13. 何故こんなことを?①
「——というわけで、昨日、遂に三人組の子豚泥棒は町の隠れ家で捕まりました。来週治安判事による予審を行う予定です。ご心配をおかけしました、女男爵様」
村人たちに挨拶して回っていたアメリアが地元警察のサンダース警部と行き合ってこの朗報を聞いたのは、酒類が提供されているテントの前だった。
警部は普段は町の警察署で勤務しているが、今日はたまたまメラヴェリー村で仕事があり、男爵家の秋祭りにも顔を出したということだった。
村の巡査や仲間の巡査部長と共にもう何杯もエールを飲んだようで、顔は真っ赤だったが、口調ははっきりとしていた。
「まあ、良かった。これまでご苦労様でした、警部。そして、皆さんも」
アメリアは、警部と同様に捜査に尽力したであろう巡査と巡査部長にも労いの視線を向けた。
敬礼で応えた二人の足元には茶色のセッター犬が眠っていた。
先ほど巡査から聞いたところによると、このセッター犬は牧師館のダニーが連れてきたのだが、到着早々にここで眠ってしまったので、色々見て回りたいダニーの代わりに巡査が面倒を見ているのだそうだ。
すやすやと眠る犬の首輪のプレートには「プリンス」という名が優雅な字体で刻まれていた。
結婚以来、アルバートが連れてきた愛らしいベドリントン・テリアと暮らしているアメリアは、プリンスの寝顔を見て微かに笑みを浮かべつつ、警部との会話に戻った。
「でも、子豚を返してもらうわけにはいかないのでしょうね?」
アメリアがため息交じりに言うと、警部は重々しく頷いた。
「それは難しいですね。奴らを捕まえたときには子豚は全て売り払われていました。メラヴェリー村では、ミス・ケリーのところの五匹の子豚が盗まれたのでしたね」
「ええ。しかも、既に少し成長した子豚だったようですの」
「そうすると、一匹当たり1ポンドくらいの価値はありそうです。5ポンドの被害か……お気の毒です」
アメリアも警部の言う通りだと思った。
5ポンド——といえば、メラヴェル男爵家の本邸のメイドの三、四か月分の給金相当の金額だ。
上級使用人の給金に換算しても、やはり一か月分相当かそれ以上になる。
ただ、率直にいえば、貴族にとっての5ポンドは、誤差のような金額でもある。
しかし、アメリアが安易に補償してやるわけにもいかない。
正当、公平、平等、それから、尊重——女男爵はそれに適う判断をしなければならない。
——そして、男爵家には将来そういう責任を引き継ぐことのできる後継者が必要だわ。
——でも、それは女男爵である私の義務であり責任。
——彼は……複雑な立場の私と結婚した上に、領地経営にまで尽力してくれているのだもの。
——この件についてはあまり負担を感じてほしくないわ……。
アメリアはつい考え込んでしまったが、すぐに我に返った。
「いずれにしても、ご尽力に感謝しますわ、警部」
女男爵からの感謝の言葉に警部は礼儀正しく頷いた。
「ところで、女男爵様。さっき村の人から聞きましたが、今回の秋祭りは新聞に虚偽広告が掲載されたために、無理に開催させられたそうですね?」
「ええ、そうなのです。でも、期待以上に良い秋祭りになったと思いませんこと?警部」
アメリアが微笑むと、警部は呆れたようにため息をついた。
「ご寛大なのは結構ですが、貴族の名を騙るなど、それだけでれっきとした犯罪です。まあ、あなたが気にされていないなら、警察も忙しいので無理に捜査しませんが、告訴されるならいつでもご相談ください」
「ありがとう、警部。でも、今のところ大事にする必要はなさそうよ」
そこで警部の肩越しに、とある二人を見つけたアメリアは、「では、ごきげんよう、警部、皆さん」と優雅に挨拶して会話を打ち切った。
その二人——アルバートとミセス・グレンロス——は、遊んでいる子供たちから少し距離を空けた場所で何事かを真剣に話し合っている。
——きっと、二人で協力して遂に謎を解いたのではないかしら?
そう直感したアメリアは満足げに微笑みながら、二人の方にゆっくりと歩き出した。
***
「——つまりは、そういうことですよ、お義母さん」
「本当にそういうことなの?アルバート」
「ええ。事実を積み上げれば自ずと——おや?」
ミセス・グレンロスと話していたアルバートは、彼らに近づく人影に気づいて顔を上げた。
そして、その人だけにわかるように微笑みかけた。
「マイ・ディア、私たちがようやく結論めいたものを出したことを察してくれたようだね」
「ええ。二人が協力して事件を解明してくれて嬉しいわ」
アメリアは二人に歩み寄りながら明るい声で言った。
「でもね、アルバートも私も動機はさっぱりわからないのよ、アメリア」
ミセス・グレンロスは眉を寄せていた。
その瞳には些か悔しさが滲んでいる。
「でも、それ以外は解明できたのでしょう?素晴らしいわ」
アメリアはにっこりとした。
すると、アルバートが彼女に問いかけた。
「それで——この事件には一体どう対処すべきだろう?犯人とはちゃんと話した方が良いとは思うが」
「ええ……諭してあげるべきなのでしょうね」
アメリアの言葉に、アルバートもミセス・グレンロスも頷いた。
「では、それは若い二人にお任せして良いかしら?」
「もちろん、いいけれど……?」
アメリアが首を傾げると、ミセス・グレンロスは真剣な顔で言った。
「実は、少し心配なことがあるのよ。何だか早く手を打った方が良い気がしてきたの。アルバート、さっき言っていたダニーの言葉とミセス・ブレイクの反応の話、確かなのよね?」
「ええ、確かですよ、お義母さん」
ミセス・グレンロスは頷くと、「そちらは任せたわよ」とだけ言って、二人に背を向けた。
「さて、私たちも行こうか、マイ・ディア」
早足で行ってしまったミセス・グレンロスを見送ると、アルバートが腕を差し出した。
迷わずその腕に手を掛けたアメリアのヘーゼルの瞳は悪戯っぽく輝いていた。
「どこへ行くの?アルバート」
アルバートにはそれが答え合わせのための問いだとわかっていたに違いない。
「もちろん、ミス・エム・ケリーを探すのさ」
その口元にはいつも通りの皮肉な笑みが浮かんでいた。




