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さぁ、まずはじいちゃんの山へ行こうか。
私はあれ以来、山を訪れてはいない。
覚える事が沢山あったし、一人前になってからは、アディエル様の傍を誰かに任せる事が出来なかったからだ。
思い返せば、アディエル様から時折『山へは行かないのか?』と聞かれた事がある。
けれど、そんな気分にはならなかったので断り続けていたのだ。
なので休みの日は、ジェイラス様や遊びに来るフェアリエル様の子、リルム様の遊び相手をしていた。
帰らなかった事に罪悪感はない。
それよりも、天国にいるじいちゃんに立派な姿を見せたかったのだ。
山へ向かう道すがら、私は懐かしくなり馬車に乗る事を止めて走り出したのであった。
すると、昔の思い出が蘇る。
以前フェアリエル様が、馬車よりも速い乗り物を作りたいとウィルフォード様と試行錯誤をしていた。
それにアディエル様も巻き込まれて、色々と私もお手伝いをしていたのだが、結果は出来なかったのである。
その速さに、車体と車輪が耐えられなかったのだ。
フェアリエル様は、クルマ?とか、タイヤ?などと言っていたのだが、私には良く分からなかった。
それをウィルフォード様に聞くと『いつもの夢の世界の話だから、気にしなくて良い』と言われた事を今でも覚えている。
そんなこんなで、懐かしい出来事を思い出しながら、私は何日もかけて山へと着いた。
あれから60年。
小屋は朽ち果てているかもしれない。
じいちゃんとの思い出の場所が、全て無くなっていたとしても、仕方のない年月が経っている。
覚悟を決めた私は、山を登って行った。
すると目に入ってきたのは、つい最近までちゃんと管理されていたかのような小屋の姿だった。
裏の畑も、じいちゃんの墓もそのまま残っている。
・・・まさか?
アディエル様が?
この小屋を知っているのは、私とアディエル様だけだ。
それに、誰かが棲みついているという気配はない。
・・・ああ、本当にあの方は・・・。
死してなおも、私に尊敬や感謝の念を抱かせるアディエル様に頭が下がる。
私は、じいちゃんの墓の前で手を合わせた。
(じいちゃん。遅くなってごめん。
私は、貴方が自慢できるような一人前の大人になれているだろうか?
そして、これから楽園へと旅立つんだ。
もしかしたら、もう帰って来られないかもしれない。だから、最後の別れに来たんだよ)
それから私は、今までの出来事を時間を掛けて報告したのであった。
しばらくして小屋へと入った私は、部屋を見まわした。
今日は、ここで一泊するのである。
部屋の中は少し埃っぽいが、叩けば寝られない程ではない。
5年前までは、アディエル様の手配で掃除をしてくれていたのだろう。
私は部屋の中を見て回った。
・・・最後かもしれない。
だから、目に焼き付けようと思ったのである。
そして窓際に置かれている机の引き出しを開けると、ペンダントが入っていた。
見ると【アルマ・ニコネス】と私の名前が彫ってある。
ペンダントを開けると、赤子を抱っこした獣人の夫婦が描かれていた。
これはもしかしなくても、私の両親なのだろう。
私は両親を知らない。そして、この先もきっと知る事はない。
だから私は、両親からの最初で最後の贈り物を手に取り、首に掛けたのであった。
それからは、収納BOXからウィルフォード様に頂いた野菜を取り出す。
先日、この野菜でフェアリエル様が大好きなカレーを作ると言っていた。
さて、私は何を作ろうかな?
と考えながら、収納BOXをガサゴソと探していたら、フェアリエル様から頂いた木箱に指が触れたのだ。
・・・そうだった。
アディエル様がフェアリエル様に託し、私の手元へと来たマジッククレー。
アディエル様が残したかった物とは何なのか・・・。
気になった私は、椅子に腰掛けてから早速、再生する事にしたのだ。
※ーーー※ーーー※ーーー※ーーー※
「あー、あ、あ。
サミュエル?
これは、撮れているのか?」
「アディエル様。
こちらは、フェアリエル様が作られた物です。きっと大丈夫でございます」
「そうだな。
では、サミュエル?
アルマに何か言ってやってくれ」
「・・・?
アルマは、公休日ですが?」
「このマジッククレーに言ってもらいたいんだ」
「かしこまりました。
では、早速。
アルマ?貴方は本当に良くやっております。
私の自慢の弟子です。
この先も、アディエル様を支える為に邁進するのですよ」
「・・・サミュエル?
そう言うのではなかったのだが・・・。
まぁ、いいか。
では、切るよ」
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アディエル様がお若い時のお姿。
そして、もうだいぶ前に儚くなってしまった、私の師。
サミュエルさん。
・・・懐かしい。
もう一度、会いたいと思っていた。
それが、こんな形で叶うとは。
マジッククレーの容量を見ると、まだまだ撮り溜めてあるようだ。
本当は、一気に見たいところだが、楽しみは取っておこうと思った私は、少しずつ見る事に決めたのであった。
そして今夜は、幸せな気持ちで1日を終えたのである。




