第4話 ―死に損ない狂騒曲― ⑩
(ああっ、ナツメ所長!? それはさすがに気前が良すぎるのでは!?)
いきなり手札を全開にするナツメに、アイラスは開いた口がふさがらない。
敏腕記者もまた、驚きを隠せないようだった。
「なるほど、あれが『彼岸の王』の仕業とくれば納得ですな……いや、ちょっと待ってくださいよ。つまり貴方は『あの事件の犯人をすでに捕らえている』という認識でよろしいので!?」
――かつて、ユースケが言っていたことがある。
「ナツメさんは、交渉術をどこかで学んだってわけではないのだけど、呼吸と言うか、間合と言うか――場を支配する天性の才能を持っているんだよね」
ナツメはすっと席を立つと、動揺するアルバロのすぐ後ろまで歩み寄り、その耳元で囁いたのである。
「ね、ちょいと興味深い話だろう? ここはひとつ、共同戦線ってのはどうだい」
至近距離でナツメの顔を見上げる格好になったアルバロは、思わず息を呑んだ。
「……あ、それは、貴方から聞いた話を記事にしても構わないということで?」
「ああ、好きに使っていいよ」
駆け寄ってきたアイラスが、慌ててナツメの袖を引く。
「あの、あの、よろしいのですか!? ナツメ事務所のモットーは『秘密を守ること巌のごとし』だったはずでは!?」
「いいんじゃね? あの爺さん『自分のことを秘密にしてくれ』とはひとことも言ってなかったし――」
そこまで言うと、ナツメはいたずらな笑みを覗かせて、
「なによりこの国の人間で『東●ポ』――じゃなかった、『デイリー市民』の記事を鵜呑みにするやつなんて、まずいないから」
「所長!? ご本人を前にして、それはあんまりです!」
不遜極まる上司を必死に諫めるアイラス。
しかし当のナツメときたら「んなこたぁないって!」と大爆笑。
「書いている本人が一番トンチキだってわかってるはずだよ。ねえ、そうでしょ?」
話を振られたアルバロは、困ったように顎髭を撫でた。
「私個人としては、真実を報道しているつもりなんだが……まあ、紙面全体でみれば、そう言われてしまうのもやむなし、という気もしますな」
記者本人があっさりと認めてしまったものだから、ナツメはますます勝ち誇った顔でアイラスを見やる。
「わたし、世の中のおとなの人たちは、もっとまじめに仕事に取り組んでいるものだとばかり思っていました……」
世間の不条理を認めたくない少女の口から、悲しい声が漏れた。
するとナツメは大げさに手を振って、
「オトナになっても、人間の本質なんてものは絶対に変わらないからさ。そんなにマジメだと、社会に出てから苦労するよ~。うふふ、いい勉強になったじゃない。
あは、あはははは!」
いつまでも続く笑い声に、とうとう頬を膨らませたアイラス。
「もう! 知りません! そんなことより、早く事件の話を進めませんか。ゴンベ様がお腹をすかせたら、大変なことになるのでしょう?」
「……おっと、そうだったそうだった」
魔道探偵は、ようやく真剣な表情を取り戻した。




