8:カレー焼きそば
転生2日目。アラームの音に目を覚ますと、今日も気持ちの良い快晴だった。妹に起こされる前に、階下へ下りる。
咲和は俺の姿を見て、目を丸くした。携帯のアラームを使って自力で起きるというパターンが今まで無かったっぽいな。どうかと思うよ、過去の主人公クン。
配膳を手伝い、2人で朝食。咲和は「なんだか人が変わったみたい」と笑ってたけど……実際、変わっちゃったんだよなあ。前の主人公クンは「そういう設定」としてあるだけで、存在を奪い取ったとかではない……と信じたいよね。実態は、これも神のみぞ知る、だけど。
そして、昨日と全く同じ時間に玄関のチャイムが鳴る。すっかり準備万端の俺を見て、茉穂もまた目を丸くしていた。
「なんか人が変わったみたいだよね〜」
「ダリいとかも言わなくなったし」
ここら辺は、ギャルゲーマー全体の黒歴史でもあるよな。
高2病っていうか、キチンとせずに斜に構えてるのがカッコいいみたいな。そういうのを反映して「やれやれ系」とか「かったりい系」みたいな主人公が多かった記憶がある。
……大人になってみれば、カッコよくも何ともないということに気付くんだけどな。
「キチンと丁寧な生活を送れるなら、それに越したことはないからね」
と、答えると。2人は顔を見合わせた。やっぱり「人が変わった」ように映るんだろうな。
「ということは、今日当てられそうな所も予習済み~?」
茉穂がそんなことを訊ねる。
「えっと、一応宿題は全部やったけど……当てられる?」
「ほら、数学の山口先生。いつも出席番号順でしょ~?」
いつもと言われても。そうなんだ、としか言えないけど。
「昨日が上田クンだったから、今日は面影クンだよ~」
げ。そういうことか。
「あ、2年生でもそうなんだ。私のクラスでもそうなんだよね」
咲和が同調する。
奇を衒った当て方は全くしないらしい。だったら対策も容易、と言いたいところだけど。どこを当ててくるかまでは分からないからな。気は抜けないか。
しかし先生ごとのクセか。こういうのも、そういえば学生時代は一大事だったな。
「……教室着いたら、教科書もう1回おさらいしとこうか~」
今日やるであろう範囲を教えてくれるらしい。茉穂は優等生なんだな。考査より体育祭の方を嫌がってる雰囲気だったから、勉強>運動タイプだと推察する。
ちょっと憂鬱な気持ちと、幼馴染の優しさにホッコリする気持ちと。両方を抱えつつ、朝の時間を終えた。
ちなみに、茉穂の教えてくれた内容はバッチリで、「多分ここを当てられると思うよ~」と予想してくれた箇所がドンピシャだったという。
昼休み。今日は焼きそばパンは無いとのことで、実に平和な学食内だった。ちなみに大友は今日は弁当とのことで、教室で摂っている。多分だけど焼きそばパンの時だけ親に「弁当は要らない」と言ってるんだろうな。最初から退路を断って覚悟を持って臨んでるということか。そのモチベがどこから来るのかは知らんが。
「さて、なんにしようかなあ」
カレーライスが300円か。悪くない。ゴールデンウィークも1週間後くらいに控えてるから、そこまで節約しておきたいし。当分は300円以下を中心に回そう。スタミナ焼肉丼の500円が気にはなってるけどね。
「次の子、なんにする?」
「カレーで」
「福神漬けとラッキョウは?」
「あ、どっちもお願いします」
ラッキー。300円だから期待してなかったけど、そういう副菜もつけてくれるのか。
料理を受け取り、空いている席に座る。と、すぐに対面の席に誰かが座った。なんの気なしに顔を上げると、
「あ」
昨日見た青い髪の女の子だった。目の前で見ると、やはり顔立ちの良さが際立つ。透明感のある、という表現が適切だろうか、色白で儚げな印象もあった。だいぶ小柄なようで、俺より座高がかなり低い。
「……」
ジロジロ見ては失礼かと思い、彼女の顔から視線を下げる。と、今度はトレーが目に入った。焼きそばとコッペパン。焼きそばの方は学食で、パンの方は購買で買ったと思われる。
……これは、つまり。昨日、焼きそばパンを食べられなかったリベンジに、セルフで作ろうとしているんじゃないかと思われる。
「っ」
彼女は少し後ろめたそうにしながら、パンを両手で割る。中央からパカッといった。そして箸で焼きそばの麺を数本取ると、割れ目へと置いた。パッチワーク焼きそばパンの完成、かな。
「っ」
かぶりつく。俺もカレーを一口頬張りながら、チラリと顔色を窺ってみるが、
「……」
微妙な表情。
多分、思ってたのと違うんだろうな。
彼女はもう一口チャレンジ。首を傾げた。咀嚼をする度、表情が曇っていく。
まあなあ。パンに挟む用と、単体で食べる用では味付けが違うからな。
――もぐ、もぐ
黙々と食べ終わると。以降は焼きそばだけ食べて、パンを軽くソース溜まりにディップしてという形になってしまった。
俺も余計なことは言わず、目の前のカレーを片付けていく。
それから5分くらい経って、俺の方は完食したが、
「…………」
小柄な少女に、麺とパンのコンビはキツいようで、焼きそばの半分くらいが残った状態で、手が止まってしまっていた。
顔を窺うと、白い顔が紅潮していて苦しそう。
これは……流石に。
「あのさ。ひょっとして、食べきれない?」
勇気を出して声をかけてみる。すると少女は少し驚いた後、コクコクと頷いた。
「限界、です」
やっぱりか。
「俺、ちょっと足りなくてさ。良かったら、貰っても大丈夫?」
間接キス的な感じが、そこはかとなくあるので、おずおず提案する。
だが彼女の方は、そんなことも考える余裕が無いみたいで、
「い、良いんですか?」
「うん。もちろん。俺が言い出したんだから」
答えると、彼女は心底助かったという安堵の表情を浮かべた。自分の箸をどけ、皿をこちらに渡してくる。
「お、お願いします」
「うん」
こっちもテーブル備え付けの割り箸を割って、焼きそばの残りを頂く。カレーを食べた後だけど、なんとか腹の中へ収めることが出来た。




