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2000年代のギャルゲー世界に転生した  作者: 生姜寧也


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9/10

9:後輩ヒロインと知り合う

 テーブルの下で、こっそり腹を擦っていると、対面の少女がペコリと頭を下げた。


「あの、ありがとう……ございました」


「いやいや。俺の方こそ。これで満腹になったよ」


 そう答えるも、彼女の視線がチラリと俺のお腹の方へ向いた。慌てて擦るのをやめるが……これは気付かれちゃったかな。ただ彼女は「ふふ」と小さく笑うだけで、それ以上の追及はしてこなかった。


「私、小邑白雪こむらしらゆきといいます」


「え? あ、ああ。面影悠人です」


 自己紹介されたので返す。

 しかし、白雪とはまた名を体で表しているな。


「おもかげ……」


「あ、嫌じゃなかったら下の名前で呼んでくれても。俺の苗字、難読とは違うんだけど……」


 いつも初対面では「違う読み方するんじゃないか」と思われるみたいで、素直に「おもかげ」って呼んでもらえないことも多い。それもあって、あまり苗字の方は好きじゃないんだよね。

 あと、「おもかげ先輩」って呼びにくそうだし。


「わ、分かりました。ゆ、悠人先輩」


 呼ばせてから気付いたけど……初対面で名前呼びに誘導するとか、かなりギャルゲー主人公っぽいムーブをしてしまった。まあ実際そうなんだけどさ。

 

「あの。また席が空いてない時は……ご一緒しても、良いですか?」


「うん、もちろん。俺も空いてない時は御厄介になるかも」


 そこら辺は、公共の食堂だからね。相席は不可避。それでも、知らないヤツと食べるより、彼女のような可愛い子と食べる方が断然飯も美味くなるよな。


「……しかし、俺が先輩ってよく分かったね」


「あれ? 知らないんですか。ネクタイの色が……」


「あ」


 そういうことか。小邑さんの胸元についてるクソデカリボンは赤色。咲和のも同じ色だ。対して、茉穂やクラスメイトのは緑色だったか。俺のネクタイも緑。

 つまり学年で男女ともに色が分かれてる、と。


「そうだったね、忘れてたわ」


 ということにしておく。小邑さんも不審には思わなかったみたいで、小さく微笑んでくれた。


「あ、すいません。図書委員の仕事があるので」


「そうなんだ。うん、また」


「はい。悠人先輩のおかげで間に合いました。あのままだったら」


 まあ食べきれずに途方に暮れてただろうね。食べ物を大量に残すとか出来なさそうなタイプだし。

 最後に小邑さんはもう一度頭を下げてから、先に食堂を出て行った。

 ……しかし、あんな思慮深そうな子が後先考えずに再現したがる「焼きそばパン」か。今度、俺もトライしてみるか?






 担任の奥村先生が相変わらず簡潔なホームルームを終えて、放課となった。

 そして、例のマップが視界の端に浮かんでくる。

 

「ええっと……」


 お、図書室に青髪の女の子のアイコンが。小邑さんだ。出会いイベントを済ませたから、親密度を上げられるようになったってことかな。


「あとは」


 昨日あった体育館の「!」マークが消えちゃってるな。

 駅前に咲和のアイコン、昨日も行った商店街に茉穂のアイコンがあった。


「うーん」


 数学の授業の件では世話になったし、茉穂に会おうかな。ジュースくらい奢りたいところ。そういうイベントになるかどうかは分からないんだけどね。

 取り敢えず、茉穂を選択。すぐにマップは消滅した。


 昨日と同じく、学校を出ると南へ。商店街の入口に差し掛かるかというところで、ポンポンと肩を叩かれた。振り返ると、長い睫毛のおっとり美人。茉穂、本人だった。


「どうしたの~? お買い物~?」


「あ、いや。キミに会いに来たんだ」


 と正直に伝えると、少し面食らった顔をした後、照れくさそうにはにかむ。

 あ、今のはなんかキザったらしく聞こえたか。


「あー、その。今日の数学、助かったからさ。なんかお礼をしようと思って」


「な~んだ、そういうこと~」


 ホッとした風な、残念そうにも見えるような。

 気を取り直した茉穂は少し考える間をおいて、


「だったら~ウチの店、手伝ってよ~」


「店?」


 茉穂の家は自営業だったのか。


「もう~、またその記憶喪失ごっこ~?」


 ごっこと思ってくれてる方が好都合だな。曖昧に笑っておく。

 茉穂はゆっくりと歩き出し、商店街の中へ。怒ったワケではなさそうだけど……置いて行かれないように俺もついていく。すると入口から4軒目、和菓子屋の前で彼女はピタリと止まった。ガラス越しに、カウンターとショーケースが見える。その中には大福や饅頭といった和菓子が並んでいた。少し視線を上げて看板を見る。『和菓子 茜堂』とあった。


「ほら~、何回も来てるでしょ~」


「あ、ああ。うん」


 正確には昨日一回見たきりだけどね。でもそうか、ここが茉穂の家だったんだ。


「あ、お母さん」


 カウンター奥から出てきた女性……いや、茉穂と姉妹と言われても頷いてしまいそうな風貌の美人さんだった。あの人が、お母さんか。ということは、俺とも知り合いなんだよな。なら挨拶は「お久しぶりです」かな。


「ただいま~」


 俺の方針が固まらないうちに、茉穂が店へと入ってしまう。ああ、もう。仕方ない、出たとこ勝負だな。


「こ、こんにちは」


 一番無難な挨拶をする。


「まあ、悠人ちゃん」


 まさかの「ちゃん」付け。思った以上に親しいか、これは。

 おばさんは茉穂と同じピンク髪だけど、茉穂より目が細めで、よりおっとり感がある顔立ちだった。いかにも「あらあら~」とか言いそうな……


「あらあら~。今日はどうしたの?」


 言った。すぐ言った。


「ああ、えっと」


「アルバイト~。紙箱、作ってもらうんだ~」


 おお、既に具体的な手伝いの内容まで茉穂の中では決まってるみたいだ。


「そうなの。ありがとうね。終わったら、お菓子食べて行ってちょうだいね」


「は、はあ。ありがとうございます」


 一瞬、「これだけ旧知の仲ならタメ口かな」と思ったけど、どうやら過去の主人公クンも敬語は崩してなかったみたいで、おばさんは不審がるでもなく頷いた。


「じゃあ早速、作ろうか~」


 茉穂に手を引かれて、俺もカウンター内へ。奥の暖簾をくぐると、すぐに餡の甘い香りが鼻腔をくすぐった。熱気が頬を撫でる。すぐ作業場に繋がっているらしい。奥では、白衣の職人が黙々と手を動かしていた。

 へえ、和菓子屋の裏側ってこうなってるんだな。

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