17
王宮へと帰って来た私達は、ベティニアと別れ、部屋へと戻った。
「今日は楽しかったな」
「そうね。この国から離れるのが、とても寂しくなるわね」
「そうだな。だが、今度は外交で来られたらいいな」
「ええ。楽しみが増えたわ」
とその時、ドアのノック音が響いた。
「失礼致します。
フェアリエル様、ベティニア様がお呼びです。一緒にいらしていただいてもよろしいですか?」
・・・なんだろう?
「ウィル、少し席を外すわね」
「俺も行こう」
そう言って立ち上がろうとするウィルフォードに『もしかしたら、何かの相談かもしれないし、私一人で行ってくるわ』と伝えて、部屋を後にしたのである。
それからは、メイドに別棟の客室へと案内されたのだった。
本棚に数多くの蔵書があったので眺めていたら、背後から気配がした。
そして、振り返ろうとした瞬間、後ろから抱きしめられ、口を手で塞がれたのだ。
え!?
なに!?
怖くて心臓がバクバクする。
すると・・・
「やっと、会えたな。私に会えなくて寂しかったろう?
今は二人きりだし、楽しい事でもしようか」
!!?
この声は、まさか!?
マティニア!!
私は、口を塞いでいる手を外そうと、力いっぱい引っ張った。
・・・だが、外れない。
怖い!!
マティニアは、もがいている私を抱え上げながら、ソファへと移動している。
そして手前で、私を放り投げたのだ。
恐怖で身体が強張る。
叫びたくても声が出ない。
「驚いたか?
それと、叫んでも誰も来ないから安心しろ」
「な、なんで、こんな?」
「なんでだろうな?
お前に興味があるからかな?
・・・だがそれよりも、ウィルフォードの悔しがる顔が見たいのかもしれない」
そう言って、ニヤリと笑ったのだ。
・・・は?
なんなんだ、コイツは!!
私の中で、恐怖よりも怒りが膨れ上がる。
ウィルフォードの悔しがる顔が見たいからだと?
そんな、くだらない理由で、私はこんな目に遭っているって言うの?
・・・ふざけるのも、大概にしてよ!!
私は、迫ってくるマティニアにむかって、手を振り上げた。
「良い加減にしてよね!この、あんぽんたん!!」
そう言い放ち、兄直伝の平手打ちを頬にかましてやった。
すると、マティニアは打たれた頬に手を当てて、ピクリとも動かない。
・・・やり過ぎたかしら?
と、そう思っていたら、マティニアから恐怖の一言が聞こえたのだ。
「・・・いい」
・・・・・・は?
え?なに?・・・なんなの?その目?
・・・ちょっと!?
いやっ!やめてちょうだい!!
そうして私は、悪夢を見たのであった。
※ーーー※ーーー※ーーー※ーーー※
その頃ウィルフォードは・・・
フェアリエルが出てから、かれこれ30分は経つ。
俺は心配になり、ベティニアの部屋へ行こうとした時、部屋のノック音が聞こえた。
よかった、帰って来たのか。
すると、入って来たのはベティニアだった。
「フェアリエルは、どうした?」
「エル?・・・なんの話だ?
それより、エルはいないのか?」
ベティニアのその言葉に、俺は血の気が引いた。
返事をする事も忘れて、部屋を飛び出したのだ。
俺の様子がおかしい事に気付いたベティニアが、追いかけてくる。
「ウィルフォード!
まさか、エルがいなくなったのか!?」
「そうだ!!」
一部屋一部屋と扉を開けて見ていく。
するとベティニアが『少し待て!』と言い、俺の腕を掴んだ。
思わず、振り払いそうになってしまう。
・・・待てるわけがない。
さっき話していたばかりなのに。
油断していたでは、済まされない。
焦る俺に、ベティニアが宥めるように話し始めた。
「ウィルフォード。少し落ち着け。
心配なのは、私も一緒だ。
まずは、いつ、どうやって居なくなったのかを教えてほしい」
「30分程前にメイドがやって来て言ったんだ。
ベディニアがフェアリエルに用事があるから来てほしいって。
・・・おかしいと思ったんだ。
なのに、一人で行かせてしまった」
「分かった。
では、すぐに下働きの者を集めて聞いてみよう。
不幸中の幸いか、今日のエルは、人目を引く装いをしている。
誰か見かけた者がいるかもしれない」
ベティニアは闇雲に探すより、聞いた方が速いと言う。
俺だって、それくらい分かる。
だが、心配でジッとしていられないんだ。
そんな俺の気持ちを汲んでくれたベティニアが、すぐに手配してくれた。
集まった者にベティニアが問いかける。
「黄色とピンクのフォーニョンを着た女性を見なかったか?
髪の色はシルバーブロンドだ」
すると、洗濯場担当の下女が口を開いた。
「その方でしたら、別棟付近でメイドと歩いているところを見ました」
俺はその言葉を聞き、部屋を飛び出して別棟へと向かう。
どうか、無事でいてくれ!




