第41話. 束縛と自由
「レインくん、なにぼ~っとしてるの?ねえ!」
「えっと・・・」
ぼーっとしていた頭が、何故だか少しずつ覚め、俺はリリアの声で我に帰った。
俺とミツキ、そしてリリアがやってきた夕焼け空の訓練場。他には誰もいない。
覚えていることといえば、打ち合いをしていて、途中から夢のように記憶がぼんやりしている。
うっすら、あいつは急に弓を出したような気がしたけど…。その後どうしたんだっけ。
ミツキの方は・・なにやら考え込んでいる?
(ギリギリセーフ——!)
(どうやら、わたしの能力・・ギリギリあの子に見られてはいない)
(いつでもチャンスはあるし、わたしの能力はもっとあの子の“好意”を蓄積することで、より深く心体の主導権を占有することができる)
(今は銀の焔の使い手と戦う余計なリスクは避けて、“実行”するのはまた今度にしよう)
ミツキはリリアを見据え、高いトーンの声で告げる。
「リリアちゃんごめんねっ?つい訓練に身が入っちゃってさ、そろそろ終わりにするね」
「俺、もうあがるから…」
「・・・」
リリアは真顔だ、そして無言で近づいてくる。
(まだ怒っているのか…?)
彼女は途中で立ち止まり、俺とミツキが対峙していた様子を確認するように眺め始めた。
「・・・・・・へー」
この雰囲気・・どうやらこれは、
めちゃくちゃ怒っている──
「あのリリア、訓練してただけだから」
「ふーん」
リリアは、魔導士だ。いわば意思や感情、場の空気を読む力は俺より鋭いだろう。
俺は更に強くなるためにミツキに訓練を頼んだ。そのきっかけは純粋だったはずだ。
なのに、ミツキと話していると、どうも気持ちを乱されているような妙な気分になってしまう自分はいる…というのは否めなかった。でも何故だか俺はあいつに悪い気はしていない。リリアにはそれを感じ取られている。
優れた魔導士に、嘘は通用しない。…言い訳も。
「・・・じーー」
——なんだこの空気。瘴気か?
ほっとけば感情の嵐は過ぎ去って、それから説明しようという考えは甘かった。心の天気は雷雨へと変わる…
今ミツキにとどめを刺されたら、俺は終わる。こんなつもりではなかったが、戦闘とは別な世界での生殺与奪の権利を握られてしまっている。
「リリアちゃん、レインくんは真剣に訓練してたよ?可愛いからわたしがちょっぴりからかっちゃったけど。ごめんね、もうしないからさ」
「あ゛〜〜〜〜?ちょっぴり〜…?なにいってんのかなミツキちゃん!あ゛〜ん?」
怒りのターゲットが俺からミツキへと移る。
ていうかリリア、きみそんなキャラだっけ?なんか、ゴロツキ…⚪︎ンピラみたいな目つきと口調を…、これはひょっとして俺のせいなのか。俺は…自身の日頃の態度が教育に悪いのかもしれないという事を彼女の言動から察知した。
「リリアちゃん、レインくんはね——」
「あなたを守るために『もっと強くなる』って、そう誓ってここにいるんだよ」
「!」
「・・・ほんと?」
俺とミツキは深く頷く。
途中余計な言動はあったが、きっかけ自体は本当だ。
「本当だよ。レイン君はあなたのことを心配しているの。あなたが怖い魔物に拐われたりしないように、いざという時に守れるくらいに強くなるんだって。あなたなら、彼から感じ取って、わかるでしょ?その気持ち、"願い"が」
「・・・」
「そうなんだ」
「ごめんね、私もあなたの事を疑いすぎたかも」
リリアの表情が和らいだ。
「でもからかうのはやめてほしーんだけど」
ジロリ、とにらむリリア。
「はいはい」
ミツキはにこやかに、優しく微笑む。
そして俺はリリアに何処かへと連行される。・・怒りのマナを足場にした“憤怒の意思”の力をぶつけられるのは、覚悟しよう。
強制連行される途中、リリアが口を開く。
「レインくん」
「ん?」
「・・・その、怪我とか、してたりしない?」
「ああ、大丈夫」
ここでは武器が魔法道具でロックされている限り、転んだりぶつかったりしなければ傷つくことはない。その事はリリアも知っているはずだけど、彼女なりになにか理由を探して俺を気遣おうとしてくれている。
「勝手にいなくなっちゃって、ごめんね」
「いいんだ。俺も、ちゃんと説明しとけば良かったよ」
「あんまり無理しないでね・・。私、最近魔法の威力がグンと上がって褒められたの。レインくんがいてくれるなら、それで平気だから」
「・・・ああ、それは嬉しいよ。よかったな、リリア」
てっきり束縛と監視が入る宣言がなされるのかと思った。そうなっても、おかしくはなかった。
俺も俺で、相手を疑っていたことに気付かされる。どうやら、彼女は成長しようとしてくれている。
ともあれ、ミツキには助けられた。最初はリリアをいじめるふざけたやつかと思ってたけど、良いところもちゃんとある。あいつの事も誤解してた事を反省しなきゃな。
——
職員室——
(帰りたい・・)
書類の山もようやく片付いてきた、と思った途端、次の書類がやってくる。
向き合う前に、僕はメガネを置いてしばらく突っ伏していた。
辺りにはコーヒーの香りが漂う。
"リベルタ"と名付けたオリジナルのブレンド。
香ばしく、芳醇で気品のある薫りは、ここに拘束されている僕を、どこか遠くへと連れて行ってくれる。
今はハエの魔物のせいで旅行など気軽にできたものではないが、気分だけでも開放することは重要だ。
ここにいれば、自由の意思には困らない。
(あの、フィルナス先生最近やばくないですか?周りの空気が・・瘴気みたい・・)
(あのコーヒー、やばいものでも入っているんじゃないのか?ちょっと調べてみて来いよ)
(いやですよ、先生が聞いてきてくださいよ)
(やかましい——!)
"♪~~"
「・・・!」
着信音、アネット先輩だ。
「フィルナス!あなたなにやったの?」
「なんですか?」
「リリアが、見違えたように出力が上がってるの。まだたまにムラはあるんだけど、お手柄よ」
「よかったですね・・。僕は大したことはしていませんよ」
アネット先輩とのやり取りを交わす、どうやら戦況の方も順調のようだ。
「それじゃ、引き続きよろしくね!」
「・・・」
上手くいっているように、思える。
しかし、何か重要なことを見逃しているような気がする。
僕はこの件に関しては、正直いって直接介入はあまりしたくない。
だけど、子供としての在り方を超えてしまうようなことがあればきっちり指導はしなくては。といっても、わざわざ自分から出て行って覗き見るような真似は絶対に御免被る。
だから、探らせてもらおう。
ボクの風の魔法で——
[AI非使用]
AI非使用




