第五話 天才と天才の戦いと試験会場へ
「これ以上醜態を晒すな、おい連れて……!?」
次の瞬間、ゼレシア先輩の頬を彼女が打ち抜く。
不意を突いた綺麗な攻撃だったが、彼女の意は断つことが出来ず笑いながらティアを見る。
「驚いたな、あれでまだ動けるとは……そうか、自己回復魔法か」
「さぁね、貴方の攻撃がへなちょこって事もあるけど」
ゼレシア先輩は笑みを浮かべ、ティアは表情を変えずに見ている。
「言ってくれるねぇ~、だったらとことんやろうか……っと言いたいところだが、私もそこまで暇じゃない。 この件は双方謝罪という形で手打ちにしないか?」
「ない、私達が謝罪する理由がない」
「理由ならあるさ、喧嘩両成敗って言葉知らない?」
「先にこの子に攻撃したのはそいつら、いつだって先に手を出した方が悪い。 違う?」
「確かに、でも証拠がない。 彼女らがその子に暴行したという証拠も証言もない。 言い方を変えればこのままじゃ君が先に手を出したことになりかねない。 それはこの子に迷惑をかけると思わないかい?」
彼女の言う通り、目撃者は全員向こうに味方しているので、ここは従っておくべきだろう。
うまい具合の幕引きだ。
「ティア、ここまでにしよう」
「駄目、ここで引いたらカリンが悪者になる」
ここで私の心配かぁ~、やっぱりティアはいい子だなぁ~。
彼女の一歩も引かない芯の強さが格好いいなと思ってしまう。
だが、この状況では愚行だから、私が割って入る。
今までこういう融通が利かなくて揉めた事の方が多いのだろう。
「これ以上ティアが傷つく方が嫌だからお願い、ね?」
そういうと、彼女は戦闘態勢をやめ私の元へ寄ってくる。
「……痛そう」
そう言って彼女は手を翳す。
「かの者に癒しの力を 治癒」
私の痛みが少しずつなくなっていく。
しばらくして私の蒼く腫れあがっていた傷は綺麗に完治していた。
「え、凄」
ここまで回復できるのはごく一部だ。
もし出来たとしてもとても一庶民が払える額ではない程莫大な料金が必要となる。
そのくらいティアの治癒魔法は高度な魔法だった。
「ありがとう」
「ん、治ってよかった」
起き上がるが、全く痛くない。
「動けそう?」
「うん、大丈夫ぅ~」
私が笑いかけると、安堵した表情をして笑う。
「凄いな、流石学校始まって以来の天才と言われるだけはある」
「褒めても何も出ない。 行こ、カリン」
そう言って手を握り、歩き出すと私も引っ張られる。
そうして少し歩くと、彼女は立ち止まる。
「寒い……」
しまった、ティアが裸足なのを忘れてた!!
「はい、靴!!」
「んっ、ありがと」
そういうと、靴下をはき靴を履く。
……笑いそうになる。
だって、靴は魔法使いの物なのに上はパジャマなのだ。
その構図は面白いといわざる負えない。
「カリン」
「な、なに?」
駄目だ、可愛さと面白さで噴き出しそう。
笑いを必死に堪えていると、ティアは頬を朱色に染め氷の様に冷ややかな視線を向けてくる。
彼女も流石にこれはと思ったのだろう。
「どこかで着替える」
「そ、そうだね……じゃあ、受付に相談してみよっか」
試験会場の受付なら事情を説明すれば用意してくれるかもしれない。
「ん、じゃあカリン、着くまでおんぶして、流石にこれは恥ずかしい」
……可愛い。
「ティア小っちゃくて可愛いから全然いいよ!!」
「小っちゃくない!!」
いつものクールな言い方ではなく、私と二人きりでいる時の様に子供っぽく言い放ってくる。
その言動がすでに子供っぽいんだよなぁ~。
そうして私は再びティアをおんぶする。
「ティア」
「何?」
「ありがとね、怒ってくれて」
私達の事を怒ってくれているのは単純に嬉しかった。
私だったらヘラヘラ笑ってやり過ごしていただろう。
腹が立ってもそれで面倒事を避けられるのなら私じゃなくたって誰だってそうするだろう。
「だって腹立ったし……カリンもそうでしょ?」
「まぁね、でも、私だったらあんなことできないかなぁ~」
実力も落ちこぼれな私ではあの三人になら返り討ちに遭うのが関の山だ。
今回の件も実力のあるティアだからこそ何とかなったが、ほとんどの生徒は私のように過ごすに違いない。
「やればいいじゃん」
「あはは、無理無理、私弱いもん……痛っ」
ティアが私の頬を強く引っ張る。
「ふぁにふんほ~!!」
「弱腰だったから、めっ、だよ。 カリンは僕の妹子、弱腰は駄目」
カリンの言葉は何とも言えない。
だってその言葉は強者だから使える言葉で弱者はそれを使えば潰されるのは目に見えている。
「今は弱くても、僕が絶対に強くして見せる。 だから前を向いて、ね?」
「……うん」
なんでだろう、その言葉を聞いて私は出来るような気になってくる。
天才の彼女が教えてくれるというのもあるが、彼女の自身あふれる姿もあるのだろう。
まぁ、見た目は小っちゃいけどね。
そうして試験会場の受付へ向かう。
「すみません、着替える場所ってありますか?」
受付の人は「こいつ何言ってんだ?」みたいな顔をされたが、ティアの服装を見て察したようだ。
「そこに慣用の着替え室を用意してます。 こちらへどうぞ」
そうしてティアを着替え室に連れて行き、待っている間に二人の申請を済ませる。
「すみません、お手を煩わせて」
「いえ、それにしてもティアさんが間に合うなんて珍しい。 学校入学以来じゃないですかね、彼女が間に合ったのは」
「そうなんですか?」
「えぇ、彼女はいつも放課後の不合格者の進学保留試験の常連ですから」
あ~、なるほど……通りで試験で彼女を誰も見たことがないはずだ。
保留試験は試験時に事情で受けれなかったり、不合格になった人に対する救済処置だ。
期間は三か月、次の試験までに合格しなければならないのだ。
「毎回申請は来るんですが来なくて、何度彼女の申請書類任されたか……」
そういうと、彼女はそのこと思い出したのか曇った顔をしてブツブツ何かを言っている。
「あ、あの~」
「あぁ、すみません。 申請を受理しました。 試験、頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます!!」
試験番号を受け取り、ティアの元へ向かう。
私の番号は96、ティアは97だった。
良かったぁ~、一緒の組だぁ~。
正直、一人だと不安だったのだ
ティアは着替えを終え、私を待っていた。
「申請、やっといたよ!! はいこれティアの」
「んっ、ありがとう。 にしても人が多い」
「そうかな?」
「ん、いつも夕方だったから、こんなに人が多いの初めて」
ティア、それは寝坊してるからだよ。
いつも保留試験常連の私から言わせてもらえば、彼女の言うように人が多い。
それはそうだ。
半数以上はこの試験で受かり進級するからだ。
残りの再試験組は申請で時間調整するので圧倒的に少ないのだ。
「試験番号は97、カリンの次か」
「うんうん、一緒だよ」
「……ん?」
「試験は五人一組の試験、だから一緒だよ」
「そうなんだ」
一回も来たことないのかな?
口ぶりからして彼女は一度もこの時間の試験に起きれたことがないのだろう。
「カ~リン♪」
「フィオ、待たせてごめんね~」
「いやいや、構わないよぉ~。 あ、ティアさん初めましてカリンと同室の一年のフィオ・ベリオロス、よろしくね♪」
あ、ティアが固まった。
人見知りという拘束魔法が発動したのか、ティアは固まった。
「かわいいな~」
「触るな」
ティアは髪に触れようとした彼女の手を振り払う。
「あらら、ごめんね。 綺麗な髪でつい……ごめんなさい」
そういうが、ティアは何も答えない。
既視感あるなぁ~。
「二人は何番? 私100なんだけど」
「あ、一緒の組じゃない!!」
「そうなんだ♪ おんなじ人が居て心強いよ♪」
こんなに心強い事はない。
二人が居れば、私も強気で試験に挑める。
まぁ、二人のおかげで私以外の二人は劣等感に苛まれるのは間違いないだろうけどね。
私はもう慣れた。
慣れちゃいけないといっても、元々落ちこぼれと言われてきたのだ。
劣等感もないだろう。
そうしてしばらくして、試験は続々と進んでいき、私達の番になった。




