第4話 ―死に損ない狂騒曲― ⑯
【魔道探偵ナツメ事務所 2階 応接室】
自分の世界に浸りきっていたアルバロが、弾かれたように声を上げた。
「そうか、【移魂転魄】だ。師ほどの術者なら、実現できても不思議はない!」
「はぁ? 【遺恨勃発】だ? プロレスネタは紙面だけにしてくれよ!」
諸々の都合により、ナツメのボケは路傍の石ころのように黙殺された。
「【移魂転魄】の魔道です。リオネル師は、自らの魂を魔道具へ移すことに成功していたのかもしれない。その形代が【封印】の魔道に侵されたとしたら……」
アルバロは再び【感知】の魔道を発動し、今度はリオネルが身に着けている装飾品をチェックし始めた。
するとどうだろうか、指先がリオネルの胸にかけられたロザリオに触れた瞬間、【感知】の光は毒々しい赤色へと変化したのである。
「見つけたぞ……こいつだ!」
抑えきれない興奮が、アルバロの声に滲む。無理もない。死霊術を志す者にとって、【移魂転魄】は一つの到達点であったのだから。
「おそらくは、このロザリオにリオネル師の魂が納められているのでしょう。そこに【封印】の魔道が絡みついたことで、記憶が阻害されていたんです」
「じゃあ、その【封印】が解ければリオネルさんの記憶は戻るってことだね?」
ナツメの問いかけに、アルバロは「おそらく」と短く答えた。
「やるじゃ~ん、アルバロ先生! じゃあ、さっそく【封印】を解いてよ」
しかし、アルバロは難しい顔をして黙り込んでしまう。
「……どうしたのさ。もしかして、簡単な話じゃないの?」
「そりゃあそうさ、考えてもごらんよ」とユースケが口を挟む。
「【封印】は、魔道具の力を封じ込めるための魔道なんだから、そんなにホイホイ解けたら意味がないじゃない。解除するには、術者の定めた【魔鍵】が必要になるんだ」
ここまで比較的おとなしくしていた名探偵の助手は、リオネルの首にかかったロザリオをひょいと摘まみあげた。
「あるいは【解呪】の魔道とかでムリヤリ引き剥がすこともできるらしいけど、今回はお薦めできないなあ。最悪、魂が器ごと消し飛んでしまう可能性がある」
「それじゃあ何か? 結局、リオネルさんを魔道士組合に連れて行って、そこで解除してもらうしかないってこと?」
「常識的に考えたらそうなるね。でも、僕たちは常識外だからさ――」
ユースケはそんな洒落臭いセリフを吐くと、まるでこびりついた汚れをそぎ落とすように、丹念に、丁寧に、リオネルのロザリオを指で拭った。
「これでどうだろう。アルバロさん、もう一度【感知】の魔道をお願いします」
「ん? やれと言われればやってみますがね……」
ほんの数秒後、アルバロの瞳の色は、疑念から尊敬へと塗り替えられることになる。ロザリオに複雑に絡みついていた【封印】の魔道が、影も形も無く消え失せていたからだ。
同時に、まるで能面のようだった老人の顔にも変化が現れた。
それは、泣いたような笑ったような、何とも形容しがたい表情であった。




