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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第96話. 素質アリ、ただしヘンなムシもアリ

「……じ~〜」


 アルテア城1Fフロアの上方──高みの影から大広間を見下ろす、ひとりの少女の姿があった。

 羽ばたきつつも宙にくつろぐかのように器用に寝そべる格好で、ぼんやりと眼下の者たちを見下ろす。


 注視するその視線はひとりの少年に向けられていた。それを見つめる表情は真下で起こった出来事に特別驚く風でもなく、いつも彼女があらゆるものに向けてきた退屈な様子でもない。

 それは、獲物を見定める際に見せる鋭き眼をしていた。


「──はぁーん、なるほどね〜レナレナ、もしかしなくてもわかっちゃったわ」


「アイツさ〜、十中八九ゲーマーの素質アリだろ? んで、嵌められたり煽られるともう顔真っ赤にしてムキになるタイプだなぁ~~あれは! あははは絶対そう! おもろ!!」


 その笑い声は本人に届くことはなく、ただ天井に虚しく響くのみであった。


(……)


(……んで、それはいいとして……)


 視線は周囲の魔物——そしてそれを束ねる一人へと移る。突如風の抜け穴から表れ戦闘に幕を引いた少女──その頭には一対の“触角“を備えている。

 日常であれば本来隠されているはずの“それ”は、転送移動の原動力となる“自由の意思”と、城内にマナとして存在する“束縛の意思”が充満するこの場において、覆い隠す事は困難であった。

 ヒトに酷似した外観を持ちながらヴェスパであることを意味する身体の特徴、彼女は周囲の者の視線を一挙に集めている。


(お、おいゼルヌス、あの女の頭についてるヤツ……。あれは触角……つまり、ヴェスパってことでいいんだよな? 俺たちを助けた……のか?)

(全くもって信じ難いが、起こったことを事実として受け入れるしかあるまい……。俺たちを殺そうとしていた化け物どもが一瞬にして大人しくなるとはな……)


「ミツキ!」

「フィルナス先生にレインくん、リリアちゃん! 来たんだね!」

「うん、先生が大変なの……」


 集う4人──

 露わになった、ヒトならざるその正体。

 それを周囲に晒して尚、少年が彼女へと向けるその眼は、遠くから眺めるレナレナが予想するものとは異なる意思をもって向けられていた。


「……」


「な〜んか、変なムシがついてるな~~」


「そもそもあんなヤツここにいたっけ? そしてなにしてんのいったい。やってるコトおかしくね~?」


想定の外にいる存在。

襲いかかる兵を止めたこと、人間に対する振る舞い。

レナレナは理解ができなかった。


(人間に手を貸すフリをしてしている……? いや、アレはそんな感じじゃない。捕まえればどうとでもなるし、ここでわざわざ演技する意味ないもん。配下の兵たちを止めたときも、恐怖だとか暴力で屈服させたようには見えなかった……)


(……ソレってつまり、そーゆー“能力“を持ってるヤツってことよねぇ)


(じゃ〜、あの周りの人間と仲良さげにしてるのもアイツの“能力“なのかな? ……絶対そうだよね。は~やだやだ、次から次へと仲間をふやして(はべ)らせるタイプとか、めんどくさ〜〜い! レナレナだるくなってきた〜)


“ズズズ……”


 駄々っ子のように手足をばたつかせ溜め息を漏らす一方、身にまとう魔力は急激にに増幅する。

 怠惰なる意思による能力の強化──考えることを放棄することにより周囲を滅ぼし、退屈を更に強めてきたレナレナであった……が、彼女はここである閃きに至る。


「……このままじゃ、また国を滅ぼしちゃうわ…………そうだ」


「あるじゃん、"いい方法"が」



──



「——そんな事が……それでここにきたんだね……」

「ミツキちゃん……」


(わたしはみんなに危険な目に遭ってほしくない。ずっと一緒にいたいし、無事でいてほしい──だからここには来てほしくないと思ってた………なのに、どうして──)


(──どうして会えて嬉しいと思ってしまうんだろう──)


「ミツキくん」

「先生……」


一歩前に出て、呼びかけたのはフィルナスだ。


「キミのことは信用している。その上で……できればだが、教えてほしい。キミがここで何をしようとしていたのかを」


「……! 私は——」


一瞬戸惑う異様な様子をみせるミツキ。

しかし、彼女はフィルナスの要求を拒むことはせず、ここで起こった出来事を話し始める。


(……成る程な……。やはり軍はここに到着していた。そして、瘴気の薄い地下を拠点として攻める準備を進めている……!)


「それで、ミツキくんは地下で……」

「うん、放っておくと取り返しがつかなくなるくらい危険な魔物が現れちゃったみたいで……私はそこで……」


(軍はこの瘴気の中でも『マリグナステラ』の発生をいち早く察知していた。この場で倒し損ねればヴェスパとは異なる形でアルテア王国──そしてアストリアは沈むだろう)


城の地下、ミツキの存在……。

ある思惑が過ぎる。


(アレを葬る方法は決まっている……。だが今の状況では”それ“は不可能……どうやっても詰んでいる、ハッキリいってなすすべが無い……ただしそれは通常の方法でのハナシだ……)


「ミツキくん、ひょっとして、キミは……」

「……」


ミツキは何かを言いかけようとして、躊躇(ためら)う。

その些細(ささい)な仕草に、フィルナスはますますの確信を強めた。


(彼女は器用だが、嘘をついたりごまかしたりするようなことは、ボクに対してはしてこなかった。だから、どうしても言いづらいときはこうやって言葉につまる……。言葉巧みな彼女が、だ……これはまさか、まさかだ……)


(軍の連中……とんでもないことをやろうとしていたな──?)



一方、4人の背後。その光景にひとり涙する者がいた——

「これは……夢か幻か……!?」

(魔物……ヴェスパとヒトの子が心を通わせている……! 見てくださいお父様! これがアルテア、いやアストリアの未来を切り開く道です!)


カリストーは涙ぐむその眼でちらりとベッカードを一瞥(いちべつ)する。


(これは現実か……!? 女性(タイプ)のヴェスパ……! はじめて目にしたが……信じられん……(かつ)てのヴィスカ王女様に瓜二つではないか……! そして──)


「……美しい……」


(!? ……お父様!?)

AI不使用

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