第94話. 切り開く希望の刃
「いっけえええええ!!」
巨体の魔物──ハギング・バンシー・アルファに大領主が捕らわれる絶望的な様相──負の感情が場を覆い支配するのを食い止めるかのように、リリアの声が響き渡る。
放たれ燃え盛る渾身の銀焔。その巨体なる魔物に向けられた出力は十分。カウンターとして繰り出された一撃は状況を変えうる威力を有している……少なくともその場にいた者の目にはそう映った。
いかに速いといえども避けられぬアルファの図体と軌道──焔は標的に届き、その結果は──
「──な!?」
虚しくも、焔──完全消失──
その強大な魔物に直撃したかに思えた焔は霧散するかのようにかき消されてしまう。
冒険者達は目を見開き、その様を確かめる……が、その敵はダメージひとつ負っていない。
「効か……ない……!?」
「よく見ろ、フィンカス。"アルファ"に効いてねえわけじゃねえ……“届いていない”んだ」
「放せ!放さんか!」
ゼルヌスが見上げる先——
そこには鋼鉄の鎧を纏いしベッカードの姿があった。
“対魔装甲”──
近接戦闘をコンセプトとする機械鎧において、遠距離からの魔法を用いた攻撃は弱点となりうる。
現在、ベッカードが装着している機械鎧はユースタシアの卓越した技術により、魔法に類する力に対する抵抗性を備えていた。
「そんな……俺たちの生命線である銀の焔があの鎧に弾かれちまうなんて……!!」
「ヘコんでるヒマなんてねえぞ!来る……!!」
アルファを取り巻くバンシー達は冒険者の精神的動揺、そして出遅れを見逃さなかった。
数の有利をそのまま活かし、ゼルヌスらを取り囲み襲いかかる。気づけば白百合のランタンの焔は消えかかっている──
(いつのまに……! フィンカスの焔の方がまだ勢いがある………俺がビビったせいだ……!)
(いくらなんでも多すぎる……! 今度こそ俺はあのバケモノにやられちまう……! もう……希望が……!)
“マドラー & ヴォルテックス”
”ヴェント・フェルマータ“──!
(!!)
冒険者に伸びる魔の手──
それが届く寸前、フィルナスとリリアの声が響く。
渦のように拡散される銀の焔。負の感情に支配されつつあるゼルヌス達に対し、リリアは依然として十分な出力を保っている。フィルナスの風により渦のように攪拌された銀焔、そしてそれは“停滞”しながら積み重なる。
(奴らの動きが鈍った……! いやそれどころかリリアが追撃するように魔法を積み重ねている……! 広範囲に拡散させてるから倒すまではいかないけど、これならあの雑魚ともきっと戦える……!)
「──レイン君、倒せなくってもいい。なんとか時間を稼いでください」
「!」
フィルナス先生に、何か考えがある。
しかしそれを実行少しばかりの猶予が必要……一か八かの賭けに出ようとしている。レインはそう受け取った。
(この状態……リリアは渦の中で魔法を積み重ねることによる足止めは出来ても、更に強力な追撃は出来ない! だから……!)
“キイィイィン”
刃が鋭く引き裂く音──
更に、続け様──五月雨の如く剣撃が浴びせられる。
(俺が、切り開くっ……!)
“百烈剣“──!
“アルケイダル・エンブレム”
それは、同時だった。
レイン、そして冒険者の装備に刻印されしエンブレム──破軍星の力を魔法によって得たカリストーの剣がバンシーに炸裂する。
(このヒト……! さっきの様子から変なヒトかと思ってたけど……スゲえ使い手だ……!)
(やはりこの城、戦士達には”エンブレム”が溢れている──スゴく調子がいい。 今お助けします……お父様!)
「みんなにも……力を!」
「!……ランタンの焔が、回復した!?」
リリアが杖を掲げる──すると、冒険者が所持する焔は瞬く間に勢いを取り戻し、同時に武器にも銀焔が付与された。
「オレたちも戦えってこった。魔導士様、サマサマだな。まったく……! とことんやるぜ、オレは!」
「喜んでるヒマねえぞ、デカブツが来る……!!」
「わしを離さんかあぁぁあああ!!」
ハギング・バンシー・アルファは長き腕を勢いよく振りかぶる。その拳には魔法に対する抵抗性を有する機械鎧の大領主、ベッカードが握りしめられており、その行先は仲間の魔物を足止めする”渦“へと向かおうとしていた。
「!……やっぱりそうなるよな……なら! いっけえぇええ! ”アストラルブレード“──!!」
巨体“アルファ”は轟き叫ぶ。
渦を消そうとしていたその手はひるみ、身体は揺らぎ体制を崩した。
レインのショートソードより放たれ鋭く回転する星型の風の刃はべッカードの対魔装甲が有効でない後足へと飛来し命中したのだった。
加えてその刃は、レイン自身の剣がまとう焔よりもより密度の高い焔を纏っていた。
(銀の焔は先生のつくったあの渦で消えずにとどまっている。だから焔の渦を”くぐらせる“軌道で放てば、ソイツを巻き込んで、俺も遠距離からより強い攻撃ができる……! この技はもともとフィルナス先生から習った技の応用だ……!)
レインがすぐ様次なる一撃を繰り出すべく構える。
冒険者たちが戦う力を取り戻し、カリストーもまた戦える状態にある。
つくられた時間により意思の力を十分に蓄えたフィルナスは、アルファに向かって悠然と歩いていく。
(苦手なことは別に向き合わなくてもいいと、そんなのヒトの勝手だと思ってきた──)
(だけど、今は逆だ。真正面から立ち向かい、道を切り開くべきなんだとはっきりとそう感じる……!)
(仕方がないなんて……ボクは思わない……! 僕は運命を手繰りよせる!)
(これは賭けだ。だけど、この状況を打破できるのは、たった一人しか居ない──!!)
「先生!?」
(僕の中の心の叫びを共鳴させる!!!)
(──届け──!)
「その人を……放せ……!!!」
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[AI不使用]
AI不使用




