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2000年代のギャルゲー世界に転生した  作者: 生姜寧也


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4/10

4:二度目の高校生活が始まる

 茜市立第三高等学校。それが俺たちの通う高校の名前だ。あれから5分ほど歩いたところで、道は緩やかな上り坂となり、登りきった先に校舎はあった。古くも新しくもない、打ちっぱなしのコンクリートの外壁。中央には大きな時計と、そこから左右に窓列が見える。3階建てかな。陸屋根の屋上には、緑色の金網フェンスが張られていた。

 校庭から校舎までは石畳が続いていて、だけど半分くらいは砂に埋もれかけていた。


 ――♪♪


 吹奏楽部の朝練だろうか。かすかに楽器の音も聞こえてくる。


「……学校だなあ」


 前世の時にも、近所に高校はあったけど。見えるのは外塀越しの校舎くらいで、こうして門から入って堂々と正面を見る機会は無かった。

 どうしても、まだ社会人の意識も抜けきらない心理状態だから、「俺が入って良いのか?」という戸惑いは反射的に生まてしまう。

 と、そこで。肩に軽い衝撃。誰かに叩かれた? 慌てて振り向くと、小麦色の肌をした短髪の少年が居た。なんだ? 誰だ?


「おっす。悠人」


「えっと」


 これは知り合いパターンか。


「あ、おはようございます。大友先輩」


「大友クン、おはよ~」


 咲和と茉穂が挨拶をする。どうやら、少年は大友おおともという苗字らしい。


「2人とも、おはよう。しかし悠人、相変わらず羨ましいぜ。毎朝、両手に華じゃねえか。このこの」


 腹に軽く拳を入れてくる。メッチャ馴れ馴れしい。そしてノリが古い。

 恐らく、コイツは男友達ポジションってヤツだろうな。


「咲和は妹だから」


「それでも羨ましい。俺もこんなに可愛くて、優しい妹が欲しかったぜ!」


「そうだよ、お兄ちゃん。私にもっと感謝しないと」


 それは、まあ。多分これまでも家事とか色々やってくれてたんだろうしな。朝食も美味かったし、家中どこもキレイだった。


「うん、ありがとう。いつも助かってるよ」


「へ!? あ、あう……」


 素直に感謝を伝えると、咲和は赤面して俯いてしまった。主人公は、妹にこういうこと、普段から言ってない設定か。社会人の感覚としては、飯は最悪外食で済ませられるけど……掃除してくれるのは本当に神なんだよな。今はポピュラーじゃないと思うけど、20年後には掃除代行なんて職業も割と需要あるくらいだからね。


「わ~、珍しいね~。悠人クンが、そういうこと言うなんて~」


 茉穂もそういう認識らしい。


「ま、まあたまにはな。本当に大変だからな、家事って」


「な、なんか身に沁みた感じで言ってねえか?」


 大友が少し怪訝そうに。

 と、そんなやり取りをしている間に、校舎の入口まで来た。


「じゃ、じゃあね。お兄ちゃん」


 まだ少し照れ気味の咲和は、逃げるように先に入ってしまった。多分、下級生の下駄箱エリアに行くんだろうな。今更だけど、咲和は1年生か? それで俺と茉穂、大友は2年生だろうか。


「どうしたの~?」


「いや、俺の靴箱って……どこだっけ」


「本当に今日、オマエ大丈夫か?」


「あ、あはは」


 笑って誤魔化す。

 その後、優しい茉穂が案内してくれて無事に上履きに履き替えることが出来た。ちなみに2年3組みたいだ。茉穂と大友も同じクラス。これは心強い。






 教室に入る。なんとも言えない、木と油のニオイが混ざったような。椅子を引く音、クラスメイトたちの朝の挨拶。そこに差し込む春の朝日。


「ああ……」


 思わず声が漏れる。

 今朝は度々こうなる俺を見越してか。茉穂が手を引っ張ってくる。


「そんな所に立ち止まってたら、邪魔だよ~」


 確かに。

 そのまま彼女は俺の手を引いて、席まで案内してくれた。隣同士みたいだな。

 椅子に座って、机を見る。なんの変哲もない天板。少しだけカッターの刃の跡があるのは、誰かのイタズラか、授業で使ったのか。


 カバンから教科書類を取り出し、机の中に仕舞う。ああ、この動作も20年ぶりだ。逆に言うと、20年経っても体が覚えてるんだよな。


「また固まってる~」


 クスクスと茉穂が笑ってくれる。大らかな子だよな。自分で言うのもなんだけど、幼馴染の様子がここまで変でも、笑って受け入れちゃうんだから。

 準備を終えたところで、ちょうどチャイムが鳴った。その少し後に、担任の先生が入ってくる。ヒゲの濃い40代くらいの男性だった。


「よーし、ホームルーム始めるぞ」


 生徒たちはお喋りを止めて、前を向き直す。


「何度か伝えてるが、来月の真ん中に中間考査があるからな」


 茉穂が少し嫌そうな顔をした。クラスメイトたちも大体似たような反応だろう。俺としては、中間テストすら懐古を覚えさせるものだったけど……まあ普通に直前になったら萎えるんだろうな。


「その後は体育祭が控えてる。考査が終わったら、本格的に準備が始まるぞ」


 こちらの反応は悲喜こもごも。運動が苦手な子は不満げな様子で、得意な子は目を輝かせている。茉穂はさっきより嫌そうな顔をしてるから、勉強より苦手なんだろうな。

 俺は学生時代は可もなく不可もなくだったな。チームに貢献するほど出来たワケでも、足を引っ張るほど不出来だったワケでもない。


 ……しかし、こうして聞くと、学生時代ってなんだかんだイベントが目白押しだったんだな。学生は楽で暇、みたいな風説があるけど、案外そうでもないのかも。ワンチャン、リモートで上手いことサボりながら働いてるヤツの方が楽なんじゃないかとすら思ってしまう。


「あとは春だからなあ。変質者に気を付けろよ」


 春に変質者が増える理論。これも謎だったなあ。

 

「こんなところかな。それじゃあ、ホームルーム終わり」


 とだけ告げて、担任はサッサと教室を出て行ってしまった。周囲の空気が、また少し弛緩する。1限目が始まるまでの僅かなインターバル。


「相変わらず、奥村先生の話は短いね~」


「あ、うん」


 サクサクした人だとは思ったけど、やっぱり学生の評価もそうなんだ。校長先生を筆頭に、教師の話は長いのが世の常だから、話が簡潔というだけでも高ポイントになっちゃうんだよなあ。

 担任の奥村先生は、割と生徒から好評、と。人物相関も少しずつ把握していかないとな。

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