表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第4話 ―死に損ない狂騒曲―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/103

第4話  ―死に損ない狂騒曲― ⑭

【魔道探偵ナツメ事務所 2階 応接室】


「やはり間違いありませんぜ。噂に違わぬ風貌、何より左頬の傷跡――」


 結局、ナツメ事務所まで引っ張り出されたアルバロ記者。彼は、匿われていたゴンベ氏の顔を一目見るなり、興奮を抑えきれずにまくし立てた。


「これは暴走したナマケモノゾンビに()()()()()()()痕で、リオネル師のトレードマークとも言えるものです。慢心を戒めるため、あえて残しているのだとか」


「リオ……ネル……? それが、私の名前なのですか?」


 名無しのゴンベ氏――

 今や【北大陸の魔人】リオネル=ロスであることが “ほぼ確定” した老人は、焦点の定まらぬ瞳のままで呟いた。


「そうです。貴方の名前はリオネル=ロス、高名な魔道士だった。私は、貴方の論文を隅から隅まで読みましたよ。まさか、こんな所でお会いできるとは!」


 今にも抱きつかんばかりの勢いで身を乗り出すアルバロ。その襟をナツメがぐいと引き戻した。


「今のあんたは、あくまで新聞記者なんだからね。いいかげんケジメをつけなよ」

「……っと、これは面目ない。憧れの人が目の前に突然現れたもので、つい」


 元・死霊術士の熱量とは対照的に、リオネルの反応は乏しかった。緩慢に頷いたきりで、続く声もない。


(このままじゃ、らちが明かねえ……)


 そう判断したナツメは、慎重に言葉を選びながらも、リオネルの過去の所業や、ルマルノ村での事件について詳しく語り聞かせた。

 すると、どうしたことか――


「私は、なんと恐ろしいことを……ああ、涙すら流せぬこの身がもどかしい……

神よ、偉大なる上帝陛下よ、どうか我に罰を与えたまえ……」


 【北大陸の魔人】は深く項垂れたまま、祈りを捧げ始めたではないか。

 その姿があまりに真摯だったので、居合わせた誰もが言葉を失ってしまった。



                § § §


 しばらくして、祈りを捧げ終えたリオネルが、静かに顔を上げた。


「皆様、これまでありがとうございました。私は、然るべき場所へ赴き、自ら罪を償おうと思います。このままでは、とても耐えられそうもない……」


 老人はひとり勝手に宣言すると、おぼつかない足取りで部屋を出ようとする。


 ――それを押しとどめたのはユースケだった。


「も、もう少しだけ待ってください! ここであなたを行かせてしまったら、何だか……すごく後悔するような気がするんです!」


 己が罪に怯える老人を、半ば強引にソファーに押し込むと、


「ナツメさんたちが出ている間、リオネルさんといろいろ話していたんだけど、どうにも悪い人には思えないんだ。さっき聞いた【北大陸の魔人】のエピソードが事実だとすると、『二重人格か?』ってくらい違和感があるんだよ」


 アルバロが大きく頷いて「私もユースケさんと同意見だ」と声を合わせる。


「一月分の給料を賭けたっていい。あのリオネル師の辞書に『罪を償う』なんて殊勝な言葉が載っているはずはありませんぜ。……となると、師にいったい何が起きたのか? ジャーナリストとしても、元同業者としても、非常に興味がありますな」


 途端ナツメが、チェシャ猫のような笑顔を浮かべた。


「で、有識者のアルバロ先生。この人がどうして記憶喪失なのか、見当ついた?」

「うーん、ここに来る途中、ずっと考えていたんですが……あと、その有識者って呼び方、いいかげん勘弁してくれませんかね」


 アルバロは照れくさそうに頭を掻いて、自らの推論を披露する。


「リオネル師は、ルマルノ村で魔道士組合の追手――いわゆる『魔道警察』を一度は撃退しています。新大陸の魔道警察は精鋭揃いですからね。彼らの攻撃を今の状態の師がしのぎ切れるとは到底思えない。つまり、記憶を失ったのは『それより後』ってことになります」 


「となると……魔道的ダメージが原因で思考能力を失った、という線が自然なんじゃないかなあ」


 魔道オタクの血が騒ぐ。ユースケは瞳を閉じ、頭をコンコンと指で叩きながら、


「魔道警察が得意とする【魔縄束縛】【封印】【暗愚化】【沈黙】……そういった魔道が残留して、悪さをしているのかもしれない」


 アルバロは「ふむ」と一声応じると、リオネルの元に歩み寄った。


「【魔縄束縛】はあくまで動きを封じるものですし、ヴィジョンがはっきりとしている。今のリオネル師の体にそいつが見えない以上、除外してよいでしょう。【沈黙】は空間に作用する魔道だから、その場から離れてしまえば効果を発揮することはありません。よって、これも除外できる。さて、【暗愚化】ならば今回の症状にドンピシャなんだが……」


 短い詠唱。

 次の瞬間、アルバロの掌が青白い光に包まれた。

 【感知】の魔道である。


「師よ、少しだけ失礼いたします」


 断りをいれてから、アルバロは老人の頭部にそっと手をかざした。悪性の魔道が残留していれば、光は赤い警戒色に変わるはずであるが――


「……変化なし。どうやら【暗愚化】でもないらしい」


 アルバロは大きく息をつくと、ユースケを振り返った。


「残るは【封印】でしたか。あれは魔道具を対象にするのが基本ですから、今回の件には関係ない……。いや、待てよ……確か、どこかで……」


 突如、何やら考え込んでしまったアルバロ。


「おーい、どうした?」とナツメが尋ねても、

「少しだけ、少しだけ時間をください」とだけ。


 すっかり自分の世界に没入してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ