青天の霹靂37(水族館)
それは、そろそろ夏も終わろうかとしている頃だった。
「廉夏」
「うん?」
「今度のいつでも、良いんですが、僕とデートしてくれませんか?」
「誰の差し金?」
うっさんくさそうに、廉夏は冬眞を見た。
「誰でも有りませんよ。僕気が付いたんです。デートらしいデートもなく結婚したことに」
冬眞は申し訳なく言った。
「ところで、誰かだったとして、僕に命令できる人なんて、誰が一番可能性があるんですか?」
「えっとねぇ、可能性としては廉兄かな?」
「廉さんに言われたとして、廉夏は僕が動くと思いますか?」
「思わないかな。確かに廉兄は上司だけど、仕事と関係ないことでは冬眞は動かないよね」
そう言われ、冬眞は笑った。
「ご明察」
「でも、お爺様に言われても、冬眞は絶対動かないわ」
「でしょうね。僕が動くとしたら、廉夏が原因としか考えられませんね」
「私?」
「ええ」
「でも、私何も言ってないよ」
「言ってませんね、確かに。でも、テレビでCMが流れる度に、目が訴えていました」
「えー、してないよ」
「無理しすぎでしたよ」
冬眞はクスクス笑う。
「してないもん」
「では、そう言うことにしておきましょう」
「してないのに・・・」
廉夏は小さな声で言う。
それに、冬眞は可笑しそうに笑うと、
「じゃあ、僕がしたいからでいいですよ」
「う~ん、何か負けた気分」
「じゃあ、どう言えば満足するんですか? 廉夏は?」
「う~ん、そうだね。冬眞が私とデートしたかったかな?」
「僕は、いつでもしたいですよ」
「本当に?」
廉夏は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、してあげる」
「お願いします」
「じゃあ、今週の土曜日なんて、どう?」
「土曜日に」
そうして、二人で出かけることになった朝、廉夏は雑誌を見ながら悩んでいた。
「決まりましたか?」
「う~ん、水族館とショッピング。どちらにしようか迷い中」
「両方にしたら、良かがですか?」
「え~、いいの?」
「ええ、今日は姫の仰せのままに」
そう言って、右手を一度頭の上まであげ、腰までおろすと恭しく冬眞は頭を下げる。
「じゃあ、まず水族館に言ってからショッピング」
「分かりました。何か、買いたい物でもあるんですか?」
「それは、ヒ・ミ・ツ」
そう言って、廉夏は意味深に笑ったのだった。
そして、二人は出かけた。
その出かけた水族館で、あんな事件に遭遇するとは、まだこの時の二人は知らない。
まさか、あんな事件に巻き込まれるとは思わない二人だった。
水族館に着くと、当たり前のように、冬眞が二人分のチケットを買った。
そして、廉夏に渡す。
廉夏も当たり前のように受け取った。
そして始まった、水族館デート。
廉夏はウキウキだ。
冬眞は笑ってそれを見ている。
微笑ましいデートだった。
でも、それは女性の悲鳴によって壊される。
廉夏が声のした方を見ると、女性が泡を吹いて倒れている。
冬眞は倒れている女性の首に触れる。
「どう?」
冬眞は静かに首を振る。
「残念ですが、もう、亡くなっています」
それを聞いた男が泣き崩れる。
「何で?」
男の鳴き声にもらい泣きするものもいた。
「廉夏」
「えっと、10時20分です」
冬眞は男に聞く。
「えっと、何か身分を示せるもの持っていませんか?」
「このあと、カラオケ行くつもりだったから、生徒手帳は持っているけど」
「それで、良いです」
冬眞は男から受け取ると、廉夏に声を掛ける。
「廉夏、お願いします」
廉夏は彼女の持ち物を漁る。
そして、生徒手帳を見つけ、冬眞に渡す。
「はい、これで良い?」
「ええ。えっと荒垣春菜さんと、内藤司さんですね。うわー、若い高校2年生、まさに青春ですね」
冬眞はそれが、分かるとスタッフのところへと行く。
何か話しているようだ。
たぶん、警察に人が亡くなったと通報する際に、荒垣春菜さんのことと内藤司さんのことも
調べてくれと頼むつもりだなと、廉夏は推察する。
「さぁ、死因は何でしょうか?」
「はい、先生」
廉夏は手を上げる。
「廉夏どうぞ」
「えっと、食べ物を食べていたから、毒ではないでしょうか?」
「たぶん、そうでしょう。泡も吹いてますし、本当は触って調査したいんですけど、刑事さんに怒られてしまいます」
「えっ、でも、アニメとかでは触りまくってよね」
「あれを実際にやったら、大事になります。死体には触れてはいけないんです。触れて良いのは監察官と警官だけです」
「ふ~ん、じゃあ調査出来ないんだ」
「ええ。ですが、警察の話を推察することは出来ますよ」
そうこうしていると、警察が来た。
廉夏達も知っているトメさんだった。
「お久~、トメさん」
「お、嬢ちゃんか、それに若造も」
「若造は酷いな」
「ワシには若造じゃよ」
「ま、良いですけど、こちらです」
と、トメを遺体のところへ案内する。
「また、若い女が、これからだろうに」
そう言うと、トメさんは手を合わせた。
科学捜査研究員の人も来ると、みんな手を合わせ、それから彼女の体を調べ始める。
彼女の飲んでいただろうカップを押収していく。
そうこうしてると、分かる。
科学捜査研究員の職員が慌ただしく彼女の首を何やら捜査している。
「何か有りましたね」
「ええ。本当に何かしら?」
トメさんが聞きに来る。
彼女が倒れたとき、近くにいた者を。
「内藤さんですね」
「やっぱりな。彼しかいないか?」
「えっ、どういうこと?」
「刺された位置だ。抱き締めていなきゃあんな耳の近くに針は刺せんじゃろう?」
トメさんが言う。
「そんなに、近かったの?」
「ああ、ほぼ耳の真裏だな」
冬眞は廉夏の方を向き、やおら手を引っ張る。
「キャ」
気付くと冬眞に抱き締められていた。
「冬眞?」
「おいおい、ラブシーンは他のとこでやってくれ」
トメさんが苦笑いで言う。
それに対して、冬眞は、
「こうすれば、ここを刺せますよね」
指でその位置を、刺すように触れる。
「確かに」
「何だ、殺人の再現か?」
「こんな場面でラブシーンをやるほど無粋な真似はしませんよ」
呆れたように冬眞は言った。
「抱き締めていなきゃ、逆にこの位置には、刺せません。何故彼女を?」
冬眞は内藤に聞く。
「お前等、女は男性が金を出して当然と思ってやがる」
「そうかもね。でも、男性はそれで女性より立場が上だと示してるんじゃないの」
「そう思っていない女が多すぎる。出すのは男でも、立場は女性の方が上。お前等女は女王様にでもなった気でいやがる」
「僕はそう言う女の子を可愛いと思いますよ。だって、無理してやってくれているんですから」
そう言われて、男は気づく。
「そうだ、あいつに我が儘を強いたのは俺だ。男らしさを回りに示すために、あいつに甘えてくれって言ったのは、俺だ。あいつは強請ることを嫌がっていたっけ」
「つまりは何。己の我が儘じゃない。男らしさってそもそも何?」
「それは?」
「あなたは男らしさとは、真逆にいるわ。あなたみたいな人のことを女々しいって言うのね。甘えて欲しいって、無理矢理やらせるものじゃないでしょう」
「廉夏言い過ぎですよ。でも、無理にやってくれていても、僕はやはり、女性は可愛いと思いますよ。家の姫は全然強請ってくれないから、僕は少し寂しいですけどね」
そう言われ、廉夏は少し慌てる。
「冬眞、寂しいの?」
「でも、無理してやることじゃないですからね。僕は今の廉夏が好きですよ、あなたは違うんですか?」
そう言うと、廉夏は感激したように、冬眞に抱きつく。
「おっ、と」
と言って、廉夏を受け止める。
「どうしました?」
「嬉しい」
「そうかもな。無理にさせるもので保つ男らしさって意味ないのかもな。あんたは男らしいよ、羨ましい」
男が寂しそうに言った。
「でも、男らしさって何かしら?」
「それは人によって、違うのでは? これって明確な答えはないと思いますよ」
「じゃ、これがあなたへの宿題だね。これから探すの。一生かけて、探しなさいよ。答えが見付かると良いね」
廉夏が言うと、男は、泣きながら頷く。
「あっ、そうだった日向君から伝言を預かってきたよ」
どうやら、トメに掛かれば、日向も君になってしまうようだ。
相手は警視なのに、からっきしの子ども扱い。
それに、ちょっと笑う。
トメに言われ、キョトンとする廉夏。
「日向何だって?」
「警察に電話せず、こう言うときは自分に直接電話しろじゃったかな。どうやら、自分をのけ者にしたのが、嫌じゃったみたいじゃな」
「了解」
「さて、このあとは、デパートですか?」
「今日はもう良いや」
「そうですか?」
「うん。なんか疲れた」
「それより、お土産。お揃いのもの持ちたい」
お揃いのキーホルダーだ。
「でも、あまり可愛いのは、NGです」
「そうすると、シュモクザメのキーホルダーとかかな?」
「車のキーに付けてくれる?」
「ええ、喜んで」
冬眞が会計を済ませると、店員さんの目前で、鍵に付けてくれる。
「私も付けよっと」
そう言って、家の鍵に付ける。
「お揃いだね。嬉しい」
「そうですね」
冬眞もにっこり笑う。
「あっ、待って忘れてた」
そう言って、また選び始める。
それは、水色の抱っこできる大きめのイルカのぬいぐるみだった。
両手に持って買いに行こうとすると、途中にあった何かお菓子の箱を持ってやってくる。
どうやら、お魚クッキーとパッケージに書いている。
「ちょっと待ってて」
「もう宜しいんですか?」
そう言って、冬眞は廉夏から奪うと会計を済ませる。
そして、レジ横に合ったものを、一つ入れる。
「何?」
「イルカの付いた指輪です。本物は今度買いに行きましょう」
それが、結婚指輪だと廉夏は直ぐ分かる。
廉夏は冬眞の腕にコツンと額をぶつけて、お礼を言う。
「ありがとう。冬眞」
「でも、宜しかったんですか? デパート」
「うん。明日、私だけで行っておく」
何だか、廉夏は、達成感に満ちていた。
なので、良いかと思う冬眞だった。




