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業火の舟  作者: キロヒカ.オツマ―


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3/6

狂気の胎動

 さくらホームの空気は完全に変わっていた。

 新たに入所した信者の老人たち。夜な夜な廊下を這い回る不気味な影。吐瀉物と血の混じったシミがあちこちに残され、奇妙な経文が壁に記される。


「天は我らと共に」


 それは、ただの呟きではなかった。信仰の狂気が、施設内をじわじわと蝕んでいた。


 


 ある夜勤、功二は監視カメラの映像で、老人の一人金田正雄が倉庫へ引きずり込まれる瞬間を目撃した。

 駆けつけると、そこには信者の職員が数人、白装束を羽織り、金田を押さえつけていた。


「薬を打て!もうじき神の胎動が始まる!」


 注射器が老人の首筋に突き立てられ、得体の知れない青黒い液体が体内へ流し込まれる。

 金田は目を見開き、激しく痙攣し始めた。白目を剥き、口から泡を吹き、全身が硬直する。


「天の浄罪だ……神が産まれる……!」


 信者たちは狂喜乱舞し、金田の体に刻まれた無数の焼印を舐め回した。胸、腹、太腿、性器。そのすべてに教団の印が焼き付けられていた。


 功二は躊躇なく鉄パイプで一人の信者の頭を叩き割り、脳漿と血を撒き散らしながら金田を救い出そうとした。

 だが、金田の体はすでに常人のものではなかった。

 白濁した瞳で功二を睨み、低く呻きながら、あり得ない力で腕を掴んでくる。


「た、助けて……神が……」


 金田の腹が不自然に膨れ、皮膚の内側で何かが蠢く。

 功二はその腹にナイフを突き立て、腹を裂いた。中から飛び出したのは、血にまみれた異形の胎児の死体だった。


「これが……儀式の胎動か……」


 功二は吐き気を堪え、信者たちを次々と撲殺した。室内には、生きたまま内臓を抜かれた老人の死体がぶら下げられ、床には血の経文が描かれていた。


 


 その夜、倉持篤志から連絡が入った。


「黒川が動いた。覇真の教団に正式な後ろ盾を与えるらしい」


「……そうか」


「政治家の黒川、教団の覇真、そして鶴舞医療センター。この三つが繋がった。しかも黒川の息子も教団の幹部だ」


 証拠映像には、黒川慶次が覇真と握手する場面が映っていた。背後には血塗れの祭壇、焼かれた胎児の死体、そして白装束の信者たちが映り込んでいた。


「黒川の政治資金の半分は、教団の人体実験利権から流れてる。老人ホームもその実験場の一つだ」


「クソが」


 


 功二がホームへ戻ると、麗奈の姿が消えていた。

 職員たちは誰も行方を知らず、唯一知っているのは天の印を刻んだ信者の職員のみ。


「麗奈はどこだッ!」


「もうじき神に捧げられる。胎動の刻だ……!」


 功二は男の顔面を壁に叩き付け、歯と血を撒き散らしながら吐いた情報を頼りに、地下の隠し倉庫へと向かう。


 


 そこでは、麗奈が磔にされ、生きたまま血を抜かれ、周囲に置かれた内臓と胎児の死骸が儀式の準備として捧げられていた。

 覇真直系の幹部信者たちが骨の削がれた老人の遺体を積み上げ、地獄のような光景。


「神の胎動は麗奈の魂を媒介にして完全体となる。覇真様の計画だ」


 功二は怒り狂い、鉄の斧で信者の頭を粉砕、骨ごと割り、血飛沫を浴び、肉片を散らしながら突撃する。


「待ってろ、麗奈……今助ける!」


 


 血と肉の雨の中、功二の瞳は再びかつての狂犬の光を取り戻していた。

 地獄の儀式の胎動は、止められるのか。

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