18
ウィルフォードが走り出した頃、フェアリエルはマティニアと戦っていた。
「もう一度、叩いてはくれないか?」
この人、ヤバいって!!
私は、マティニアの変なスイッチを押してしまったようだ。
「いやいや、無理です!叩かれたいのなら、他の方を当たってください!」
「そう言わずに・・・いいだろう?」
ギャー!!
「気持ち悪いから、これ以上、近寄らないで!」
すると、うっとりとした顔をするマティニア。
「言葉で罵られるのもいいな」
と、変態度がどんどん加速している。
「もう、本当にムリ!どっか行って!」
「では、叩いてくれたらどっかへ行く」
と、マティニアはそう言って、顔を差し出してきた。
はい??
ていうか、状況はすでに理解の範疇を超えている。
面倒だし、この際、もう一発お見舞いする?
それで解放されるのなら、上々じゃない?
と、私の思考回路もおかしくなっていたのだ。
「本当に引っ叩いたら、何処かへ行ってくれます?」
「ああ。約束は守ろう」
と、ドヤ顔で頷いているのだが、言っている事がヤバいって気付いていないのかな?
でも、居なくなってくれるのなら、やるしかない!
私は気合いを入れる。
先程は、怒りに任せて叩いてしまったが、普通、おいそれとは人を叩けるはずもない。
だから、気持ちを奮い立たせないとダメなのだ。
「・・・準備は、いいですか?」
「ああ、いつでも良い」
「では、いきますよ!
・・・歯を食いしばってください!」
と、手を振り上げたその時。
【ドカン!】
という、けたたましい音と共に、ウィルフォードが部屋へと入って来た。
「フェアリエル!!無事・・・・・か?」
ウィルフォードは、信じられないものを見たかのように、目を丸くしている。
それはそうだ。
左頬を腫らして跪いているマティニア。
仁王立ちで、手を振り上げている私。
どう見ても、私が悪役に見える。
なんて説明すればいいのか・・・。
と、途方に暮れていたら、マティニアが話し始めたのだった。
「ウィルフォード、邪魔をするんじゃない!
今から、聖なる裁きをいただくんだ」
せいなるさばき?
・・・なぁに?それ?
私とウィルフォード、そして、いつの間にかやって来たベティニアの目が点になった。
居た堪れない沈黙が続く中、やはり姉、ベティニアが一番初めに復活したのである。
「マティニア?何を言っている?
それより、エルに何かしておらんだろうな!?」
「何もしてない。された身だ!」
その言葉に、2人がバッと私を見た。
・・・え?違うのよ!?
ちょっと待って!!
なんて答えようかとまごまごしていたら、ウィルフォードから、地を這うような声がした。
「フェアリエル、何をした?」
いーやー!メチャクチャ怒ってる。
「えっと、怒りに任せて引っ叩いてしまって・・・。
そうしたら、こうなったの」
するとウィルフォードは、今も私から、聖なる裁きを受けようと待っているマティニアに目を向けたのだ。
「マティニア?俺が、聖なる裁きというものをしてやろうか?」
「お前じゃダメだ!そこの娘・・・フェアリエルだったか?
でないと意味がない」
「いや、俺がやっても一緒だろ?」
「全然違う!」
と二人の押し問答が始まったのだ。
私はその隙に、ベティニアへと謝ったのである。
「ベティ、その・・・。
マティニア殿下を叩いてしまって、本当にごめんなさい。
こうなってしまった原因は、私にあるわ」
「いいや、連れ去ったマティニアが悪い。
それに、今の方が可愛げがあって、いいんじゃないか?」
えー!!本当に!?
私には気持ち悪く見えるのだが、ベティニアは、そうではないらしい。
「ウィルフォード!いい加減にしろよ!私は、お前からのビンタなんて欲しくはない!」
「遠慮しなくても大丈夫だ。特大のものを食らわせてやろう」
と、二人はまだ続けていた。
「エル?にっちもさっちもいかないようだから、先に帰って、お茶でもするか?」
とベティニアが提案してきた。
「えっと、私が原因なのに、帰っていいのかしら?」
「大丈夫であろう。
男二人で、仲良くしていれば良いんじゃないか?」
そう言って、ベティニアは私の手を取り、一緒に部屋を退出したのであった。
そして、私達がお茶と菓子を食べながら話していると、ウィルフォードとマティニアがやって来たのである。
「ベティニア、何故フェアリエルと先に帰ったんだ?」
「そうだぞ!どうして、裁きの女神を連れ去った?」
と、ウィルフォードとマティニアが息巻いている。
「はて?声を掛けていなかったか?」
「「掛けてない!!」」
仲が良いのか、悪いのか・・・。
ベティニアの言葉に、息がピッタリ合う二人。
先程までの険悪な雰囲気は、まるで感じられなかった。
「あの、裁き女神とはなんですか?」
「貴女の張り手はすごかった。私は、感動してしまったのだ。まさに女神のようだった」
いやいや、相撲の技を繰り出した覚えはないんだが・・・。
それに、張り手を食らわす女神なんて聞いた事もない・・・。
「マティニア殿下?私は、フェアリエル・クリーヴランドと申します。
挨拶が遅れて申し訳ありません。
それと、先程の事は、お互い水に流しませんか?」
すると、マティニアが目を見開き『あの張り手を忘れろと言うのか!?一生涯、忘れられるものではない!』と豪語してきた。
そんな自信満々に言わなくても・・・。
どうすれば良いのか分からず、天を仰いでしまった。
するとベティニアが『マティニアも難儀な好みをしているようだな』と吹き出すように笑っている。
ベティ?そこは、心配するところだと思うんだけど・・・。
と思っていたら、ウィルフォードが口を開いたのだ。
「マティニア。
今回は何もなかったから許すが、2度はない。
分かったな?」
「はぁ、分かった。
だが、この気持ちの責任は、誰が取ってくれるんだ?」
「そんなの、お前を叩きたいと思っているご令嬢は、沢山いるだろう?」
え?何それ?
恨みを買いまくってるってこと?
「ウィルフォードもマティニアも、とりあえず座れ。
でかい男が、前へ立たれると圧迫感しかないからな」
と言ってベティニアが席を勧めたのだ。
その後は、先程の事が夢だったのでは?
と思うほどに、和やかな茶会になったのである。
マティニアと話してみると、聖なる裁き以外は普通であった。
そして茶会が終わり、部屋へと戻ると、ウィルフォードが抱きついて来たのだ。
「・・・無事でよかった」
その言葉を聞いた私は、本当に心配をかけてしまったのだと思い、少し震えるウィルフォードを強く抱きしめたのであった。




