第四話 天才と凡人
「……口の割に対しことない」
そういうと、その場に倒れている男子生徒達二人を無視して歩き出す。
凄い子だなぁ~。
回想終了
それから、彼女の事を小さいと呼ぶのは魔法学校で暗黙に禁止された。
一部の生徒からは危険分子扱いされたのは知っていて、彼女の悪い噂はあそこから広まったのだ。
直ぐに手を出す喧嘩腰の女というのが、学校の生徒の中で広まっていた。
どうせ、あの男子生徒達だろうが、もう彼らはいない。
私達が入学して2年後、三年時の師匠探しで師匠を見つけられずに退学してしまったのだ。
騒動に加え、普段から他の生徒への態度が酷いのが致命傷になったらしい。
「カリン?」
ティアはこっちを伺うように上目遣いで見てくる。
何この可愛い生き物。
私は恐る恐る頭を撫でる。
すると、彼女は満足そうに笑みを浮かべる。
その笑顔を見て私は思ってしまう。
この子はいい子なのをもっと皆に知ってもらいたいと、もっと皆と仲良くなってもらいたいと思ってしまう。
とはいえ、彼女はそういうのを躊躇う性格なのはこの前の師匠選定の件でわかっているつもりだ。
誰かと仲良くするのが苦手というよりは諦めているといった気がしてならない。
とはいえ、彼女が皆と仲良くしたいという気がないのなら私がそれをやるのはお節介というものだ。
っというのは建前で、この可愛い彼女の笑顔を独占したいというのもあるのだけど……。
「えへへ」
「ん? どした?」
「あぁ、ティアは可愛いなと思ってさぁ~」
「か、かわぁっ!?」
ティアは瞬間湯沸かし器みたいに顔を真っ赤にした。
一々、反応が可愛いので抱きしめたくなる欲を必死に抑える。
「ば、馬鹿」
顔を背けるが、どこか嬉しそうなティアだった。
そうして三月、四年時進級試験に必要な試験が始まる。
私とティアはそれぞれ同じ会場入りなのだが……。
「後五分……」
「今日は試験だから駄目ぇ~!!」
私は彼女を必死に起こそうとするが、この身体のどこに力があるのか布団を取ろうとする私を彼女は動くことなく布団を掴んでいる。
「起きてぇ~!!」
普段、朝早く彼女が起きてこないのをシア先輩が用事があっても起こしに行かない理由がよくわかった気がする。
揺すろうが何しようが全くと言っていい程、起きないのだ。
「……仕方ない!!」
私は彼女の着替えをバッグに詰める。
「寝てていいから、私に捕まって!!」
「ん~、後五分~」
駄目だこりゃ。
私は布団を何とか剥ぎ、彼女をおんぶすると急いで駆け出す。
時間は八時、試験会場で受付できるまで一時間しかない。
早めに来て正解だった!!
そうして歩いていると、好奇な視線が私を包む。
そりゃそうだ、学校の氷姫事ティアをパジャマ姿で抱え込んでいるなど、何を言われるかわかったもんじゃない。
言われることが悪口ではないのならいいだろうが、彼女の場合なら悪い考察が独り歩きすること間違いない。
私はそのまま好奇の視線を向けながら試験会場に向かうと、三人組に囲まれる。
「何、貴方脅されてるの? それともお金貰ってやってるの?」
……うん?
どこかで見た事がある気がするが、今はどうでもいい。
「うんうん、私が好きでやってる事だから、後、どちらさまでしたっけ?」
正直、全くと言っていい程思い出せないので、問いかけると私を睨みつける。
「お前、失礼だぞ!!」
そう言って横にいたポニーテールが印象の女の子が前にでて私を突き飛ばす。
「ちょっ」
不味い、バランスが……。
いくらティアが軽いとはいえ、これは無理だ。
身体を捻り横向きに倒れる。
このまま倒れれば、彼女が危ないので私は全力で身体を捻る。
「うぐぅ!!」
「ふん、失礼な事を言うからだ」
この状況が当然といわんばかりの言い方だった。
「……っ……!!」
(足首、捻ったか)
痛みで起き上がれない。
この感じは魔法ではすぐには完治しないだろう。
「ティア!? 大丈夫!?」
そういうと、ティアはのそりと起き上がる。
「……誰? 痛いじゃない」
(あ、これ相当怒ってるわ)
誰もが聞いてわかるほど、低く冷たい声色だった。
顔を上げると、能面のような冷たい人形のような表情で三人を見ている。
「カリンを傷つけたのは誰って聞いてるんだけど?」
その目を見て、二人は主格の女性の前にでる。
「何その目、私は聞いてるだけなんだけど?」
「うるさい、お前の日頃のお前の行いだろうが」
「私? 私、貴方に何かしたかしら? あぁ、被害妄想の激しい子なのね、可哀想に」
そういうと、二人の女子が魔法を発動する。
(人がいるのにこんな所で!?)
ここで魔法を発動すれば、室内だ。
下手をすれば死人が出る。
「何してんの?」
硝子が割れるるように魔法陣が瓦解する。
それと同時にティアは2人に距離を詰める。
「危ないでしょ」
そういうと、一人が後ろに吹き飛ぶ。
それと同時に後ろに居た女性も巻き込まれる。
それを見てもう一人はもう一度魔法を展開する。
「人のいう事聞いてた?」
彼女はパチンと指を鳴らすと、向こうの魔法がパリィンっと割れる。
「なんで、おかしい!!」
そうして何度も何度も魔法陣を展開するが割れて消えていった。
明らかにティアが何かしているとしか思えなかった。
「もういい?」
彼女にゆっくりティアが近づくにつれ、恐怖に染まっていく。
「なら早く答えてよ、誰がやったの?」
「か、勝手に転んで……その……」
「ふ~ん、そっか」
そういうと、彼女の前で魔法陣を火と雷の魔法を複数展開する。
この距離でそれをやれば間違いなく死ぬ。
「なら貴方って事でいいや」
「わかった!! 答える、答えるから!!」
「早く答える」
そういうと、先程ティアがぶっ飛ばした二人の方を指差す。
「そっか」
そういうと、ほっとしたように彼女は項垂れていた。
「何をしている!!」
この状況で最も来てほしくない人がいた。
髪を後ろに結び、吊り上がった好戦的な瞳をもった魔法学校風紀委員会にして学園最強と言われる魔法使い、ゼレシア・レオーネがこっちに向かってきていた。
「ねぇ、私達を突き飛ばしたの、どっち?」
ティアはゼレシア先輩が眼中にないのか、二人に問いかける。
二人は怯え切っているのか、顔を真っ蒼にしてガクガクと震えていた。
「そこまでだ、何があったか聞かせてもらうぞ」
「聞きたいのはこっち、どっちがカリンを突き飛ばしたの?」
ゼレシアの方を一切見ずに二人を見続けながらそう言った。
「つき飛ばしてないって言ってるでしょ!! しつこいのよ!! こんな私達をいたぶるようなことするなんて!!」
うわぁ~、引くわぁ~。
ここまで来て嘘を吐くなんて、どんな神経をしているのだろう?
「そうよ!! 皆も見てたわよね!? ねぇ!?」
厳しい目つきで観客を睨みつける。
こんな状況で味方をする奴なんて……。
「わ、私、見てましたが、勝手にこけたように見えました」
一人の女生徒がそう言うと、それを皮切りに何人かがそれに乗っかる。
更にそれが広がり、勝手に私がこけ、ティアが激怒したという事になっていた。
こんなのって……あんまりだ……。
「違います!! 彼女が押して……」
「黙りなさい!! 皆、貴方が勝手にこけたといってるの!! ゼレシア先輩、彼女に厳正な処分を要求します」
先程まで震えていた彼女が水を得た魚の様に元気を取り戻し、私の言葉を遮るように言った。
「ゼレシア先輩、本当なんです!! 私は突き飛ばされて……」
「この期に及んでそんな虚言、誰が信じるというの? これが大衆の意見よ!! 素直に罪を認めなさい!!」
静観していたティアが再び動き出すと、ゼレシア先輩も動き出す。
魔法ではなく、武術で戦っていた。
「うぐぅ!!」
ゼレシア先輩の拳が彼女の胸に突き刺さり、苦悶の表情を浮かべその場に座り込む。




