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お待たせしました。
アルマ番外編の更新を始めます。
不定期更新になりますが、お付き合いいただければ嬉しく思います。
私はアルマ・ニコネスと申します。
クリーヴランド家に仕えてから早60年。
本当に色々な事がありました。
私は長年使い古された棚から、地図とメモ書き、それとアディエル様から頂いた手紙を手に取り、今までの事に思いを馳せます。
アディエル様とメルティア様の結婚。
お子の誕生。
お二人の幸せな日々を見つめる度に、私もとても幸せな気持ちになれたのです。
ーーーですが、そんな日々が永遠には続かない事を教えてくれたのが、今から5年前のこと。
「アルマ?
長年、本当にありがとう。
君には感謝してもしきれない。
それと、ずっと聞きたい事あったんだ。
・・・君は、幸せか?」
「何を言いますか!
私は、あの山から連れて来ていただいてから、一度も自分を不幸だと思った事などございません。
アディエル様にお仕え出来た事が、何よりの喜びで御座います」
するとアディエル様は苦笑され『そうか』と一言だけ返してくれました。
そして、それから数日後にアディエル様は天の国へと旅立たれてしまったのです。
そんなアディエル様は、ご家族と私に手紙を残して下さいました。
【アルマ。
君には誰かの為では無く、自分だけの幸せを見つけて欲しい。
それが僕からの遺言だ。
君が本当の幸せを見つける事を僕は心から願っているんだよ】
・・・アディエル様。
私は嘘偽り無く、貴方様と居られて、本当に幸せだったのですよ。
ーーーポタポタと手紙にシミができてしまった事に驚き、慌ててハンカチで拭いました。
この手紙は一生涯、私の大切な宝物です。
そして、あれから月日は流れーーー
先日、メルティア様がアディエル様の元へと旅立たれました。
もう、私のお役目は終わってしまったのだと感じたのです。
すると、ふと思い出したのです。
フェアリエル様から頂いた、地図とメモを。
そのメモ書きには【獣人は長寿の生命体であり、確認できる限りでは200年以上は生きる】と記されていました。
そうなのです。
私の姿は20代半ぐらいから、ずっと、そのままの姿を保ったままなのです。
アディエル様がいない今、クリーヴランド家には、もう私の居場所はありません。
それに、私がいなくても大丈夫なように、後任もちゃんと育ててあります。
きっと、ジェイラス様を支えていけるでしょう。
その為には、私がいつまでもこのお屋敷にいてはダメなのです。
そして私は、手元の地図に目を落としました。
(楽園へ行くのも、いいかもしれない)
そう考えが行きついた私は、早速準備を始める事にしたのです。
それからすぐに筆を取り、二通の手紙を書き上げました。
一通はフェアリエル様。
もう一通はディアナ様に。
私とディアナ様は同じ獣人の為、何かと相談したり、交流を持って来たのです。
ーーーそうして待つ事数日
ディアナ様から返信が来ました。
【楽園への道のりは、たとえ獣人であっても、長い旅路となるでしょう。
無事に辿り着ける事をお祈りしております。
私は子や孫と、もう少し一緒にいる事にします。
そしていつか、楽園へ帰る事があれば、またお会いしましょう】
それから少しして、フェアリエル様からの返信も届きました。
【遅くなってしまって、ごめんなさいね。
年を取ると、どうにも筆不精になってしまうのよ。
アルマ、旅へ出る前に会いに来て欲しいわ】
そして私は、フェアリエル様が居る田舎へと行く事にしました。
晩年は其方で過ごされていると聞いております。
「フェアリエル様。
お久しぶりです。お元気そうでなによりです。
ウィルフォード様は、ご一緒ではないのですか?」
「いらっしゃい。待っていたわ。
ウィルは庭で野菜を収穫しているわよ」
そう言って笑うフェアリエル様は、昔と少しも変わらない。
目元や口元の笑い皺が、幸せの月日を重ねている。
「アルマ。決めたのね?」
「はい。もう私の役目は、終わりましたから」
「何を言っているのよ。
嬉しい時も、悲しい時も、一緒にいたのよ?
貴方は私達の家族。
お兄様は、アルマの事を弟のように思っていたわ」
「そう、なのでしょうか」
「ふふっ。
お兄様とアルマは器用なのに、変なところで不器用なのね。
だから、私に託したんだわ。
・・・少し待ってね」
そう言って、棚へと向かうフェアリエル様に『私が取りますので教え下さい』と申し出たのだ。
「上から2段目にある、木の箱よ。
お願い出来るかしら」
私はその箱を取り、フェアリエル様に渡した。
「これはね、お兄様の遺言で私の元へきた物なの。
アルマが悩んだり、迷ったり。
そして、ここを旅立つ日が来たら、渡して欲しいって頼まれていたのよ」
受け取った私は箱を開けた。
すると、黄色いマジッククレーが入っていたのだ。
「これは、映像のマジッククレーですね?」
50年程前に、フェアリエル様とウィルフォード様で開発された、映像や音声を録画出来る物だ。
「そうよ。
開発のキッカケが、お兄様だったの。
どうしても残したい物があるって言うから、私とウィルは急いで作ったのよ」
・・・知らなかった。
アディエル様は、いったい何を残したかったのであろうか。
「だからこれは、アルマの物よ」
とその時、ウィルフォード様が収穫から帰って来たのである。
「アルマ、もう来ていたのか。
よかったら、野菜を持って行くか?」
「ありがとうございます。
とても助かります」
私は、収納が出来るマジッククレーをウィルフォード様に渡した。
この二人のおかげで、マジッククレーの使用用途が格段に増えた事は言うまでもない。
それは、歴史が100年動いたのではないか、と言われるほどに、偉大な事を成し遂げた二人なのだ。
もちろん、今の収納BOXも二人が開発をした物である。
ウィルフォード様に野菜を詰めてもらい、そろそろお暇する事を伝えると『気をつけてね。行ってらっしゃい』とフェアリエル様が笑顔で言ってくれた。
きっと、会えるのはこれが最後になるだろう。
だがフェアリエル様は、その辺へ買い物へ行くかのような口調で声を掛けてくれたのだ。
だから私も『行って参ります』と別れの言葉を告げずに、お暇したのだった。
私が遠ざかるのを、二人が見送ってくれている。
フェアリエル様は近年、足を悪くされた為に、杖無しでは歩けなくなってしまったのだ。
そんなフェアリエル様を支える様に、ウィルフォード様が寄り添っている。
アディエル様もメルティア様もそうだったのだが、夫婦とは確かな絆で結ばれた、唯一無二のモノなのかもしれない。
私は2人に手を振り、楽園への第一歩を踏み出したのであった。
今連載中の作品【虫好き令嬢の難儀な婚約事情】
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