第40話. 男の子ってこういうのが好きなんでしょ?
"勇者の血筋"——
通常、願いのチカラに基づく"意思の力"は魔法や王家の力を使用するために用いられる。
しかしこの世界、アストリアで繰り広げられた戦争や、魔物討伐の歴史の中では、剣技や射撃などの戦闘スキルを使用した際に通常では説明がつかないような結果をもたらした記録が存在する。
そして、つい駆け出しだったはずの兵士や冒険者が、短期間で異常な速さの成長を遂げ、武勲を重ねた例も同時に報告されていた。
どう考えても覆りようがないような強大な魔物とのレベル差を埋め、戦況を覆す、”歴史を塗り替えてしまうような一撃"。
そして、戦いを重ねるたびに、自身が思い描く願いを現実に映し出すかのように目覚ましく自己進化を遂げる、並外れた"成長性"。
それは途方もない"意志の力"によってなされるという仮説があり、実際にそれによりアストリアは数々の戦乱を鎮めることに成功している。
そして、遂には不可能とまで言われた、隣国や遠方の人々との調和を美しく保つまでにアストリアは"至った"。
そのような一撃、意志の力を魔法ではなく自らの"武器"に込め、放つことができる者…。経験で以て、思い描く意思により誰もが追いつけない高みへと達し、争いを制する力となり新たなる歴史へと世を導くことができる者…。
——その者たちは、"勇者"と呼ばれる——
ミツキはここ数日、禁書庫も含めた図書館に入り浸ることで、その概要を知っていた。
どうしてここにいるのかは不明だが、一連のやりとりで、レインは"勇者の血筋"をもった子供だと、彼女は確信した。
「ミツキ、ごめん・・」
「うん」
彼女は静かに立ち尽くし、レインを見据える。
傍からみれば学校に通う子供に過ぎないが、その内には絶大な潜在能力を秘めている。
そしてその意思、その剣は、やがて"ヴェスパ"にも届きうる——
(これはもう、決定かな)
(これ以上成長されると、危ないし)
(完全に目覚める前に、"わたし達"のものにしてしまおう)
「・・・えっと、大丈夫?やりすぎたかな」
「ううん」
俯き硬直するミツキを心配そうにレインは覗き見る。
「?」
「わっ☆」
「ちょっ!?おいやめろふざけんな!魔物じゃあるまいし」
突然両手を広げ、笑いながらレインにつかみかかる真似をするミツキ。
彼は反射的にそれを避ける。
「お前も~まじめにやれよ」
「レインくん、やっぱり、戦う方がいいの?」
「そのために来たんだってば。遊ぶのは世界が救われてからでいいよ」
「その前にしんじゃったら、元も子もないのにねぇ。ま、いいや」
彼女はそう告げると、再び静まり返る。
(?・・・ミツキの雰囲気が変わった)
「いいもの、見せてあげよっか?」
「・・・?」
「男の子って、こういうのが好きなんでしょ?」
“アトラデネブ”──!
彼女が片手を掲げると、光を放ち、その手に一握りの結晶が現れる。
それは、紫色に輝く宝石の結晶のような、彼女の瞳のような結晶だった。
「魔法…なのか?」
「うーん、ちょっと違うかもだけど、似たようなものかな?すごいのはここから!」
(・・・!)
その結晶の塊は光と共に展開し、鋭く尖った武器の姿へと形状を変える。
「武器!?」
「そ、この子は"アトラデネブ"っていうの。みててね~」
はじめは一振りの短剣の様だったが、次々と形を変え、様々な武器へと姿を変えてゆく——
(お・・・槍、ハンマーに、両手剣!)
(変形し、戦局に応じて種類を変えられる武器…!)
(嫌いなはずがない・・・やばい、メチャクチャかっこいい・・・!)
レインは目を奪われている。自身の"アルタイルエッジ"と名付けたショートソード以外はまず手にはしない彼だったが、未知の武器に興味がないわけではなかった。
「・・・欲しい?これ」
「い…いいなって思うけど、それはミツキのだからな。ていうか、剣こないだはじめて持ったって言ってたよな?」
「ホンモノは持つ必要はないからね~」
(あっそ、トンチかよ!)
「…これの使い方、教えてあげてもいーんだぞー?」
「いやムリだろ!俺そんな魔法得意じゃないし…」
「すぐ諦めるのはレインくんらしくないな〜?」
「いいんだよ、それはミツキの力なんだから。お前だけのものだ」
「我慢してるでしょ?」
「してね~~よ!でも、これから毎日お前と打ち合いはしたい。…もっと、強くなるために」
「今のリリアちゃんに言っちゃおっと」
「お・・・おい、それは・・・」
(こいつ・・・・本当にいい性格してるな!)
「私に勝ったら、やめてあげよっかな。さあどれがいい?」
ミツキはレインにその紫の結晶からなる武器を示し、レインに選ばせるべく、催促した。
(ヴェスパの攻撃にはリーチがある、スピードも。それを搔い潜らなければ勝機はない)
「…ランス」
「おっけ~、じゃ、私に指一本でも触れられたら、レイン君の勝ちってことで!」
(リーチのある武器選んでからルールを決めてくるのはずるい!!が、四の五の言ってられん。敵はフェアじゃない!)
ミツキの紫に輝く結晶、"アトラデネブ"が形を変え、長い槍の形状となる。
そして、振りかざし構える。レイピアと同じように、それは彼女の体の一部であるかのように馴染み、巧みに槍を振り回してみせる。
(雰囲気が変わった…さっきのも、こいつ本気を出していなかったな?)
「ソッコーで終わらせる!!」
レインは一気に踏み込む。迫る槍を払い、即座に懐に入り終わらせる勢いだ。
「わ~元気だね~」
が、真っすぐ突っ込んでくる相手こそ槍の餌食に他ならない。払おうとするのも彼女には見え透いていた。
彼女がほんの少し間合いをとるだけで、レインにはその距離がはるか遠くに感ぜられた。
(ミツキがめちゃくちゃ遠くに感じる・・!)
「どうしたのかな?ほらこっち」
圧倒的なリーチに機動力。レインの剣はその槍により舞うように華麗に捌かれる。
(これもまた、洗練されている・・。正統派の、合理的な理想的な型・・・)
(綺麗で・・・また俺は、この槍の技術を美しいと思ってしまっている)
(なんだこれ、ココロを奪われるような感覚——?)
(そろそろ・・・かな?)
ミツキは一気に間合いをとると、"アトラ・デネブ"を槍の姿から、紫色に輝く一対の翼のようなフォルム、"弓"の形状と変形させる。
そして——
(束縛開始——!)
"束縛せし紫水晶の鎖"——!
ミツキが有する能力、それは標的の"好意"を蓄積することで条件が整い、彼女の任意のタイミングで相手は一時的に自由を封じられる。
そして、形を変える固有の武器、"アトラ・デネブ"による攻撃が命中することで完全に発動——好意に比例して相手の心体の主導権を握り、コントロールすることができる。それは"束縛の意思"による"王家の血筋の能力"だった。
(なんだ・・、弓・・・?ミツキが槍じゃなく弓を俺に向けている・・・)
(当たるとまずい気がする。でも、なんだかぼーっとするし、カラダが言うことを聞かない・・)
(わたしの、"ペット"になっちゃえ——!)
(・・・む)
(・・・!)
ミツキが結晶の弓を振り絞り、放とうとする直前、彼女は攻撃の手を止め、アトラデネブを仕舞う。
同時にレインの拘束も解除された。傍からみれば、訓練場で対峙しているだけの状態だ。
「レイン君まだやってたの?もう帰ろうよ」
リリアだ。彼女が入り込んできている。その手にはヴェスパに対する唯一の特攻”銀の焔"を放つ杖を持っていた。
AI非使用




