第78話. 禁書庫になき禁断なる児童書: 月のお姫様 ③
彼らが遺跡で見つけたもの──それは、月の窪みに転がり落ちた灯台の中にある、“灯りの設計図”でした。
灯台は長いながい年月によって、折れてしまっていましたが、灯りを集めるための“レンズ”は幸いにもどうやら無事なようでした。
もし、灯りを直す事ができれば月のお空にも届きそうなまばゆい光を放つことができるかもしれません。
どうやら設計図によると、再び力を取り戻すには多くの材料、特にとても沢山の宝石が必要でした。
セレニアはいいます。
「大変だけど、みんなでなおして空に向かって灯りをともせば、救助が来るかもしれない!」
みんなは協力して材料を探し、灯りを組み立てることになりました。
材料を探す人や、道具をつくる人。宝石を採掘する人、そしてみんなの生活に必要なものを管理する人──いろんな役割が生まれました。
いつの間にかセレニアは、灯台の灯りを組み立てながらみんなをまとめるのに大忙し!
来る日も来る日もなかなか救助はきませんが、それでもみんなは完成を目指して頑張り続けます。
はじめは、みんな張り切っていました。
だけどしばらくすると、だんだんとセレニアのもとから人が減ってゆきます。
セレニアは、船や遺跡の材料をつかってせっせとお家を作っていた子──そしてその場を離れようとしていた男の子に、そのわけを尋ねました。
そして、返ってきた返事は──
「ずっとおんなじ事してて疲れちゃったよ。遠くの景色を見に行って、また帰ってくるよ」
セレニアは反省します。
本当にその子がやりたい役割じゃなかったかもしれないこと。そして急ぐあまり、休みが足りていなかった事を……。
彼女はみんながやりたい事を選べるようにし、しっかりと休みをとらせてあげるようにしました。
しかし、またまた暫くすると、更に人が減っています。
セレニアは、月の洞窟で宝石を掘り起こしていた子──その場を離れようとした男の子に一人にそのわけを尋ねます
すると、帰ってきた返事は──
「リーベルが、『オレのところへ来ればお菓子やジュースをやる』っていってまわっているらしいんだ」
「そんな……」
セレニアは愕然とします。
リーベルは、掘り起こした宝石を使って仲間に武器を作らせ、うさぎさんを脅そうとしていたのでした。
「毎日毎日、餅と水ばっかりで生きていけるか!アイツらはもっとイイものを独り占めしているんだぞ!」
うさぎさんの町には、飴がなる木、チョコやジュースの噴水もありました。お餅ばかりで流石に飽きていたリーベルは、光線の出る武器を使ってうさぎさんからそれを奪い取ろうとします。
「待って!」
それを止めようとするのはリュトスでした。
「キミが言うことはわかるけど、乱暴は良くないよ。本来僕らは生きていくことだって難しかった。それが、彼らのおかげで僕らは生きこれたのに。僕らはそんな事のために道具を作ったわけじゃないよ」
だけど、リーベルはなかなかいう事を聞こうとしません。
「目の前にあるのに我慢しろっていうのか?道具の使い方を決めるのはオレの勝手だろ。それに、この武器を使ってみたいんだ」
彼は、手にした武器で誰かを打ち負かしてやりたくなり、たまらなくなっていました。
リュトスが困り果てていると、セレニアが出て来て彼にこう言います。
「あなたは、誰かと戦って打ち負かすのが好きなの?」
リーベルは言いました。
「悪いかよ? 俺のこと…俺たちのことを知らずにこんな道具をつくって配ったヤツが悪いぜ」
「だったら──」
セレニアは言いました。
「その力で、うさぎさんたちを護ってあげればいいわ」
うさぎさんたちは、お月様に定期的に現れる、タコの怪物に襲われることに、悩まされていました。
セレニアは、喧嘩するのをやめさせ、リーベルをうさぎを護るための防衛隊長に任命しました。
うさぎさんたちはまたも喜び。リーベルにも恩を感じ、お餅や泉を彼が使うことを許し、そしてお菓子やなる木やジュースが湧き出る噴水をみんなに使わせてくれるようになりました。
「フン、オレのおかげだな。うさぎを護るのにもっと武器をよこせ。タコの怪物に負けるわけにはいかないからな」
リーベルは、それからしばらくは武器を持って大人しくうさぎさんを護るようになります。
──
(しばらく……?)
俺は少し引っかかった。ミツキはこの先も読んで続きを知っている。彼女の表情は少し切なそうだ。
この展開は……。
──
そしてある日、うさぎさんの町に異変が起こります。
恐ろしいタコの怪物がうさぎさんを食べにやって来たのです!その数は今までにない規模でした。今度こそやられてしまうと、うさぎさんたちは大慌て!
だけど、今回は護ってくれる人たちがいます。
リーベルたちは光線を放つ武器で、そしてリュトスたちは剣で──
どちらも貴重な月の宝石が使われていました。
そして、みんなは総出で戦い、なんとかタコの怪物を追い返します。
うさぎさんは一安心し、大喜びしました。
──ですが……、
みんなで大喜びしている中、その上空を一隻の巨大な船が通りかかります。
それは、子どもたちがもといた世界からやって来た、軍艦でした。
リーベルたちは光線を合図にしてなんとか知らせようとしましたが、ちからが足りず、気づくことはありません。
残念ながら、子どもたちは救助されることはなく、月を通りかかった軍艦はそのままあっという間に通り過ぎてしまいました
──
(……もし)
(武器に使っていた宝石のエネルギーを、修理した灯台の灯りに使っていたならば、みんなはここで救助されていたかもしれない)
(だけど、それでは武器が足りず怪物に攻め滅ぼされて、きっと負けてしまう……)
(これは……)
「レインくん、『仕方がない』って、あなたは思う?」
流石魔導士というか、どうやら心をほぼ読まれている……。
どう答えるかでミツキの反応が変わりそうだ。
……といっても彼女は本心を多分見抜いている。
俺は正直に答えてみた。
「辛いけど……まだ終わったわけじゃない」
「ここで『仕方がない』って思って割り切ってでも、みんながまとまって灯台の灯りが完成する方向にいけば、うさぎたちも助かって、みんなも救助される」
「ここで救助されなかったのはザンネンだけど、人間たちだけが助かる道よりは、いいのかもしれないって思うよ。リーベルが要注意だろうけどな」
そういうと、ミツキは柔らかい笑みを浮かべた。
「うまくいけばいいんだろうけどね……」
「この小説、結構キツい話だってきいてるし、ここからが大変なんだろ?」
「うん」
「この本に込められた想いを知るには、ここからが本番」
この先は、ちゃんと読んだことはない。
大雑把なりに、俺はあらすじだけは知っている。
リーベルは『俺のおかげだ』と自信をつけてしまい、どんどん武器と力を欲するようになる。そして資源が限られている以上、灯台の修理は完成しない。
そして──救助は来ない。
子どもたちは、月で10年もの時を過ごすんだ。
どろどろした争いと奪い合いを繰り返しながら──
だけど、どうやらこれは単に喧嘩して相手を力で打ち負かす、そういう話じゃない。
セレニアは、リーベルの個性を認めて、彼のことを信じたんだ。
それがこの先変わっていくのかが、この本に込められた想いを読み解く鍵になる気がする……。
──って
「うおわあああ!?」
俺はたまらず声をあげてしまった。
小部屋の扉の窓から誰かがのぞいている!
「お二人さん、閉館時間っすよ」
「ミツリちゃん!いつのまにもうこんな時間……!」
(びっくりした……!)
それは眼鏡の小柄な子……図書委員のミツリだった。
今までそんな真剣に小説を読もうなんて思ってはいなかったけど、これは何かの縁だと思う。
俺はこの小説『月のお姫様』を借りることにし、図書館を後にした。
AI非使用




