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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第4話 ―死に損ない狂騒曲―

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第4話  ―死に損ない狂騒曲― ⑪

【貿易商エリックの回想 その3】


 かくして私は、死霊術士リオネル=ロスを新大陸に送り届けるため、望まぬ汗を流すことになった。


 計画を進めるに当たって最大の障害となったのは、リオネルが【北大陸の魔人】と呼ばれる凶悪な犯罪者であり、さらには魔道士組合からもお尋ね者として追われているという事実であった。

 この状況で正規の客船を利用するのは、現実的とは言えない。かつて神聖帝国の出入国管理局は「旅券と書いて賄賂と読む」と言われるほどに腐敗していたが、現皇帝イノエの統治下で徹底的な改革が行われ、審査は厳格を極めている。


 そこで私は、リオネルを棺桶に納め、貨物に紛れ込ませて運ぶことにした(もちろんリオネルも、そういった手段を想定して私を選んだのだろう)。かなり奇妙な荷物ではあるが、仕事馴染みの船長がいるのでその点は問題なかった。


 その間、リオネルは自らの屋敷に籠りきりであった。これでは、隙をみてオリビアを助け出すことなどできそうもない。さらに私は、リオネルの使役する使い魔に四六時中(それこそトイレの中でさえ)監視されていたから、警察や魔道士組合に駆け込むこともできなかった。


 ともあれ、すべての段取りを終えた私は、オリビアを解放するよう訴えた。

 しかしリオネルは、仮死状態のオリビアを自分と同じ手段で新大陸まで送るよう、重ねて命じてきたのである。


「向こうに無事ついた時点で解放する。『履行保証』とはそういうものだろう」


 どれだけ言葉を尽くしても、リオネルは冷淡に同じ回答を繰り返すばかり。

 不穏な考えが頭をよぎる――新大陸に渡ってしまえば、私もオリビアも用無しになる。その時、邪悪な死霊術士は我々を生かしておくだろうか――と。


 もう一刻の猶予もない。私は乾坤一擲の大勝負に出ることにした。


  

               § § §



 オリビアを納める棺桶を選ぶに当たっては、我ながら奇妙な話ではあるが、とにかく「入り心地」にこだわった。【自分でも何度か入ってみて】背中が痛まぬように、圧迫感がないように様々な工夫を試みた。

 

 そうした奇行を使い魔から耳にしたのだろう。リオネルは呆れたように言った。


「オリビアは新大陸に到着するまで、呼吸も食事もせず、痛みも感じない。だから、つまらぬことに拘るな」


 それでも私は、「愛する妻のため」として決して譲らなかった。


 こうして完成した二つの棺にオリビアとリオネルを納め、表向きはインテリアとして貨物船に積み込むと、私は客員として同じ船に乗りこんだ。船長には事前に、


「新東京で直接買い入れたい商品があるので、ついでに乗せて行ってはくれないか」


 と交渉し、了承を得ている。


 ――ここまで、不自然な点はなかったはずだ。


  

                § § §



 航海の期間はおよそ二か月。平時であれば、心躍る船旅だったかもしれない。

 だが、不気味な使い魔に絶えず見張られていては、気分も憂鬱であった。


 何はともあれ、我々を乗せた貨物船は、無事に新東京港へ到着した。


 船を降りる際、無理なお願いを聞き入れてくれた船長に対しては、【彼が驚くほどの大金】を心付けとして渡しておいた。


 リオネルによれば、新東京近郊のルマルノという村に、彼がかつて使っていた「工房アトリエ」があるらしい。

 重い荷物を二つも抱えているため、移動するには馬車が必要になる。私は運送業者を手配するつもりであったが、リオネルが、


「おしゃべりな馬丁の口から『棺桶を運ぶ不審な男がいた』などという噂が立てば、魔道士組合に目をつけられる可能性がある」


 と主張したため、急遽、新東京で自前の馬車を調達することになった。

 しかし、何分不慣れな土地である。【交渉には結構な時間がかかってしまった】。


  

                § § §



 ようやく手に入れた馬車に棺桶を載せ、ルマルノ村に到着。

 リオネルとの打ち合わせどおり、「オーエン家の使用人」を名乗ると、建物の管理をしていた男は疑いもせず、丁重にもてなしてくれた。


 部屋の中に棺を運び込むやいなや、リオネルは自ら蓋を押し上げ、這い出てくる。


「御苦労。貴公の協力に感謝する。……少々手際は悪かったようだがな」


 皮肉めいた言葉とは裏腹に、機嫌は悪くなさそうだった。その顔色を窺いながら、オリビアを蘇生させてくれるよう改めて頼むと、リオネルは、


「焦るな。そのためには、地下にある魔道機を再稼働させなくてはならない。もう少しだけ働いてもらうぞ」


 と、またしても約束を先延ばしにする。

 もっとも、これは一概に不幸とは言い切れない。リオネルが雑用係を必要とする間は、私も妻も処分されることはないのだから。

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