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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第4話 ―死に損ない狂騒曲―

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第4話  ―死に損ない狂騒曲― ⑨

【 『デイリー市民』編集部 アルバロ記者の個人ブース内 】


「これはこれは、お初にお目にかかります」


 椅子から立ち上がって一礼したのは、丸眼鏡をかけ、顎髭あごひげを蓄えた細身の青年であった。

 彼は手慣れた仕草で胸ポケットから名刺を取り出すと、ナツメとアイラスに差し出した。


「『早耳親父』ことアルバロ・エスカランテ・オルドニスと申します。どうか気楽に、アルバロとだけお呼びください」


「その……ずいぶんお若いんですね。もっと、こう、年配の方かと思っていました」


 ペンネームの語感から「恰幅のいい中年男性記者」を想像していたアイラスは、あっけにとられ、ついつい正直な感想を口にしてしまう。

 するとアルバロは、おどけたように肩をすくめて言うのだった。


「ご覧のとおり、私は瘦せっぽっちの若造ですからね、どうにもナメられやすい。

だからペンネームではサバを読んで、押し出し良く見せているのですよ」



               § § §



【 『デイリー市民』編集部 会議室 】


「立ち話もなんですから」

 そう促され、会議室に案内されたナツメとアイラス。

 程なくして、三人分のコーヒーを手にしたアルバロが部屋に戻ってきた。


「それにしても――」


 ナツメから受け取った名刺と、ナツメ本人の顔を見比べながら、記者は言った。


「貴方が『魔道探偵ナツメ事務所』のナツメ・カナワ所長ですか。御活躍の噂は、かねがね耳にしておりますよ」


「……これって嫌味かなあ?」


 閑古鳥に一方的な愛情を寄せられている探偵所長ナツメが、隣の会計担当アイラスに毒を吐く。


「嫌味ではなく、ただのお世辞だと思いますよ」


 少女のあまりに素直な返事に、アルバロは苦笑を隠せない。


「ははは、謙遜なさらなくても結構。先日起きたバンクス・グループの内紛――その発端となった『クレストヒル館事件』を解決なさったのは、貴方でしょう?」


「……守秘義務があるから、ノーコメントで」


 ナツメは興味なさげに、コーヒーを啜った。


「ふむ、否定はされないのですね。なるほど、なるほど……その前には、港湾地区を仕切る『蓮波会』にきついお仕置きをなさったそうで。どのような “交渉” をされたかは存じませんが、あの武闘派で鳴る会長が震え上がっていたと聞きますよ。いやはや、恐ろしいですなあ」


 にこやかな表情を決して崩さないが、「早耳親父」の眼光はあくまで鋭い。


「……そう言えば、新東京を揺るがしたグアン兄弟社と魔道士組合の武力衝突事件。あの中心にいたのはナツメ所長、貴方だったのではありませんか?」


 インタビューは、いつしか冗談では済まない領域まで踏み込んでいた。

 ナツメが、アルバロの視線をまっすぐ受け止める。


「評価してくれるのは嬉しいけど、買い被りが過ぎるよ」

 

 するとアルバロは姿勢を正し、真剣な口調で言うのであった。


「……私はね、貴方が関わったであろう事件を何度も記事にしようとしたんだ。

ところが、そのたびに上から “待った” が掛かる。圧力の出所を探ってみたら、グアン兄弟社や魔道士組合はもとより、挙句の果てには統領府のトップから出ていることがわかった」

 

 ナツメは、大きく「はぁ」とため息をつく。

「あんたの勘違いじゃなければ、そいつら、よっぽど暇なんだねえ」

 心底呆れ果てたような口ぶりだった。


 実際、アルバロが挙げた各団体の “お偉方” は、ナツメとユースケが異世界から漂流してきたマレビトであることを知っており、「畏怖」「研究対象」あるいは「庇護欲」といった思惑から、二人を何かと過保護に扱うのだ。

 最近のナツメは、そんな彼らに若干の気詰まりを感じていたのである。


 しかし、そんな事情を知る由もないアルバロは、ナツメの言葉を挑発と受け取ったらしい。声のトーンに、かすかな険が混じる。


「貴方はいったい何者なのですか? ふらりと新東京に現れたと思えば、瞬く間にこの国の要人扱い。何より奇妙なのは、貴方ほどの魔道士の過去が、どれだけ調べても一切出てこないのですよ。まるで、ナツメ・カナワという存在が、突然この世界にポンと投げ込まれたみたいだ」


 記者の推測は、本人が思うより遥かに真実に近づいていた。だからこそナツメは、堪えきれずに吹き出してしまう。


「ふふ、ふふふ……お見事! 実はあたし、遠い宇宙の果てから来た宇宙人のようなものなんだ」


 アルバロは、その告白を突拍子もない冗談だと思い、抗議の声を上げようとした。

 しかしナツメが、遮るように言葉をかぶせる。


「いやあ、安心したよ。あんた、ほんとうに優秀な記者さんだ。ってことは、あの記事もまるっきりデタラメってわけじゃないらしい」


 無邪気な笑顔でそう絶賛されたものだから、毒気が抜けてしまったのだろう。


「……そう言えば、ルマルノ村の記事について確認したいことがあるとか?」


 気づけばアルバロは、話に乗せられてしまっていた。

 ナツメは内心で(しめしめ……)とほくそ笑みながら、本題を切り出す。


「実はさ、今請け負っている仕事が、どうやらあの事件に絡んでいるみたいなんだ。

でも、情報が少なくて困っちゃってね。だから、詳しい話を聞かせてもらえたら助かるなー、なんて」


 ところが、記者の反応はそっけなかった。


「……飯のタネを、そうホイホイ口にするわけにはいきませんよ」

「そりゃあまあ、そうだ」


 そこでアイラスが、ナツメにそっと耳打ちした。


「情報交換を持ちかけてみてはどうでしょう。われわれとしては、ゴンベ様からの

依頼を達成することが第一です。そのためなら、ある程度であれば、手の内をさらしてもよいのではないかと」


 ナツメは、進言に指でOKサインを返すと、アルバロへと向き直った。


「ところでさ。今、ウチの事務所で、頭のボケちゃった『彼岸の王』を確保しているんだけど――どう思う?」

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