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それから3週間
私達はアリステリアスの文化に触れて、楽しい日々を過ごしていた。
そして今日は、楽しみにしていた民族衣装を着せてもらう日だ。
アオザイに似た衣装【フォーニョン】を準備してくれたそうなので、袖を通す。
できれば、ベティニアが着ているような、シックな色合いの物が良かったのだが、我儘は言えない。
私は、黄色とピンクのフォーニョンを着て、鏡の前に立ったのである。
それから、衝立が片付けられたあと、私を見たウィルフォードは『うん。よく似合っている。とても可愛いよ』と言ってくれたのであった。
そしてこの後、ベティニア達と一緒に街へと行く予定である。
程なくして、ベティニアが部屋へとやって来た。
「2人とも、おはよう。もう準備はできたか?
・・・ほう。
エルのフォーニョンは艶やかで良く似合っているではないか」
「ありがとう。
ベティはもう出れそう?」
「私は大丈夫だ。外でラウル達と合流するからな。
ミレットもフォーニョンを着て来るそうだぞ。
では、行こうか」
そうして私達は、街へと向かったのであった。
王宮の門を出ると、ラウルとミレットがいたのだ。
ミレットは水色と紺色のフォーニョンを着ていた。
「みんな、おはよう!
妖精ちゃんのフォーニョンは、すごいね!
出てきた瞬間、すぐに気付いたよ」
・・・え?
もしかして、この色って普通ではないのだろうか・・・。
私は気になり、辺りを見回した。
すると、大人はみんな落ち着いた色を着ている。
もちろん、ピンクや黄色を差し色として使っている人はいたが、私みたいに、目がチカチカする人は見当たらなかった。
「ねぇ、みんな?
私が着ているのって、普通とは違うのかしら?」
「そうだね、あまり大人で見かける色ではないかも――(もごもご)「フェアリエルさん!そんな事はありません。
とっても、お似合いですよ!」」
と、ミレットがラウルの口を手で塞いで、被せるように話してきたのだ。
するとラウルが、ミレットの手を外して『ミレット!?ちょっと近いってば!少し離れてよ!』と顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言っている。
私は今一度、自分のフォーニョンを見てみた。
すると、ベティニアが口を開いたのである。
「・・・そのな?
目立つ色の方が、私もウィルフォードも見失わなくて良いんじゃないかって話になったんだよ。
だから、一番目立つ色を用意させたんだが、嫌だったか?」
「嫌じゃないわ。
でも、理由が分かって良かったかも。
じゃあ早速、街を見てまわりましょうか」
すると、後ろでミレットが『ラウルさん?女性の装いに、口を出してはいけませんよ!』と叱っている。
それに、シュンとしているラウルが目に入ったのであった。
では、気を取り直して、私達は街をぶらぶらする事にした。
今日はお忍びではない為、後ろから護衛がちゃんと付いて来ている。
そして途中、ミレットの好きなお菓子屋さんがあったので、一休みする事にしたのだった。
お店の中は、イートインスペースとガーデンテラスが用意されていた。
私達は、ガーデンテラスへと腰掛けたのである。
すると、ミレットが口を開いたのだ。
「ここのお菓子は、とても美味しいんですよ!私、大好きなんです!」
「先日、ネフタリアさんがミレットさんへ勧めていたお菓子よね?」
「はい!アリステリアスに来て、初めて食べた時の感動は、忘れられません!」
私達の話を聞いていたベティニアが『美味しいと言ってくれると嬉しいな。これはアリステリアスの伝統菓子なんだよ』と微笑みながら教えてくれた。
実は、先日出されたお菓子は、手を付けていないのだ。だから、どんな味なのか楽しみである。
すると少しして、ウィルフォードとラウルが、お菓子と飲み物を持って来てくれたのだ。
私はお礼を言い、受け取ってよく見てみる。
見た目は、小さい丸い揚げパンに粉が掛かっていた。
そして、口に入れてみると・・・・!!
・・・これは!!?
チュロスだ!!
私は前世、チュロスが大好きだった。
屋台やキッチンカー、遊園地などでは、必ずと言って良いほど、食べていたのである。
・・・・懐かしい。
私は無言でパクパクと口へ運んだ。
すると私の様子を見ていたベティニアが『その様子は、気に入ってくれたようだな』とお菓子を口に運びながら、ニンマリとしていたのだった。
私とミレットが、お菓子に夢中になっている頃、ラウルが口を開いたのである。
「あれからさ、マティニア殿下からは何もないの?」
「ああ。特に接触はない」
「私も目を光らせて見ているが、特に怪しいところはないな」
「そっか。
ならよかったよ。僕の勘違いだったようだ」
その言葉に引っかかるものがあったのか、ウィルフォードがラウルへと問いかけた。
「勘違いとは、なんだ?」
「いや、大した事じゃないんだ。
それより、もうすぐ帰っちゃうんだよね」
と三人が会話している時に、ミレットが真剣な表情で私を見つめて助言をくれたのだった。
「フェアリエルさん。
マティニア殿下の件、油断は禁物ですよ」
「ありがとう。けど、あと1週間で帰るのだし、もう何もないんじゃないかしら?」
すると、ミレットは一度瞳を閉じてから、表情を緩ませ『それもそうですね。怖がらせるような事を言ってしまい、すみません』と謝ってきたのだ。
「心配してくれてありがとう。それより、ネフタリアさんとすごく仲良くなったのね?」
「はい!私の事を少しは好きだと言ってくれたんです!私、嬉しくて、とても幸せです!」
いつの間にか私達の話を聞いていたラウルが、慌てて会話に入って来た。
「!?ミレット!?それ、今言う事じゃないよね!?」
「??嬉しい時は、嬉しいって、すぐに言わないとダメなんですよ?時間は有限ですから」
「・・・それは、そうだけど・・・」
そんな2人の会話にハッとした。
私は『ミレットさんの考え方は素敵ね』と伝えたのである。
いつかではなく、今伝える事の大切さを教えられた気がした。
それから私達は、その後も色々と回り、楽しく過ごしたのだ。
きっと、この街を巡るのも今日で最後だろう。
私は、思い出を刻むように、心に焼き付けたのであった。
そして、この時の私は、ミレットの助言を痛いほど痛感する出来事が起ころうとは、夢にも思わなかったのである。




