶然集まったクラス。

そのことに気づいたのは彼らが他のクラスに分散した二年生と三年生の時だ。それぞれが心の狂気の片鱗を放出しまるで空気を入れすぎたバレーボールが以上に膨らみ、勢いよく破裂するようにそれぞれのクラスで暴発したからだ。


元一年四組はやばい。それはこの学校の一種の共通概念であり、常識であったのだとつくづく思う。

そして今まさに俺はそんな教室で声を上げて笑っている。クネクネと体を捻り、喜びという概念を表面的に表す。俺の周りは歪められた面で囲まれていた。それに呼応したのか教室の窓から差し込む日光の死角、暗闇と呼ばれる空白から彼らが現れた。


漆黒の領域からゆっくりと姿を露わにする彼らは、この僕、森岡天魔の仲間である。


「よお、お前ら遅かったな。」


俺は挑戦的な目で彼らを見つめた。


「別にいつも通りだ。僕は僕がしたいように生きる。たとえ意志を共有した君でも僕の信念は変えられないよ。」


黒き暗黒の翼と呼ばれる甲武中生がその身を隠すブレザーを力強く慣れた手つきではためかす。世界を裏で操る権

力者のような彼のオーラに俺の両目はイカロスのように焼かれる。


「そんなところでどうしたんだ。森岡天魔。今日は定規バトルしないのかい?」


その声に驚いて振り向くと空気が歪み、その歪んだ世界から姿を現す人影があった。


「委員長じゃないか。どうしたんだ。そんなところで。」


空間を自由に歪ませその御体を異次元空間に行き来させる彼は、至極真っ当でこの世の常識だと言わんばかりに整然と返答した。


「君に縛れらるぎりはない。俺は委員長だ。誰かに縛れらることなく自由に生きる。そして俺はそれが楽しい。だから君に指図されたくない。」


「委員長、あんた本当に自由に生きていると?」


「ああ、そうだ。」


「でも、委員長。あんたもこの学校に支配されているのは変わりないだろ?だったらあんたは、自由になど生きれないんだよ。自由に生きれないならそれはだれかに支配されていること。そんな現実を知った後で楽しく生きれるのかな?」


「俺は何も、自由に生きることを良いことだとは思っていない。ただ、今俺は自由に生きている。自由に生きることを楽しく思うことに不可解な点はないだろ?」


俺はその言葉の差異に気づけなかった。

こいつ、何言ってるんだ、である。それを補足するためか、やはり再び日光の死角、黒紫色で塗られた隅からまた一人姿を現す。


「二人ともそれはただの戯言だ。自由に生きていると勘違いしている西澤も、自由に生きているかどうかで楽しい生活かどうかを判断している森岡も考え方、前提がまず間違っている。」

目を伏せ、諭すような声色で優しく、だが冷静に発言するその姿はこの世の真理を理解した全能の神のようであった。


「でもさ、矢野。自由に生きることは良いことで、縛られて生きることは嫌なこと。それに間違いはないだろ?それがたとえ楽しい生活に直結しなくても、良いことか悪いことかは判断できるはず。」


俺は、自由に生きることは良いことで縛られて生きることは避けるべきことだとかんがえ、それと生活が楽しいかどうかは関係ないというスタンスに切り替えて反論をする。

矢野、あんたの考えには欠けがあると。


「だから違う。言っただろ。お前は間違っていると。自由に生きることが必ずしも良いこととは言えない。」


俺は突然思考の前提を否定され、どういうことだと彼の意見を耳を傾けて聴く。


「自由に生きる。考えてみろ。地面があるだけで、地面の上で生きなければならない。束縛だ。体がある。それは体という物理的な存在に魂を閉じ込めていることになる。それも束縛だ。詰まるところ真の自由とは何もないものなのさ。地面も空も人も概念も思考も何もない。何もないからこそなんでもできるというけれど、それはゼロからイチを作り出すことを意味し、そんな芸当ができる奴などそうそういない。お前はその選ばれた人間か?お前はゼロからイチを作れる逸材か?はっきり言って違うと言える。あんたはただの夢患者だ。だからこそ自由はあんたにとって良いものとは言えない。しかしまた過度に束縛することも良いこととは言えない。」


「じゃ、じゃあどうしたら良いんだ。」


俺は全てを否定され、まるで家を抜け出し金を落とした迷子の子供のように焦った顔で問いた。


「だからさ、結局、『官を侵すの害』なんだよ。」


彼ははるか昔に書かれた中国の有名な話の題名を言う。


「そいつは、まるで中途半端に生きろってことじゃねえかよ」


俺は怒りを抑えきれず、心のうちを吐いた。


「そうだ、結局世界はやりすぎもやらなすぎも認めない。イレギュラーは排除される。だから平凡に生きないといけないんだよ。この前提と条件で思考すれば必ずその答えに行き着く。その見方だけならその解にしかいきつかない。だからあんたがするべきことは、他の見方をすることだ。」


彼の声は俺の思考に入り込み奥底まで伝えていった。本当に重く考え込まれた解だ。彼は以前に考えたことがあるのだろう。そして絶望した俺のために新たな道までを示したのだ。これが同い年で生まれる格差なのか。おかしい。

こいつは、こいつは、それこそ、あんたの言った過剰に優れている、じゃないのか?

おれは心で闇を吐いた。しかしその声は誰の耳に届くこともなかった。


「僕はうまくこの包囲網から逃れられたようだ。逃げるが勝ち。これもまた格言の一つで、正しい考え方さ。」


四人を囲んだ領域は少しだけ、塩少々の時につかむ塩の量くらいには変革していた。

顔を床に向け、やつはささやいた。


「それでも世界を変える奴はいきすぎた奴なんだよ。劣っている方にも優れている方にも、どっちのベクトルにもな。だからこそ世界を変える力を持つ奴はその過剰さを周りに叩かれ引き裂かれる運命にある。」


「それでもお前が、世界を望むなら忠告者としての俺はあんたを止めない。」


「仲間としての俺はお前を全力で止めるだろうけどな。」


それに三つの影が囁く。


「っふ、皮肉だな。」


「世界は、この世界は本当に素晴らしいと言えるのか?誰かが変えないといけないんじゃないか?」


「それでも僕は自由に生きている。」


彼らの独白は教室という狭い檻の中で弾けて散った。


自由が何も素晴らしいことだとは言えない。その考えから派生した『官を侵すの害』という言葉は一種の真実を含んでいた。それでも俺は出された解を写したくない。自分で解を出したいのだ。

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