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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第92話. 殺意に駆られし破軍の明星

 静寂に包まれし、アルテア城1Fの薄暗い大広間に現れた、複数の人影——


 その数はどうやら6人程——それぞれが洗練されし装備に身を包み、周囲を警戒しつつ歩を進めていた。


「魔物がいない……どうなっている……?」

「討伐された様子もありませんね」

「やはり内部から他の者と連絡は取れない、か……」


 先陣を切って進むのは上から下まで黒鉄の重装甲で覆われた戦士"ゼルヌス・アルターク"。その武具・装飾ひとつひとつの質は軍の正規装備にも決して引けを取らず、彼らが並の冒険者ではないことを示していた。


(おわ……すっげー装備……!)


 レインは思わず壮麗(そうれい)なる彼らの(たたず)まいに見入ってしまう。魔物討伐の現場に訪れた者をこうして見るのもはじめてだった。

 その一方で、レイン以外の者にとっては、彼らが何者であるのか心当たりがあった——フィルナスは思案する。


(あの仰々しい装備に施された"エンブレム"……あれは正規の軍ではない……。予定した作戦に沿って動いている様子もないようだ。彼らはおそらく後から情報を聞きつけここに訪れた)


(バーゼルスタイン・コンクエストの冒険者の中でも特に選りすぐりの戦力をもつ、"破軍の明星ベネトナシュ・ルミナスター"——!)


 『破軍の明星ベネトナシュ・ルミナスター


 それは数多くいる冒険者の中でも特に功績が著しく、輝かしい戦果を挙げた者につけられる称号であり、名誉の象徴、いわゆるS(ランク)にあたる戦力をもつ者たちである。

 ただし、冒険者であるが故に"ライデン・セルク"のように必ずしも軍と共に行動するとは限らず、彼ら自身の判断で遊撃隊として行動する者も存在する。今回の作戦において、ベッカードは全面的な軍への協力を断ったこともあり、彼らの様なS級の冒険者がバラバラに行動するといった事態を発生させてしまっていた……。


「ゼルヌスさん、向こうに誰かいますよ。ヒトの様です」


 一行のひとり、闇に溶け込むような迷彩柄の重装鎧を着た者"フィンカス・ピルクール"は、大広間の奥に居るフィルナスらを察知しゼルヌスに告げた。


「軍の連中か?」

「いいえ、服装からして少なくとも軍の者ではありませんね」


 その中に居るベッカードは彼らにとってはまさしくボスに当たる存在である。——だが、現在彼は秘蔵なる鋼鉄の機械鎧に身を包んでおり、その姿から"彼"だとは気づきはしなかった。期待のはずれたゼルヌスはその周囲に目的——軍の姿がないか不満げに見渡す。


「……何者か知らんが、合流するのが先だ。連中はとっくにもう到着しているハズ……どこで何をしている……」


「やはり、ライデンさんの様に直接作戦に参加するべきだったのでしょうか?」


「冗談言うな、そんなことすれば今頃肉の壁になっているだろうよ。首輪を繋がれず、生き残りながら確実に功績を得る。肉壁になるのは奴らの方だ。真正面から誰かが囮になる必要はあるが、それは俺たちではない」


「どうやって戦い生きるか、決めるのは俺たちの自由ですもんね」


「ああ、幸いにも、焔は灯っている」


 ゼルヌスは腰に装着された"白百合のランタン"に目をやる。

 銀の焔を携帯し、持ち運ぶための装備——ヴェスパとの戦いにおいて欠かせない生命線だ。

 その中には、仄かに輝く明かりがちらついている。


「辛うじて焔は灯っています。私たちの個人差はあるようですが、使えそうです」


 ゼルヌスは一呼吸をおいて、こう言った。


「……よし、焼くぞ」


「え……焼く……?」


「ここで迂闊(うかつ)に動く必要はない。このフロアの魔物の虫が一掃されれば上階でも焔は使えるはず……あわよくば巣と化したこの城を焼いて躊躇なく皆殺しにする。それとも何か問題でもあるのか?」

「……いえ」


(そんなことが、できるのだろうか……?)


 異常なステータスをもつヴェスパとの直接戦闘を避け、銀の焔をつかって『蝿の巣ごと焼き払う』……その発想に全く至らなかったわけではなかった。

 通信不能になる程の瘴気はあるが、銀の焔は灯る状況。魔物討伐においても合理的に思える——が、フィンカスの脳裏に不気味な予感が奔る。


「心配するな。この焔はヒトが触れてもノーダメージ……危害が加えられることはない。何も問題なく俺たちはこの城を奪還できるはずだ」

「……」


(何故だろう……上手く行くように思えるが、止めた方がいい気がする……)


 ゼルヌスは木材が無造作に積まれた瓦礫(がれき)の前で消毒薬代わりに携帯していた酒瓶の蓋を開ける。


「!……焔はそれには反応は……」

「知っているさ……」


 "銀の焔"は通常の火とは異なり、アルコールや魔法の関与しない空気による反応があるわけではない。

 そのことを知りながらも、彼は酒瓶を傾け、不気味に(ささや)くように言った。


「景気づけだよ。これからヤツらに復讐するための……」


(ゼルヌスさん……このヒトは……)


 廃材に零れ落ちる酒——跳ね返るその雫を見つめる目は冷淡であった。

 効果は無いと知りつつも行われるその行為……ただならぬ威圧感を感じたフィンカスは思わず目を逸らす。


 そして——


 "ドゴオォッ!!!"

「ぐぁっ!?」


 衝撃音が響き渡る——と同時に、ゼルヌスが派手に吹き飛び、床にその身を打ち付けた。


「貴様、何をしている!!」

 倒れこむゼルヌス。その兜ごと頭を鷲掴みにし、声を張り上げたのはベッカードだった。

 彼はその拳でゼルヌスに一撃を叩き込み粛清(しゅくせい)したのだった。

 周囲の者も、秘蔵の鎧に包まれたその声の主が自らのボスであることに気づく。


「……!? 大領主様!?」

「貴様……狂っているのか!? 自分が何をしたかわかっているのか……奴らの巣で酒を出すな……! そして、奴らはヒトの"殺意"を察知する……!」


 銀の焔で魔物の巣を焼くことができなかった、その理由——


 焼くために放たれるその意思は……『誰かを助けるため』、『大切な者を守るため』ではなく——


 『()()()()


 まるで、匂いを嗅ぎ分け獲物に寄せ付けられるようにして、彼らは巣に対する強烈な"殺意"を察知し"彼ら"は訪れる。

 突如、フロア全体を覆い、ざわざわとした異様な気配が支配する——


「リリア……! 辺りの様子がおかしいぞ! 来る……!」

「うん……!」


 そして——


「上だぁぁぁあああ!!!」

 冒険者の一人の眼前が”それ”により覆われ、反射的に叫ぶ——と同時にその身は一気に天井まで連れ去られ、宙を舞った。


「うわああああああぁ!!!」

AI不使用

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