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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第4話 ―死に損ない狂騒曲―

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第4話  ―死に損ない狂騒曲― ⑬

【 『デイリー市民』編集部 会議室 】


「貴方が保護している老人は、リオネル=ロスでまず間違いないでしょう。

【北大陸の魔人】と称された、凄腕の死霊術士ですよ」


 事のあらましを聞き終えた新聞記者は、しばし沈思の後、そう断言した。


「はは、そりゃまた大層な肩書だねえ。……で、そんな有名人が、どうしてウチの事務所の前で “頭がお花畑” になっていたのさ」


 ナツメの至極もっともな疑問に、アルバロは「これは、魔道士組合にいる友人から仕入れた情報なのですがね」と前置きしてから、


「リオネル=ロスは、北大陸の戦乱の影に潜んで死霊術の実践を重ねてきました。その歳月は百年に及ぶとも言われ、犠牲者の数は計り知れません。ですが近年、戦争が終結して治安が急激に回復したでしょう。結果、これまでの彼の所業がだんだんと明るみに出てきたのです。さすがの【北大陸の魔人】も、国家権力と魔道士組合の双方から指名手配されてはどうしようもない。かくして逃亡先に選んだのが、未だ混沌の止まぬこの新大陸だった――というわけですな」


「そんな悪い人には、とても見えなかったのに……」と、うなだれるアイラス。

 凶悪な犯罪者を事務所に招き入れてしまった責任を感じているのだろう。

「あたしにも、演技をしているようには思えなかったよ」

 ナツメが庇うように言った。


「その点が、どうにも奇妙に感じるのですよ」


 アルバロは言葉を切ると、ポケットから煙草を取り出し、【発火】の魔道で火を付けた。


「……失礼。煙が足りないと、どうにも舌の回りが悪くなってしまうものでね。

さて、リオネル師は貨物船の荷物に紛れ、新大陸へ密航しました。なんでも、面識のあった貿易商を脅して手続きをさせたらしいのですが、その彼が隙を見て、潜伏先を魔道士組合に知らせたのだとか」


 細く吐き出された紫煙が、会議室の空気にゆっくりと溶けていく。

    

「通報を受けた魔道士組合は、ルマルノ村のアジトに急襲を仕掛けました。追い詰められたリオネル師は、あろうことか大規模な【魔力吸収】を発動。巻き添えを食った村は阿鼻叫喚の地獄と化し、その混乱に乗じて彼は行方をくらませたのです」


「……ところで、その貿易商の方はご無事だったのでしょうか?」


 アイラスが、不安げな表情で尋ねた。


「彼はカミさんを人質にされたらしくてね、気の毒なことに夫婦共々、新大陸まで強制的に同行させられたって聞きましたよ。確か――」


 アルバロは取材メモを指でなぞり、頷く。


「ルマルノ村で【魔力吸収】に巻き込まれ、現在は入院中とのことです。どうかご安心を、命に別状は無いそうですから」


 安堵するアイラスとは対照的に、ナツメの顔色は晴れない。


「なるほど、リオネルが『どうしてここに居るか』ということはわかった。ただ、肝心の『記憶が曖昧な理由』がわからないままなんだよなあ……」


 お猫様(ミーシャ)の宣託では、そこが重要な点だったはず。

 珍しく頭を悩ませる武闘派探偵に、アイラスがそっと提案した。


「記事には、死霊術にくわしい『とある有識者』のご意見が載っていたような……

その先生に聞いてみるというのはどうでしょう?」


「なるほど、そりゃ名案」と膝を叩いて、ナツメはアルバロに向き直る。

「で、そいつに紹介状でも書いてもらえるかい?」


 すると青年記者は、「困りましたな……」と言ったきり黙り込んでしまった。


「ありゃりゃ、気難しいセンセーなの? それとも相談料が高いとか?」


 ナツメが首を傾げると、アルバロは心なしか声を潜めて、一言。


「あの『有識者のコメント』は、あくまで私の見立てでして」

「はあ!? デタラメだったってことかい!」


 非難がましい視線に射抜かれたアルバロは、

「いや、まったくのデタラメということではないんですがねぇ」

 と歯切れの悪い返事をするが、やがて観念したように――


「実は私、いささか死霊術の心得があるのですよ」


 と、まさかの事実を告白したではないか。

 その爆弾は、ナツメ事務所の二人を絶句させるに十分な火薬量だった。


「え、ええと……この新大陸でも、死霊術は禁忌ですよね?」


 アイラスが眉をひそめて尋ねると、アルバロは慌てて手を振った。


「いやいやいや、今はもう研究などしていませんとも!」

「 “研究” ねえ……。結構ガチの魔道士だったんだ、あんた……」


 ナツメは、目の前のゴシップ記者のヨレヨレのシャツに目をやると、思わずため息をついた。その意図を察したアルバロは、寂しげな微笑を浮かべる。


「当時、なかなか結果を出せずに焦っていたんです。歳をとれば肉体が衰えて、気力も失われる。それは自然の摂理ですが、ついつい不老不死というものに心惹かれてしまった」


 自称・元死霊術士の目には、遠い過去が映っているようだった。


「もちろん、代償は大きかった。組合に禁書を集めていることがバレてしまいましてね。幸い、コツコツと積み上げた魔道階梯まどうしのめんきょを剥奪される程度で済みましたが、魔道士としては廃業せざるを得なかった。――もう、五十年も前の話です」


「五十年も前って……嘘でしょう? 今、いったい何歳おいくつなのですか!?」


 とても信じられないと言った様子の少女に、若作りの記者は「五十年は言い過ぎだったかな」と()()()()みせると、


「さらには『死霊術に関わった邪悪な存在』ということで、神聖教会からも目の敵にされましてね、北大陸で生きていくことが難しくなってしまいました。そうしてこの新大陸に流れ着き、ゴシップ記事なんぞを書いて糊口をしのいでいるってわけです」


 いつの間にか短くなった煙草が、灰皿に押し付けられた。

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