表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2000年代のギャルゲー世界に転生した  作者: 生姜寧也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

5:この時代の学食なら

「であるからして、この助詞の役割としては……」


 4限目の現代文。担当教師の平坦な声で授業が続く。

 遥か昔に習ったことだけど、まあ全く覚えてないよね。


 ――キーンコーンカーンコーン


 チャイムだ。教室全体に一瞬で解放感が満ちる。日直の号令の後、教師が足早に教室を出ていった。


「よっしゃ! 昼休みだ!」


 大友が叫びながら、教師を追い越さん勢いで教室を出る。


「コラ! 大友颯太おおともそうた! 廊下は走るな!」


 無事怒られる声が聞こえてきたけど……なんだ、あれ。


「今日は焼きそばパンがある日だからね~」


「焼きそばパン?」


 左隣の茉穂にオウム返しで訊ねる。


「それも覚えてないの~? 本当に記憶喪失になったみたいだね~」


 ワードのチョイスは剣呑なのに、のほほんとしてる茉穂。

 

「ウチの購買の名物だよ~。美味しいんだって~」


「その言い方だと、茉穂は食べたことないの?」


「私はお弁当あるから~」


 聞けば母親お手製とのこと。ウチの小さなお母さん(咲和)も流石に弁当にまでは手は回らないみたいで、昼はどうも自前で調達しないといけないらしいんだよな。

 俺も学食か購買に行くか。茉穂に挨拶をして、席を立つ。学食って……どこだ。まあ人の流れについていけば、辿り着くでしょ。ということで、モブたち(失礼)のスニーキング作業を開始し……目論見通り、1階の南端に位置する学食へと到着。

 ガラス戸を開け、中へ踏み入ると、


「おお、凄い人数だ」


 学生の数よ。この時代も少子化は叫ばれていたと思うけど、まだまだ令和に比べれば多いね。

 横長のテーブルがいくつも並び、そこにみんな腰掛けて、麺や丼を食べている。早いな。そうか、1階に教室がある3年生か。更に大友のようにチャイムと同時にダッシュで来た連中も居るんだろう。


「おばちゃん! 焼きそばパン!」

「こっちも!」


 学食の左端。そこが購買部みたいで、男子学生たちの大声が響いている。やっぱり大人気みたいだな。大友は無事に買えたんだろうか。

 取り敢えず、俺は学食の方へ。こっちも列は出来ているけど、まあ常識の範囲内だった。レーンの端について、トレーを手に持つ。壁に掛かったメニューを見上げると、


「安いなあ」


 ラーメンが250円とか笑う。あ、ていうか。

 俺はスラックスのポケットから財布を取り出す。中身を検めると、2200円しか持っていなかった。完全に社会人の俺の財力のつもりでいたけど、そうだよな。この時代の高校生なら、お小遣いが月5000円くらいか? 月の後半だし、これくらいになってるのが普通だ。


「次の子。なんにする?」


 恰幅の良いおばちゃんが、カウンター越しに聞いてくる。


「か、かけうどんの大盛で」


 〆て200円。一番安いメニューだった。

 料理を受け取り、空いている席に座る。と、すぐに隣にも人が来た。大友だった。


「よう。そっちはうどんかあ」


「まあ、うん」


 チラリと大友の手元を見ると、焼きそばパンとカレーパン、サンドウィッチを持っていた。どうやら無事に争奪戦に勝利したみたいだな。

 購買の方に視線をやると、焼きそばパンは売り切れたみたいで、出遅れ組たちの悔しがる絵面が広がっていた。

 

 と、その中に。青い髪の少女を見つける。男子たちみたいに下品に悔しがっているワケじゃないけど、シュンと下を向いてしまっていた。小柄な体格も相まって、小学生や中学生が落ち込んでるようにも見えてしまう。


「ああ、あの子か。1年生だな。何度か争奪戦に参加してるのは見たことあるけど、いっつも押し負けるんだよな」


 大友が俺の視線を追って彼女に気付いたようで、詳しく教えてくれる。

 一瞬「そこまで分かってるなら、オマエが代わりに買ってやったらどうだ?」と思ったけど。それを他人に求めるのは違うよな。お金持ちのSNSに「○○に寄付されてはいかがですか?」とクソリプ飛ばす連中と変わらない。

 ……可哀想と思うなら、俺自身があの争奪戦に勝って、それを渡すのが筋だ。


 と、俺の沈黙を変に受け取ったらしい大友が、


「なんだ。悠人はああいう子がタイプか?」


 頓珍漢な推察に、鼻から息が漏れる。


「いや、違うから。まあ、可愛い子ではあると思うけど」


 遠目ながら、色白の肌にキレイな鼻筋が見える。

 他の生徒たちより、なんというか際立って見える。ということは、メタ読みで申し訳ないけど、攻略ヒロインなんじゃないかと。生前に見たゲームパッケージにも載っていたような気がするし。


「なんだ煮え切らないなあ。今朝も言ったけど、あんだけ可愛い幼馴染が居て、他の女の子にも興味が無いワケでもなくて……」


 大友はそこで小さく嘆息する。


「一度しかない高校生活だぜ? カノジョ作りたいとか無いのかよ?」


「あー、うん」


 これは、いわゆる1つの「男友達に発破かけられる」イベントか。


「カノジョ……」


 もちろん、欲しくないと言えばウソになる。生前も、からっきしモテなかったし、折角のギャルゲー世界転生なんだから活かさないのはアホだとも思う。

 けどなあ……そもそも俺がこのゲームを手に取ったのは、女の子を攻略したかったとかじゃないんだよな。あの時は疲れ切っていて、ただ人生で一番楽しかった時代の空気感に浸りたかった。いわば現実逃避というか、懐古というか。


 モゴモゴしてる俺に、業を煮やしたのか。大友は「か~!」と威勢の良い間投詞を入れて、


「そんなんじゃ手遅れになるぞ」


 手遅れになった未来から来てるんだよなあ。


「とにかく、気になる女の子が居たら、どんどん話し掛けていけ」


 ゲーム攻略のアドバイス……いや、実際ゲームに限った話じゃないか。自分から積極的にいかないと何も始まらないのは、前世の37年で十分に理解してる。


「あ、ああ。ありがとう、そうしてみるよ」


 現実逃避という後ろ向きな姿勢から、積極的なエネルギーを多大に要する恋愛か。そこまで変われるかは現時点では分からないけど……その可能性までは否定しないでも良いのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ