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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第73話. お姉様!蝿の魔物に指一本触れさせてなるものか!!

「念のため、顔を伏せていてください。道中にもお姉さまをつけ狙う者たちがいます」

「はい・・・!」

「彼らは自分自身の利益を優先するでしょう。乱暴な手段を使ってくる可能性があります。では、行きます!」


 カリストーが駆る白き鋼鉄の車体。

 フィオリナを隣に乗せ発進させると、その車体は速度にのり、瞬く間に住宅地を離れてゆく。


 一方、身を潜ませながら、その様子を眺める男たちの姿があった——


「なんだあの乗り物!卑怯だろ!」

「ありゃユースタシアのだな……追いかけなくていいのか!?」

「追いつけねえよあんなの!」


 先程、カリストーの異様な力を目の当たりにして、身の危険を感じた何人かはどこかへと逃げ去ってしまい、数人がその場に残る。その者たちは尚も酒に酔っているようだった。


「しかし……あいつはいったい何なんだ?」


「……アイツは……"カリストー=バーゼルスタイン"だよ」

 彼自身が自称してまわっている"バーゼルスタイン"の家名。その言葉は並々ならぬ意味をはらんでいる。それを聞いた者たちが驚愕するのも無理はなかった。


「バーゼルスタインだと!!?——すると、さっき"お姉様"って言ってたのは……やっぱり!」


「ああ、ヤツは腹違いの領主様の息子なんだ」


 バーゼルスタインの家の名を聞いた時から『まさかそうなのでは』——と、頭をよぎっていた。その内容に衝撃を受ける面々。


「・・・・・・!!」

「一人娘じゃなかったのか……!」


「そして、アイツは娘さんに手を出す輩には特に容赦しねえ。酒場でフィオリナさんのほんの噂話をしただけでも病院送りにされたヤツもいるんだ。一旦怒らせちまったら人間には誰にも止めらんねえ」


「何故なら……ヤツは半分魔物!なんの魔物かはわからねえが、その力はバケモンだって聞く」


「あの男は、ハーフ……ヴェスパってことか!?」

[注:違います]


「領主様……マジかよ……!俺もうついていけねえよ!逃げようぜもう!?」


「落ち着け!俺たちじゃなくても、アイツを待ち構える連中がいるハズだ!イチバンじゃなくっても目的が果たされれば報酬は貰える!」

「そ、そうだな。……人間をやめた領主サマに報酬を……」


 当然、ヴェスパが侵略する前の時期からカリストーは表舞台には出れないなりに世を生きて来ており、知る人ぞ知る人物ではある。——が、ひどく酔っていた彼らは誤ったカタチでカリストー、そして公にはしがたい領主の噂を広め始めてしまっていた……。



 ──



 バーゼルスタイン邸へとつづく街道。


 カリストーは速度をあげ、その車体を奔らせる。


 地は狭い道ではあるが見通しは悪くはない。周りには田園や木立。隠れる場所は多くはなく、この調子で一気に駆け抜け蹴りをつけてしまおうという算段だった。


 ——が、


 数少ない岩肌を曲がり、その視覚となる形でそれは現れる。


(あれは!?)


 前方の石畳の路に、何かが倒れており、その上から覆いかぶさるようにして、黒き影がまとわりついている。


 速度は十分についた状態、間もなく"それ"に察知されるのはどうやら避けられそうにはない。


 だんだんとそのシルエットは大きくなる——


(!!!・・・・・・・出た!!)


 ピチャ……ピチャ……


 地面に突っ伏している者。兜がころがり、装備は所々破損している。それはどうやら生き倒れた男の冒険者のようであった。

 そこから身包みぐるみをはがそうとしている、それはヒトの体躯をもつ蝿の魔物だ。


 然程さほど大きくはない、"ラドロピクシー"と呼ばれる蝿の魔物——ヴェスパの姿だった。

 その魔物は倒れた戦士が持っていた酒……(こぼ)れたアルコールを舐めている。


「くっ・・・酒の匂いにつられたか!!よりによって路の真ん中で!」


 カリスト―はスピードを緩めず、慣れた手つきで変則桿を操作しながら一気にハンドルをきる。


「お姉様!伏せていてください!!揺れます!!」

「きゃっ!」


 "ギャギャギャギャ──!!!"


 速度を出したまま慣性をつけ斜めに滑り出す車体——素早く旋回するように軌道を描き、狭い路ながらもヴェスパとの激突を避ける。


「よし、避けた!このまま突っ切る!」


「!!!」


「お姉さま!?どうなさいました!?」


 カリストーは横目でフィオリナをみる。

 その表情は、ただならぬ出来事が起こったことを告げている。


「あ・・・あ・・・!!」


 ──ガチャ、ガチャッ──


 それは間もなく、音としてカリストーにも告げられた。

 直ぐ真上から重量のあるもので鉄を叩くような、無機質な音——


「う、上……なにかいる!!」


(まさか!?)


(追い付き車体に取り付いただとっ!?)


 車体に張り付いた蝿の魔物。

 その不気味な蝿の顔が、前面の窓上方から顔を覗かせ、フィオリナと目が合っていた。


「いやああああああ!!!!」

(くっ……!この状態では僕の魔法はつかえない!速度を上げてなんとか振り落とす!!)



 ──



 一方、バーゼルスタイン邸側から出発した鉄馬の馬車。

 数人の戦士を乗せる重い馬車の車体は、意外にも見た目以上のスピードで運ばれている。


「ははは!いいじゃねえかレイスン!もっとスピード出していけよ!」

 すっかり酔っ払ったガンザンは上機嫌の様だった。一方でリーレットは尚も迷惑そうに彼とは距離をとっている。

「もっとですか!?やばいですってさすがに!!」


「ちょっとここ、路面が悪いんだからあまりスピードは……」


「あっ!」


 調子づいてスピードを上げた矢先、鉄馬に乗り操縦するリーレットは、衝撃で重要なものを落としてしまう。

 落ちたのは"白百合のランタン"。ヴェスパとの戦闘に欠かせない銀の焔を持ち運ぶ道具だった。


「しまった——!」

「おい何やってんだよ、しっかり固定しとけよ!」


「どうしよう・・・」

「——おい、前見ろよ!あれ!!」


 重要な道具を堕としてしまい、落胆している矢先、リーレットに向かいガンザンの声がかかる。


 その前には——見慣れぬ純白の乗り物が砂ぼこりを上げ、異様なスピードで接近してきていた。


「来た!!!」


 そして、それが一体何であるかの情報は、バーゼルスタイン・コンクエストの者たちの繋がりにより素早く共有されている。


「あの中に娘さんが!!?……ん?あれは」


 その車体、段々とシルエットを大きくする、それの前面には何やら異形の化け物がはりついている。


「──みろ!ヴェスパをくっつけてやがる!!」


 彼らは虫との戦闘が目的であるわけではない。レイスンは焦り、逃れようとする。

「おい逃げるぞ!!急いで方向転換を──」

「やっています!」

「待て、こんな狭いところで今更方向転換したら──」


 レイスンは焦り、酔いもあってかその判断と操作は適切とはいえなかった。馬車は狭い路のなか、愚かにも真横を向く形となってしまう。


「まずい!!こうなったら——!」

 レイスンは短剣を手にし、白百合のランタンとは別の道具を取り出す。

 彼が持っているのはオイルライターだ。そして間もなく火が灯る。


(銀の焔じゃなくっても!ヴェスパは半々の確率で火に弱い!!これで決める!火のスローイングダガーで!!)


 その火は短剣に染み込んだ油にのり、剣身に燃え広がった。

 レイスンは燃え上がる短剣を構え、それを前方の車体に張り付くヴェスパにむかって投げようと狙いを定める——



 ——



(くっ、視界が悪い!邪魔だ!!!こんなところで横を向けるな!!)

 カリストーの目の前には路の真ん中で無様にも側面をみえる馬車。

 前にはヴェスパが張り付き、速度も乗っている状態だ。


 "ガンッ!ガンッ!!"


 張り付くだけでなく、その手に力を込め、勢いよく叩く音。

 それは徐々にヒビをつけ、亀裂は段々と大きくなる——


(そしてこいつ!窓を割ろうとしている!!強化された窓ではあるが、このままでは!)


 ガッ!!


「なっ!!?」


 更に、火の灯った何かが車に投げつけられる。それはヴェスパには命中せず、飛び散った油と共に車体ののフロントに火が乗る形となってしまった。


 ヴェスパは次の一撃で窓を割ろうとする直前——そして、間もなくフィオリナにその虫の手がかかる。


(お姉様!蝿の魔物に指一本触れさせてなるものか!!)


「お姉さま!脱出します!!」

「!!?」


 カリストーは一気にハンドルを切る。

 車体はその前輪を軸にして、速度に乗ったまま一気に横に滑る。

 そして、その重量を勢いよく馬車に叩きつける形になった。


「うおおおお!!ぶつかる!!!」


“ッガアァッァアアアン──!!”


「ぐアあっっ!!」


 炎上する車体。そして衝撃により粉々に砕け散る馬車のキャビン。

 そこに乗り込んでいた者はギリギリで地面に飛び込むようにして、なんとか直撃は避けている。

 一方、カリストーはフィオリナの身を護る形で転がり、武器と共に間一髪で脱出していた。


「お姉さま!」

「だ・・・だいじょうぶ・・・」


「はぁ……はぁ……!!」

「や・・・やばいぞ・・・」


 そして、ヴェスパは健在であった。


「俺たちは」


 それも、どうやら"ラドロピクシー"一体ではない。


「囲まれちまっている!」


 多数の蝿の魔物が彼らを囲むようにして、カリストー達のもとへ確実に接近してきていた。

 その中には、特殊な武装をしている個体もどうやら混じっている。


「あれは……快天機械剣ゴルズナックさんの……!」


”ブィイイイイイイイイン!!“

 けたたましい音と共に鳴り響く特殊なブレード、ヒトが造り、鋼鉄をも切り裂くそれは今や蝿の手に渡っていた。

[AI非使用]

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