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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第91話. 囚われし自由なる魔導士の決意

『対話不可能』


 ──それがボクが達した結論だ。


 勿論、はじめからこの男……ベッカード=バーゼルスタインとコトバを交わすことを諦めていたわけではない。


 フィオリナとの日々……ただ2人だけであれば、欠けたところのない満月のように支障はない筈だった。


 問題は”普通でない親族“との人間関係……。


 彼女自身、ベッカードとの対話を実現するためにあらゆる手、全力を尽くしてくれ、その度に頭が下がる思いだった。


 ──が、その結果は(ことごと)く“門前払い”。手応(てごた)えは空を掴むように全くの“無”……。


 それどころか、ボクの仕事は何かの嫌がらせのように突然増え、帰りが遅くなった。その背後に絶大な権力を誇る大領主たるこの男が居ることは察していた。


 バーゼルスタインの家系は、その元を辿れば、『武と剣の国 シルベニア』の名家にあたる忠臣たる将軍がその晩年にアルテアを骨を休める(つい)住処(すみか)としたというルーツがある。


 当時建てられた巨大な屋敷には、やがてシルベニアの親族・傭兵部隊も移り住み、傭兵としてアルテアを魔物から守ることとなる。人々は遥か遠方の武と剣の国に恩を感じ、その土地を防衛してもらう代わりに、後の領主の地位に繋がる権利を段階的に差し出した。


 フィオリナによれば、バーゼルスタインの家紋である葡萄の(つた)酒甕(さけがめ)は“勝利の美酒”を意味するそうだ。


 武をもって悪しき魔を打ち破り、人々を護り、勝利の盃を交わし、繁栄を極める。それが代々受け継がれてきたバーゼルスタイン家のあり方だった。


 (ゆえ)に、バーゼルスタイン家の党首となる者はその領地を護るに相応しい、勇ましき武の象徴たる者でなくてはならない……。


『自由の意思による風の魔法』は移動に関しては他の追随を許さないが、単体の攻撃能力は殆ど持たない。勿論、嵐のように凄まじい暴風や、鋭く切り裂くような魔法も存在はするが、それはボク固有の意思・願いでは出せない。自由の風の魔導士であるボクは、バーゼルスタイン家のあり方にそぐわず、存在を黙殺された。


 ……それでもフィオリナは無理を言って寄り添ってくれた。大学時代、アネット先輩の助けもあって築かれた関係は(かろ)うじて繋ぎとめられた。


 そこから先……ヴェスパにより世界は大きく変わってしまった。ヒトを超える力をもつ魔物の軍勢に蹂躙されるバーゼルスタインの私設軍……。弱点だと思われた火に耐性をつけた魔物が出現した発端はシルベニアにあるとされ、流れを汲んだバーゼルスタインにも糾弾の声が飛び火している。実際のトコロ、あの国でなにがあったのかは定かではないが……。


 不謹慎にも、何かが変わるのではないかと期待した。世界が滅びゆく一方で、せめてこの世の最期くらいは、ボクのことを見て、コトバを交わし、知ろうとしてくれてもよかったんじゃないかと。


 ……


 ──だが──


 今、目の前にある光景。


「害虫の処理はお任せを……! この僕が指一本触れさせません」

「近い……! 私から離れろ、カリストー!」

「!!? 今僕の名を呼んで下さいましたね! お父様が僕の名を……!」

「黙れ……! お父様と呼ぶなと言っただろうが……! ベタベタとくっつくな! ええい、いい加減離れんか!」


 鋼鉄の鎧に身を包みしベッカードとカリストーが互いに激しく言葉を交わす。その間に入り込む余地はどうやらなかった。


(この2人……ワケありの親子なのは知っている。あの青年、カリストーがたびたび度を超えた問題行動を起こし、そこかしこで舞い上がる狂気じみた噂も……)


(……残念だが、ボクが割って入っても会話は成り立たないだろう)


(……)


 呆然と立ち尽くす……ふと振り返ると、心配そうに見つめる2人の生徒がいた。一刻も早く、急がねばならない時である事を告げるように。


「先生……」


(子供たちが、ボクをみている。ボクは教師として死んだつもりでいたが、この目……)


 それは、まさしく生徒が教師を見る眼差し──ソレも、つまづいている教師を見る目だ。それは職場では1秒たりとも味わいたくのない、気まずいものである。


(ボクに……まだ教師でいろとでもいうのか……? 子供を導くべき立場に……)


 立場という”檻“……。尚もそこに囚われ続けなければならないのかと(うれ)う一方で、ボクは己自身の中に根付いていた、ある感情に気づく。


(……この二人は、どうやら見抜いている。ボクが、諦めている気持ち、絶望する気持ちに……)


 子供とはいえ、2人は魔法に適性がある。

 ──(むし)ろ子供だからこそ、他者の気持ちに相当に敏感であることに違いはない。


(……フィルナス先生、大丈夫かな。ムリしようとしてないか?)


「あの……リリア?」

「ん〜?」

「さっきからたまに見上げてるけど、なに見てるの?」

「なんだか綺麗だなーって、ふふ。レインくんも、そう思わない?」


 リリアが見上げる先──そこには暗く高い天井から連なるガラスの雫のように伸びる粘糸が幾つも伸び、青白き灯りを反射し色づいた小さな光を散らしている。


「ん……? そういや、キラキラ光って、リリアの好きな星みたいにもみえるな」

「でしょ〜?」

(またこいつ、呑気(のんき)に……! あれ魔物の出した糸だぞ! 注意したほーがよかったか? これくらいの方が、瘴気は散るのかな)


 たびたび状況にそぐわぬ会話を繰り広げる2人。その距離はどうにも近く、教師ならば見ておかねばならない。


(レイン、リリア……そういえばこの2人は、元々はいがみ合っていた間柄だった。リリアの方が明らかに近寄って欲しくないようだったが……随分と変わったものだ)


(加えて、今まさに人類を滅ぼそうとしている魔物、ヴェスパの生徒とも2人は親しいときた。ヤツらに対する唯一の対抗手段を持つ者でありながら、今はその子と仲がいいようにみえる)


(考えてみると、メチャクチャだ。異常……あり得ないことが起こっている。……自由すぎる)


(……“自由“……)


(……そうだ)



(……ボクは、あの男との対話は不可能……ムリだと自分自身で決めつけている……)



(自由の魔導士を名乗っておきながら、思考……意思を拘束し閉じ込めている)



(()だ、自分自身の気持ちをまっすぐぶつけていないのに……!)



(そんなことで子供たちにとってふさわしい姿、模範といえるのか?)



(『諦め自分を縛る願い』、これから解放されなければ、ボクの物語は鍵がかけられたまま滅びるしかない……!)



『フィオリナを救い出す』重なる共通の願いが有りながらもうまく繋がり合わない状況を打破すべく、意を決するように拳を握りしめる。


 尚もカリストーに詰め寄られけむたがるベッカード、歩み寄りその背から、声を掛けようとした。


 ──その時──


「……なんだ?」


 感じ取る”状況の変化“、静寂に包まれていた空間に何かが介入し、途端に辺りが騒がしくなる。


 聞こえてきたのは、遠くから──


 それは徐々に近づいてくるようであった。

[AI非使用]

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