9. 二人のご意見は?①
情報整理回です。
午後1時、メラヴェル男爵家の昼餐の時間となった。
今日はいつもの昼餐とは様子が違う。
まずは開始時間——普段であればもう少し遅いが、今日は午後2時に開始する秋祭りに合わせて前倒しされた。
次に顔ぶれ——客人を招待する日以外に<メラヴェリー・マナー>の本邸で昼餐をとるのはアメリアとアルバートだけだが、今日はミセス・グレンロスも加わっている。
更に、食事の内容——家族が揃っているときはコースをゆったり楽しむものだが、今日は秋祭りが迫っているので簡単な食事で済ませねばならない。
昼餐の席では、秋祭りのためにシルク・クレープのデイ・ドレスに身を包んだアメリアがまずは祭りの準備状況を報告した。
午前中いっぱいメラヴェル男爵家一丸となって準備を進め、男性使用人たちによる会場設営、女性使用人たちによるチャリティ・バザーの商品制作、キッチンの使用人たちによる大量の軽食の調理が何とか完了していた。
「ところで……虚偽広告事件の方はどうかしら?」
一通り報告を終えた彼女は、サンドイッチに手をつける前に、同じテーブルについている夫と母に問いかけた。
彼女の正面に座っているアルバート——秋祭りに相応しいオリーブ・グリーンのツイード・スーツに着替えている——と彼らのちょうど中間に着席しているミセス・グレンロス——彼女もまたモーヴのデイ・ドレスに着替えている——は、問いを受けて少し考え込んでいた。
アメリアは、応接間で昼餐の準備を待つ間にアルバートとミセス・グレンロスが捜査の進捗について互いに報告し合っていたのを聞いていたので、彼らが収集した情報についてはもう知っていた。
その過程でミセス・グレンロスが捜査しつつもくじ引きの景品を確保したことは喜ばしく、一方で、アルバートが怪我をしそうになった件には肝を冷やしたが、何事もなくてほっとした。
ただ、別邸の執事ミスター・ウェルズの捻挫は気の毒としか言いようがない。
そして今、彼女が聞きたいのは、収集した情報を踏まえての二人の意見だった。
「私は正直、お義母さんのおっしゃっていたことに一理ある気がしてきましたよ」
先に切り出したのは、ちょうどきゅうりのサンドイッチを食べ終えたアルバートだった。
「個人的にはさすがにミセス・ブレイクと息子のダニーを疑う気にはなれませんが、牧師のミスター・ベントリーは何か隠していると思います。おそらく、妻子を遺棄したブレイクに関わることかと。ミスター・ベントリーはブレイクを批判しつつも、何故か彼を探し出そうとする気はあまりないような印象を受けました。お義母さんはどう思われます?」
一方のミセス・グレンロスは、冷製チキンを切り分けながら考えに耽っているようだった。
「え?ええと……誰が怪しいかよね?私はあなたが言ったことが気になり始めたわ、アルバート。准男爵夫妻の食客のハンフリーズという画家にはどこか違和感が……」
そう言うと彼女はまたチキンを切り分ける作業に戻ってしまった。
アメリアとアルバートは同時に眉を上げ、互いに視線を送った。
二人は視線だけでのやりとりの末、ある合意に達し、アルバートが義母に問いかけた。
「お義母さん、どうかされましたか?何か心配事でも?」
ミセス・グレンロスは暫しチキンを味わっているようだったが、やがてカトラリーを置いて口を開いた。
「うちの執事——ウェルズのことなのですよ」
「ああ、さっき私がお話しした件ですね?彼が午前中に私に向かって木箱を投げつけたような形になってしまったのは事実ですが、ミスター・ベントリーの見事な反射神経のお蔭で大事には至りませんでしたし、あれは故意ではありませんよ。それから、先月パブで怪しい男と交流していたという話も出ましたが、私の従者が深読みしすぎているだけに思えます。もっとも、木箱の件は、私にぶつかった方が秋祭りを中止する口実ができて、良かったかもしれませんが」
アルバートはいつも通り皮肉に言ったが、ミセス・グレンロスの方はいつも通りに顔を顰めることはなかった。
代わりに一つため息をついた。
「私、ウェルズが虚偽広告を出した犯人なのではないかという気がしてきたの。だって、そうでしょう?手紙は紳士の筆跡だったというから、執事の彼なら書けるし、便箋や封蝋だって本邸に手伝いに来たときに借りるか盗むかしたのかも……」
「筆跡と封蝋の件はともかく、便箋は凹版印刷の凹凸がない偽物だったようですから、本物を持ち出すことができる彼の容疑は逆に薄まると思いますよ、お義母さん。それに彼が犯人だとしても動機はどうなるのです?」
アルバートはいつになく優しい口調で言ったが、ミセス・グレンロスの表情は晴れなかった。
「臨時手当ですよ。別邸の使用人が本邸の仕事に駆り出されると、いつも支給されるでしょう?彼は最近パブに行くのを控えているようだし、何かの事情でお金が必要だから節約しているのではないかしら?それでも足りなくて、臨時手当を得ようとしたとか……」
「確かに私も先ほど牧師館でウェルズが貯金をしていると聞きました。5ポンド貯めたいとか。でも、虚偽広告の犯人は新聞社に掲載料を支払っているので、臨時手当が支給されても差し引きすると、危険に見合うほどの儲けにはなりませんよ。発覚すれば解雇されるどころか、罪に問われますし」
「そうだけど……」
「それに彼が『地元の皆さまは残らずお越しください。お子様大歓迎』だなんて変わった文言を選ぶとも思えません。執事ならこうした広告文の作成には慣れているはずですから」
「そうよね……そのはずよね」
ミセス・グレンロスは頷いたが、何か深く考え込んでしまった。
アルバートもまた視線を落として思案していたが、ゆっくりと顔を上げ、妻に少し皮肉な笑みを向けた。
「さて、お義母さんも私もすっかり行き詰まったようだ。探偵女男爵の君から助言をもらえると有難いのだが、どうだろう?」
アメリアは思わず微笑んだ。
彼にそう言われてしまえば、助言を与えないわけにはいかない。
彼女は軽く咳払いしてから口を開いた。
「『誰が虚偽広告を出すことができたのか』を考えてみると良いのではないかしら?『誰に虚偽広告を出せる材料が揃っていたのか』ということね」




