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第49話 美しくない結末

十日後。監察院の大広間。

一か月前、俺が「帝国の間者」として引きずられていった同じ部屋に、今日は三人の男が並んでいた。

元宰相オズワルド。元司教補グレゴール。そして――鼻に大きな当て布をした、元教会騎士団長ヴィクトル・ダンケル。

正面の一番高い席には、痩せた老人が、侍従に支えられて座っていた。

リオネル王国の王だ。

ゲームの画面では、一度も寝台から起き上がらなかった人。「病弱な王」という一行の説明しかなかった人。

その人が今、自分の声で裁きを告げようとしている。

――これも、原作にないことだ。

◇

「……わしは、あの者に操られていただけだ!」

オズワルドが、灰色の髭を震わせて叫んだ。監察院で俺を見下ろしていた乾いた声は、もうどこにもなかった。

「あの宮廷魔導師が、全てを仕組んだのだ。帝国への穀物も、砦の売却も、儀の前倒しも! わしは……わしは、ただ、あの者の言う『物語』のとおりに動けば、王国を手に入れられると――」

「その者の名は」

王が、かすれた声で尋ねた。

オズワルドは、口を開けて――そのまま、固まった。

「……知らぬ。知らぬのだ。十年もそばに置いて、ただの一度も、名も顔も知らされなかった。……あの者は、自分のことを、ただ『語り手』と呼んでおった」

――語り手。

俺は、枕の下にしまった日本語の手紙を思い出していた。『第二章、クリアおめでとう』。

あいつにとって、この世界は、本当に物語なのだ。

◇

裁きは、短かった。

オズワルドは、全ての地位と財産を取り上げられ、北の海の孤島の監獄へ。横流しされた穀物の代金は、王都の民への配給に充てられる。

そして――

「――元司教補グレゴール。元教会騎士団長ヴィクトル・ダンケル」

監察官のエーリヒ殿が、文書を読み上げた。

「両名は、聖女の命を置き化し、孤児院に火を放ち、子どもらを教会の労役所に送ろうとした。……よって、両名を、その労役所に送る」

大広間が、一瞬、しんとした。

それから、傍聴席の後ろのほうで、誰かが吹き出した。それが、あっという間に広がっていった。

「……労役所だと……?」

ヴィクトルの顔から、血の気が引いていく。

「この私が……ダンケル家の血を引くこの私が、平民の子どものために作らせた、あの汚らしい労役所で……床を磨けと?」

「ご自分で、『正しく働くことを覚えてもらう場所』とおっしゃったそうですね」

エーリヒ殿は、真顔で文書をたたんだ。

「ご自身で、覚えてきてください」

「……美しくない! こんな結末は、まったく美しくないっ!!」

縛られたまま暴れるヴィクトルを、衛兵が二人がかりで引きずっていく。

その背中に、傍聴席の一番前の列から、もそもそと低い声が飛んだ。

「……似合ってるぜ、団長」

ガイだった。

鼻の当て布の奥で、ヴィクトルが何かを叫んだ。たぶん「美しくない」だったと思う。その声は、重い扉の向こうに、すぐに消えた。

◇

裁きの後、王は、伯爵とリーゼと俺を、椅子の前に呼んだ。

「……ハインリヒ。二十一年、よく耐えた」

伯爵は、何も言わずに深く頭を下げた。その肩が、ほんの少しだけ震えていた。

「リーゼ・アーベント。黒狼砦の副司令に復する。……そして新しい司令が着任するまでの間、司令代理を命ずる」

「……謹んで」

そして王は、俺を見た。

痩せた顔の中で、目だけが、少しだけ笑っていた。

「……そちが、夢で未来を見るという新兵か」

「……俺は、ただの兵士です」

「ただの兵士が、審問と儀と処刑を一度にひっくり返すものかね」

王は、侍従に何かを耳打ちした。侍従が、小さな銀の徽章を俺の手のひらに載せた。

灯りの形をした徽章だった。

「『灯守の徽章』。王国を夜から守った者に与える、古い徽だ。……百年ぶりに、平民に渡すことになるな」

――居眠りをして、砦を落とすはずだった兵士が。

俺は、徽章を握りしめた。振り返ると、傍聴席でマルタが、ピートが、オルグが――第七の全員が、拳を突き上げていた。

◇

その夜。下町の外れの、いつもの樽の陰。

「……帝国に帰る。父帝に、この国で見たものを全部話すつもりだ」

ルカは、旅支度を終えた馬の手綱を握っていた。

「穀物の横流しが止まれば、帝国の飢饉は少しずつ和らぐ。……お前の国の伯爵が、正規の取引を提案してきたよ。あの男は、不愛想だが話が早い」

「……それ、リーゼさんにも言われそうです」

ルカは、短く笑った。

それから、馬にまたがり、銀の仮面を顔に当てた。

「……お前は、何者だ」

その問いに、今度だけは、迷わず答えられた。

「トーマです。黒狼砦、第七歩兵隊の」

「……そうか。覚えておこう」

仮面の奥で、笑った気がした。

「半年後。灰の峡谷だったな。……今度は敵としてではなく、会うことになるだろう」

蹄の音が、夜の通りの向こうへ消えていった。

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