7:自室を捜索する
家に帰ると、既に咲和は帰宅していた。エプロン姿のまま、パタパタと玄関まで駆けてくる。
「おかえり。遅かったね」
「ああ、うん。寄り道してたから」
「へえ。何してたの?」
「あー、えっと」
まさか20年前の空気に浸りたくて、商店街で1人黄昏ていたとは言えない。
「ちょっと……プラプラしてただけだよ」
「ふうん。買い食いはしてない? 夕飯は食べられる?」
「ああ。何も食べてないよ。コーヒー飲んだだけ」
俺の返事を聞いて、満足げに頷くと、咲和は再びリビングへと入って行った。何気ないことだけど、兄が帰って来ただけで料理の手を止めて迎えてくれるって……凄い良い子だよな。ていうか、そもそも当たり前のように兄貴の分まで飯作ってくれてるとか女神だよ。
手を洗って、2階へ。本当は飯の支度を手伝うのが筋なんだろうけど……まずは自室の把握をしないといけないんだよな。
俺は机の引き出しを片っ端から開けていく。文房具の替え、ガラケーの説明書……
「あ、そうか」
俺もガラケーくらいは持ってるんじゃないのか。と、机の上に視線をやると、普通にあった。今朝はバタバタしてた(というか転生したてで混乱してた)から見落としてたみたいだけど。
「スマホは瞬時に諦めたから、それで携帯電話自体も無いものとして認識してしまってたな」
2つ折りの筐体をパカッと開く。かなり久しぶりなのに、片手の親指で弾く慣れた動き。教科書を机に仕舞った時も思ったけど、意外と体って色々覚えてるんだよな。
「あー」
時刻表示と、画面下にメールやフォトフォルダのショートカットが。今見ると簡素だなあ。
「連絡先は……両親と咲和、茉穂と大友か」
大友は「颯太」と入っている。となると、呼ぶ時もそっちに合わせた方が良さそうだな。いきなり苗字呼びになったら、向こうもショックだろうしな。
携帯を置いて、家宅捜索に戻る。
「本棚は……少年マンガばっかりだな」
ていうか多すぎ……いや、そうか。電子書籍が無いから、大して読まなくなった作品も紙ベースで置いておかないといけないのか。それか古本屋に売ってしまうかの二択。
本棚の上には飛行機のプラモデルと地球儀があったが……両方、埃かぶってそうだな。
「タンスは服が入ってるだけだな。残りは押入れか」
襖を開けて中を見る。特に変わった所は無さそうだな。実に質素な生き方をしているっぽい。まあ高校生だし、そんなに贅沢品は……
「ん?」
上の段に微かな違和感。天井部か。ペン型の懐中電灯が置いてあるので、それを使って照らす。下から覗き込むようにして確認すると……どうも隠し収納みたいなスペースがあるっぽい。嵌め込み式の板を外してみる。ポッカリと空間が広がっていた。
「やっぱり収納だな」
中へ手を入れて、ゴソゴソと探る。何かが指先に当たった。どうも本の背表紙みたいな感触だな。引っ張り出してみる。
「あ……」
白日の下に晒されたそれは……エロ本だった。『美少女との24時間』とか、『あの大人気グラドルが待望のデビュー』とか生々しい文句が踊っている。
「そうだよな。17歳だもんな」
37歳でもエッチな動画観るし。過去の主人公クンが、妹の目を盗んで溜め込んだ叡智の結晶。俺はそっとそれを元の場所へ返した。あるいは俺もお世話になることもあるんだろうか。スマホも無いし、自室にPCも無いみたいだし。
「お兄ちゃ~ん。ちょっと早いけど、ご飯出来たから食べようか〜」
階下から咲和に呼ばれる。時間切れみたいだ。まあ大体のところは捜索できたし、良しとしよう。
そのまま階段を下り、リビングに入る。
と、
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放課後イベント
1:茜町商店街
学校の南にある『茜町商店街』へ初めて行った。
肉屋がコロッケを揚げていたり、
中古CDショップが残っていたり、
全てが懐かしかった。
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お、おお。放課後の終わったタイミングで、こういうのも出るのか。また視界の端をジャックされているけど、椅子に座っている咲和には見えていない様子だ。学校の時も誰も騒いでなかったし、やっぱり主人公である俺にしか見えないヤツみたいだな。
「……」
なんか、コンプリート要素もあるんだろうか。こういうの集めるのも好きなんだよな。自分だけのアルバムみたいに出来そうだ。
まあ、取り敢えず今はご飯だな。テーブルの上には、咲和お手製の豚丼とサラダ、味噌汁。ガッツリ頂いて、腹を満たす。
その後、風呂に入って歯を磨いて就寝した。慣れない天井を見ながら、一日を振り返る。
「なんというか、貴重どころじゃない体験をしてるよなあ」
昨日の仕事中の俺に言っても絶対信じないだろうな。明日オマエは死んで、2000年代のギャルゲーの世界に転生するんだぞって。信じるどころか「働きすぎて、明日の自分は遂に頭がおかしくなるんだ」と思われそうだ。
「でも本当の本当。現実だ」
咲和の料理の味も。茉穂に手を引かれた感触も。クラスメイトたちの笑い声も。夕焼けの商店街で聞いたドヴォルザークも。
「……いつまで、ここに居られるんだろう」
何も言われないまま転生をしたんだから、何も言われないまま終わらされても、なんらおかしくはない。
ただ、そこまで考えても不思議と恐怖は無かった。元々、死人だからな。アディショナルタイムを、人生で一番楽しかった時代で過ごさせてもらってる。いつ神様の都合で終わらせられても、文句は言えないかな。
「恋愛したら……別かも知れないけど」
死(あるいは消滅)が怖くなるかも知れない。
「……」
今は考えても仕方ないか。まさに神のみぞ知る、だからな。
目蓋を閉じる。すぐに眠気に襲われ……そのまま俺の転生1日目は更けていった。




