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【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!  作者: こさか りね
幸せが繋ぐその先へ

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3

あのあと、私は小屋で一夜を明かした。


翌朝、じいちゃんの墓の前で静かに手を合わせ、別れを告げてから山を下りる。


まだ、旅は始まったばかり。


これから先、私が目指すのは、遥か南。

そして次なる目的地は、ネイトピア王国の隣国ーーーラピスライト合同国である。

 

奥様の生まれ育った国。

そこを目指して、私は再び歩き始めたのだった。


山を下りてしばらく進むと、小さな町が見えてきた。


町の中へ入ると、幸いにも馬車乗り場を見つけることができた私は、近くにいた乗り合い馬車の御者に声をかける。


「すみません。ラピスライト合同国方面へ向かう馬車はありますか?」

 すると、御者は町の反対側を指さした。

「ああ、それなら、あっちに停まっている馬車だよ」

「ありがとうございます」


礼を述べた私は、教えられた馬車へと向かい、運賃を支払って乗り込んだ。

 

あとは、出発を待つばかり。

乗客が一人、また一人と増えていき、やがて定員に達すると、御者の合図とともに馬車が動き出した。

 

車輪が道を踏みしめる音が、規則正しく響く。

 

私は窓の外へと目を向けた。

流れていく景色を眺めながら、これからの旅に思いを馳せる。


ーーーラピスライト合同国。

 その国は、アイオライト領、アズライト領、アポフィライト領という三つの領地から成り立っている。

 

ネイトピア王国から入国する際、最初に通ることになるのがアズライト領。

 つまり、奥様の出身領である。

このまま順調に進めば、四、五日ほどで入国できるだろう。

 そう考えていた、そのときだった。


「うわあああん!」


すぐ隣から、甲高い泣き声が聞こえてきた。

 そちらへ目を向けると、母親の膝の上に座っていた幼い子供が、馬車に飽きてしまったのか、顔を真っ赤にして泣き喚いていた。


「ほら、いい子だから。もう少しだけ我慢してね?」


母親は必死にあやしているものの、子供は一向に泣き止む気配を見せない。

 

母親も、どうすればよいのか分からず、すっかり困り果てている様子だった。


・・・これは、少し手を貸したほうがよさそうだ。


私はそっと自分の尻尾を動かし、子供の目の前でゆらゆらと揺らしてみた。

すると――。

子供はぴたりと泣き止んだ。

 潤んだ瞳が、目の前で揺れる尻尾をじっと見つめている。


そして興味を引かれたのか、小さな手を一生懸命に伸ばし始めた。


子供は夢中になって手を伸ばし、ついには私の尻尾をぎゅっと掴んだ。


「きゃっ!」


先ほどまでの泣き顔が嘘のように、子供は楽しそうな声を上げた。

 どうやら、気に入ってくれたらしい。


母親は驚いたように目を見開き、それから、ほっとしたように表情を緩めた。


「ありがとうございます。本当に助かりました」

そう言って、深々と頭を下げる。


「いえいえ、大丈夫ですよ。困ったときは、お互い様ですから」


私がそう答えると、母親は安心したように微笑んだ。


「そう言っていただけると、心がとても楽になります」

その言葉を聞き、私も自然と頬が緩んだ。


……ああ。

この国は、本当に変わった。


かつての私は、獣人であるというだけで、周囲から奇異の目を向けられていた。


ーーーけれど、今は違う。

私が獣人であることを知っても、誰も驚かない。

必要以上に怖がることもなければ、特別視することもない。

まるで、当たり前のことのように接してくれる。

 

人も、獣人も、同じようにーーー。


だからこそ……。

この国を離れることが、少し寂しい。


そう思っていると、不意に尻尾が引っ張られた。


「やわわかい!」


子供が満面の笑みを浮かべている。

どうやら、「柔らかい」と言いたかったらしい。


小さな手で私の尻尾を握りながら、キャッキャッと声を上げて喜んでいた。


その無邪気な姿を見ているうちに、私は懐かしい二人の顔を思い出した。


ジェイラス様と、フェアリエル様の娘、リルム様。

 幼かった二人も、私の耳や尻尾を触っては、いつも楽しそうに笑っていた。

 

あの頃の笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。


そして、その光景を見たフェアリエル様が、ふと思いついたように口を開いたことも。


「アルマは子供に好かれるのね。・・・そうだわ! 保育園とかあったら良いんじゃないかしら?」


あのときのフェアリエル様は、本当に楽しそうだった。

 一方、話を聞いたメルティア様は、首を傾げていた。


「保育園って、なに?」


そこから始まったのは、フェアリエル様による保育園の説明だった。


幼い子供を安心して預けられる場所。

親が働いている間、子供たちを見守り、育てるための場所。


フェアリエル様は、その必要性を熱心に語っていた。

 

しかし、当の本人は外交に加え、マジッククレーの開発にも追われている身。

 とても新たな事業にまで手を回す余裕はなかった。


そこで白羽の矢が立ったのが、メルティア様だったのである。


こうして、メルティア様を中心とした保育園事業が始まった。


最初は試行錯誤の連続だったと聞いている。

けれど、周囲の協力もあり、事業は見事に成功した。


今では、子供を産んでも安心して働き続けられる環境が整えられている。


子供を育てることと、仕事を続けること。

そのどちらかを諦める必要がない社会。


そんな仕組みを作り上げたメルティア様は、今でも平民たちから聖母と崇められているのだった。


懐かしい記憶に浸っているうちに、馬車は目的の停車場へと到着していた。


私は子供の手から尻尾をそっと離し、立ち上がる。

「ありがとうございました」

母親が改めて礼を述べた。

その手には、何か小さな包みが握られている。


「よろしければ、これをどうぞ。大したものではありませんが・・・」

 差し出されたのは、干し芋だった。

「そんな、わざわざ・・・」

「いえ。助けていただいたお礼ですから」


母親の表情は真剣だった。

その気持ちを無下にするのも申し訳なく、私はありがたく受け取ることにした。


「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね」

 そう答えると、母親は嬉しそうに微笑んだ。


そして、馬車を降りようとした私に、幼い子供が小さな手を振ってくる。

「ばぁばい!」

その可愛らしさに、私は思わず笑みをこぼし、同じように手を振り返した。


親子が乗る馬車が角を曲がるまで見送った私は、手の中の干し芋を見つめ、そっと懐へしまった。


さて、今日の宿を探さなくては。


ーーーそして宿を取り、荷物を置いた私は、一階にある食堂へと向かった。


長い時間、馬車に揺られていたせいか、思っていた以上にお腹が減っている。


席に着き、店員から渡されたメニュー表を眺めながら、何を頼むか考えた。


明日は朝早くから馬車を乗り継がなければならない。

そう考えていた私は、近くを通りかかった食堂のおばちゃんに声をかけた。


「すみません。このお肉を二つと、サラダ、それからグラタンとスープもいただけますか?」


注文を聞いたおばちゃんは、私の顔とメニュー表を交互に見ると、豪快に笑った。


「あっはっは! お兄さん、いっぱい食べるねぇ! そういうの、気持ちが良いよ! 大盛りにしてあげるから、いっぱい食べていきな!」


「ありがとうございます。お気遣い、感謝いたします」


「いいってことよ! ちょっと待ってな!」


そう言い残すと、おばちゃんは機嫌よく厨房へ戻っていった。


・・・大盛り、か。

これは、なかなか期待できそうだ。


やがて運ばれてきた料理を見て、私は思わず目を瞬かせた。

肉料理は、皿からはみ出しそうなほどの大きさ。

サラダも山盛りで、グラタンは器いっぱいに盛られている。

 スープまで、なみなみと注がれていた。


これはすごい。


私は手を合わせ、ありがたく食事を始めた。

香ばしく焼かれた肉を頬張り、グラタンを口に運ぶ。

濃厚な味わいが口いっぱいに広がり、疲れた身体に染み渡っていく。

結局、私は山盛りの料理をすべて平らげた。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


 厨房へ向かって礼を述べると、おばちゃんは満足そうに笑っていた。


「そうかい! また食べにおいで!」

「はい。機会があれば、ぜひ」


食堂を後にした私は、二階の部屋へと戻った。


身支度を整えると、ベッドのそばに置いていたマジッククレーへと手を伸ばした。


※ーーー※ーーー※ーーー※ーーー※


「ジェイラス、リルム。

こっちにおいで。

アルマに伝えたい事はあるかい?」


「えーっとね、僕はアルマのように強くなりたい!」


「ジェイラス?父様だって強いぞ?」


「そうだけど、アルマは高く飛べるもん」


「リリュムもしってうよ。

アリュマ、かっこいいよ」


「リルムもそうなのかい?

アディ伯父様だって、まだまだ頑張れるんだよ」


「もちろん、父上もカッコいいよ!」


「リリュムも!」


「ははっ。

そうか。ありがとう。

では最後に、アルマへいつもありがとうをしようか」


「いつもありがとう」

「あいがと」


※ーーー※ーーー※ーーー※ーーー※


子供の時のジェイラス様とリルム様。


今のジェイラス様は、家督を子に譲り、今は奥方と悠々自適な生活を送っている。

私が旅立つと話した時も『ずっといれば良い』と言ってくれた。


だが、いつまでもご厄介になるのは申し訳ないと伝えると、寂しそうに微笑み『アルマ、何処に居ても貴方は、私の兄のような存在だ。本当にありがとう』と握手を交わしたのである。



そしてリルム様は、その美貌ゆえ、他国の王太子に見初められ、嫁がれて行ったのだ。


それ以来お会いしてはいないが、フェアリエル様からは、幸せに暮らしていると聞いている。

それに、子宝にも恵まれ三人の母となったそうだ。


私は2人を思い出し、これから先の未来も、幸せであるようにと願ったのであった。


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