表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
92/102

第89話. 怠惰なる琥珀色の虻姫

 アルテア城内、とある階層——


 そこはかつてのアルテア城における図書館にあたる空間、学者、文官たちが数多ある叡智の結晶から、それぞれ求むる知識を抽出し、動員させた場所である。本来であれば効率よく知を摂取するために澄み切った空気、そして神聖で厳粛な場所だ。

 ……もっとも、今現在そこの空気(マナ)は全くの別物に変わり果てていた。


 フロアの最奥に位置する、壮麗な装飾の施されし、くつろぐのにも適したアンティークソファ。その背もたれに"さかさま"に座り、“座面を背”にするのは琥珀色の瞳と髪をもつ少女——その額には触角、背には虫の翅——どうやら人の子ではない。


 本来揃えられた前髪、豊かなセミロングの髪は重力によりめくれあがっており、黒と山吹色のドレスは、蜂の如き警告を告げる色彩を示しているが、四肢そして表情に力はこもっていない。その脚はだらんと投げ出され、つま先は天井を向いていた。そしてなにやら一冊の本を手に、腕を天井にむかって伸ばし掲げる形で読みふけっていた。


 そして、それを覗き見る小さな影……。


(……)


(なんじゃあれ……! あり得ないスタイルで本を読んでおるやつがおる……いくらなんでも自由すぎるじゃろ! 近くにも見慣れないヤツ……。ここの兵が出払っている最中にいつの間に進入して来おったのか!?)


 あまりにも独特な姿勢で本を読みふける少女を本棚の陰から遠目で眺める魔物──かつては小柄な老人のような姿をしていたが、今やR-200指定により、200歳未満のものはその姿は正しく視認できなくなっている。


 少女はぺらりとページをめくると、退屈そうに深いため息をつき、一言呟いた。


「……は〜」

「めんどくさ〜い」


「いかがなされましたか? レナレナ様」


 少女に声をかけるのは、ターバンに摩訶不思議な紋様の装飾を施された暗色の魔術ローブの男。


 奇妙な仮面で顔を隠し、全身を覆った怪しげな様相──その背とシルエットからは一見するとヒトの様にもみえるが、ターバンの隙間からは触覚をのぞかせている。

 得体の知れぬ怪人──彼もまた人ならざる物であった。


「ゾルスター、遠くからこの国にやって来たのはいいんだけど……あたし、この“小説”っていうのに向いてないのかも」


 レナレナと呼ばれし少女は、ページの端からちらりと怪人ゾルスターに目をやる。


「これってさ〜、同時に1人だけしか読めないじゃん。ソロプレイだけ? もっとこう、協力したり対戦したりっていうのはないの? それに、気に食わない人物ばっかりでむずむずして来たんですけど……! ムカつく奴を直接ぶっ殺したりとかもしたい!」


「ふむ」

 本を手に脚をじたばたさせるレナレナ。ゾルスターは首を傾げ、顎に手をやる。


「ヒトがつくりし文化……“小説”というものは、基本的には1人で読むもののようですね。共有するとすれば、他者も読んでいることが前提! こちらからその中の人物に干渉することはできず、もし望むとすれば、元いた国のような技術が必要になるでしょう」


「ゲームにしちゃえば楽しめるのにね〜〜? こっちの国、そういう技術ってほとんどないんでしょ? 置いてある本も、文字がびっしりの難しいやつばっかりだし。も〜ページめくるのも重ーい。もとの国に戻ってゲーセンとテーマパークつくるほうがいいかも〜〜」


(ゲーセン……? 何じゃソレ……?)


「ほっほっほ、その気になればいつでも戻れますとも。この国はどうやら脆弱、間も無く滅びます。破壊がすすみ、作り直す前に一旦の下ごしらえが肝要なのです」


「もうめんどくさいから全部アンタに任せといていい?」


 ぶっきらぼうにレナレナが告げる。すると、階段の方から声が響いた。

「レナレナ様!レイオットの奴が戻りました!」


 ヴェスパの兵士と共に混じり、項垂れた様子のレイオットが重い足取りでレナレナの方へと向かう。

 両脇の兵士は黄褐色に黒色を交えた体躯をしており、蝿というよりも蜂や(あぶ)に近い様相の魔物であった。

 レナレナの部下であろうその屈強な魔物に対し、レイオットの姿は小さく、その様子は軍隊の兵士が捕えた者を連行しているようにも見える。


(彼奴らが侵入して来た兵士……!? ウチの魔物よりも明らかに格上じゃ……! あのレイオットが雑な扱いをされておる!)


 レナレナはそのままの姿勢で、ページをめくりながらレイオットに問いかける。


「……キミ、なにしてんの?」


「……なんで手ぶらなのかな? 侵入者とかいうの、どーしたわけ?」


「……」

 レイオットは俯き返答はなかった。彼自身の運命をはかり知る能力──それが指し示す自らの行く末から、彼は沈黙を選択した。


 その代わりに答えるかのように、ゾルスターの手元には水晶玉が現れ、黙り込むレイオットを見透かすかのようにきらりと妖しく輝く。


 そして、ゾルスターはぽつりと告げた。


「ふむ、この者どうやら、“見逃した”ようですね」

「は〜!? こいつバカなの? なんで捕獲しなかったのかな」


 水晶が再び妖しく輝いた。


「“保身”ですね。そうすることでもやはりこのモノに危険が及ぶ。彼はそちらの方を恐れたようです」


 自身と何者かを比べられたレナレナは思わずムッとする。彼女は本をパタリと閉じると逆さまの状態の身をただし、背もたれから座面へと座り直した。


「へ〜〜、それってレナレナをナメてるってこと? いったい誰にビビってんの? 怒んないから言うてみ〜?」


 その垂れ目ぎみの眼は一見穏やかだが、彼女の表情は笑ってはいなかった。このままだと次の瞬間にはゾルスターの水晶が輝き、その末にもレイオット自身の運命に先はなかった。


(……ま、まずい、いよいよ私の運命が見えなくなってきた……。ゾルスターの能力……こちらを恐ろしく正確に見透してくる……! どうにかしてこの先を生き残らねば……!)

AI非使用

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ