第二話 合否
「ちょっといいかな?」
次の日、私の元に三年生寮長であり、同級生のシエルちゃんが部屋に訪れた。
「これ、渡してって言われたから持ってきたよ」
「ありがと!!」
手紙を受け取ると、シア先輩からの物だった。
封を切り、中を取り出す。
(残念ながら、不合格か……)
受からなかった。
もう何度も喰らったものだが、何度喰らっても中々慣れない。
むしろ回数を重ねるごとに威力が増しているようなそんな感覚さえ覚えてくる。
まぁ仕方ない。
こればっかりは向こうが決める事だ。
しかし、話には続きがあった。
(もし師匠を探しているのなら私から紹介できる子が一人いるので、いやでなければもう一度私の研究室にお越しください)
え、本当に?
紹介してくれるの?
藁にもすがる思いだった私に一筋の光が差した気がした。
シア先輩が紹介してくれるともなれば、自分で探すのにも安心感がある。
これ以上となれば、男子の先輩にも声を掛けなければいけない所だった。
そうして再び彼女の研究室へ訪れると、今日もティアさんが居た。
「こんにちわティアさん」
「うん、こんにちわ」
視線を向けることなく彼女は言った。
昨日とは違い、返答してくれたのがすごく嬉しい。
「さて、今日来てもらったのは師匠の件でね」
「は、はい!!」
「そこにいるティアなんかどうだろうか?」
「……は?」「……はい?」
ちょっと待って、アンタも知らんかったんかい。
「ちょっと待って師匠、そんなの聞いてない」
「うん、言ってないからね。 だって君、この話したら絶対断るでしょ」
「当たり前でしょ!! ぼ、僕にそんなことできるわけないでしょ!! 無理、絶対無理!!」
「あのなぁ、いつかは師妹を取らないといけないんだぞ? 今から決めないでどうする」
「彼女も同級生!! だからむり!!」
彼女の言う通り同級生で師妹は確かに前例がない。
っというのも師妹とは上級生に教えを乞うのが暗黙の了解となっている。
「別に構わんだろう? 校長に聞いたら「ティア君は優秀だからOK~」っと言われたよ~。 特例でおっけ~だってさ」
「で、でも、この子じゃ無理!! だってみんな言ってるもん、落ちこぼれだって!!」
(ぐはぁ!!)
心に刺さることを大声で言われ結構心にくる。
「落ちこぼれに教えるなんて時間の無駄!! 絶対に意味ない!!」
更に刺さる言葉の連打、本当にこの子人の心がないのか?
とはいえ、事実なのでなんも言えないのだけど。
彼女は天才で私は落ちこぼれ、確かに住む世界が違う。
彼女は学校で歴代きっての天才だ。
妹子を取るにしても、それは私じゃない。
わかってる。
「そうですよね、私じゃ彼女の時間の無駄ですよね」
声が震え、涙がこぼれそうになるのを必死に抑えながら笑顔で彼女を見て続ける。
「無理にしなくていいよ、貴方の言う通り妹子に相応しくないのは私が一番わかってるから」
彼女の顔を見ると気まずそうな表情で視線をそらしている。
「シア先輩、気を遣ってもらいありがとうございます。 ですが、自分で何とかしますから、失礼します」
私はそう言って外に出る。
涙を堪えようにもあふれ出てくる。
泣いてはいられないのに、前に進まないといけないのをわかっていても抑えられない。
私は学校の傍にある海辺へ向かう。
ここなら誰も来ないので、悔しい時や泣きそうな時に向かうのだ。
海辺へ着くと、我慢していた感情が一気に押し寄せてきて泣き喚いた。
そうして泣き喚き、叫びある程度感情が落ち着く。
「……帰ろう」
泣き喚いたおかげか、心は落ち着きを取り戻し自分の部屋に戻ろうとすると、ティアさんが学校門の前に立っていた。
(誰かを待ってるのかな?)
彼女はじっとこっちを見ている気はするが、気のせいだろう。
私は彼女を無視して歩き出す。
(なんかついて来てる?)
後ろの方を見るとじっとこちらを睨みつけながら私の後ろを付いてきた。
「何か用かな?」
私は振り返りそう言うが、彼女は何も言わない。
ただ、じっと氷の様な瞳で私を見ていた。
遠くから見ても本当に綺麗な瞳だ。
(なんなんだろう? この子)
何も言わないので、再び歩き出すと彼女も私の後を付いてくる。
止まったり歩き出したりするが、その度に私の行動の真似をするように止まったり歩き出したりしている。
「何か用なの?」
彼女は答えずじっと私を見つめていた。
何か言いたいのだろうか?
とはいえ、彼女は何も答えずじっとこっちを見ている。
どうしようか?
このままだと彼女は部屋の中にまで付いてくる可能性がある。
シア先輩の方へ向かった方がいいのかもしれない。
そうしてシア先輩のいる部屋に向かう。
「いらっしゃい、待ってたよ」
中に入るなり、彼女は分かっていたかのようにこっちを見てそう言った。
やはり、彼女がティアさんに連れ戻せと言っていたようだ。
「あの、この子がずっとついて来ていて、どうしたらいいのでしょう?」
「……ぷふっ、あはははは!!」
私の言葉に面白そうに笑っていたが、一方でティアは不服そうに頬を膨らませていた。
「ほれ、やっぱり謝れなかった。 私の言った通りだ!!」
そう言って彼女は頬を膨らませているティアを指差していうと、私の方に向かってくる。
「ごめんね、ちょっとだけ私の話を聞いてくれないかな?」
「話ですか?」
「うん、少しだけでいいから私と話をしよう」
「構いませんが……」
「っという事だ、少し席を外してくれティア」
フフッと笑うシア先輩に対し、ぐぬぬぅっと唸りながらティアさんは出ていった。
「ごめんなっ歳カリンさん、弟子が失礼をしてしまって」
「いえいえ、そんな気にしてませんから」
正直めっちゃ気にしていたけど。
「あの子、本当はいい子なの。 ちょっと人見知りで初対面の人には当たりきついだけなの」
「そ、そうなんですねぇ~」
(あれ、人見知りだったんだ)
っという事はあの無表情と無言と暴言は人見知りって事なのかな?
「だから君にお願いがあるの」
「お願いですか?」
「あの子の友達になってくれないかな? もし、君がなってくれるなら私が師匠になってもいい」
「……はい?」
聞き間違いだろうか?
今のが聞き間違えでなければ、彼女と友達になればシア先輩が師匠に仕方なくなってやると聞こえた気がするのだが?
「悪い話じゃないだろ? 君も師匠を探すという苦労も解消できるし、彼女にも友達ができる。 両方得じゃないか」
聞き間違いではなかったようだ。
確かに私は師匠を探さないといけない。
だけど、そんな条件の為にティア・スピットと仲良くなるのは違う。
だってそうでしょ?
自分のなしたい事の為に仕方なく友達になるなど、相手にとっても失礼だ。
「確かに私は師匠を探しています」
「なら……」
「だけどこれは違う。 そんな条件を付け彼女に友達を作らせるなんて間違ってる」
これは歪な友達関係だ。
互いに利益の為に友達を続けている紛い物の関係だ。
それはここに居ず聞いていない彼女が聞いたら間違いなく傷つくのは目に見えている。
絶対にそれだけは彼女にだけでなく、人として誰にもしてはいけない事だ。
「そんな条件ならこちらからお断りさせていただきます!! 私はそんな関係で彼女と友達にはなりたくありません!!」
そういうと、シア先輩は怪訝そうな顔で私を睨みつけるように見つめる。
先程のおっとりとした表情と違い私の背筋が凍りつくような緊張感が走る。
「ふ~ん、別にいいけどさ、君いいの? このままじゃ碌な師匠もつかないし、待っているのは退学かそれより酷い人生だよ?」
その言葉は確かにそうだ。
本来なら藁にもすがる思いで彼女の提案を受け入れるべきだ。
彼女よりいい条件はないし、残りの師匠候補も少ないので退学になる可能性もないとは言い切れない。
だけど、こんなのをうけいれるのなら退学になった方がましだ。
私の憧れた魔女はこんな事はしない。




